アラブ首長国連邦(UAE)で「YOKU MOKU」バカ売れ:湾岸諸国で活躍する日本の小売業

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中東・北アフリカ(MENA)地域でひときわ注目され、日本企業が集積しているのがアラブ首長国連邦(UAE)だ。現地で取材をして、行く先々で聞こえてきたのは「YOKU MOKU」の大人気と巨大書店「Kinokuniya」(紀伊國屋書店)の存在感だった。中東と言えば石油産業や日本車メーカーばかりが目に付くが、実は日本の小売流通業の奮闘ぶりが見えてきた。

UAEは日本企業の中東ビジネス拠点

日本企業数は、UAE全体(2014年5月現在)で431社、特に躍進する商都ドバイは323社に上り、まさにビジネス・ハブの様相を呈している。多くの日本企業が、ドバイ、アブダビを拠点にMENA地域22か国の石油、自動車販売、公共事業、観光、流通などのビジネス展開をしている。

世界の金融市場を襲った「ドバイ・ショック」が起きたのは2009年11月。UAEのドバイ首長国政府系の持ち株会社ドバイ・ワールドが債務590億ドル(約6兆円)の繰り延べ要請を発表し、主に欧州で金融株やユーロが下落したショックだ。欧州はその後遺症から完全には抜け切れていない。 

しかし、テロと政治・経済的混乱が続く中東地域にあって、6年後のドバイは絶好調そのもの。その理由は、アラブの春(2011年)以降、UAEの“独り勝ち”状況が継続しているからだ。皮肉だが、治安の良さ、経済投資の活発さ、観光事業の躍進など、UAEには中東周辺諸国からの裕福層資産の流入だけでなく、ポテンシャルの高いMENA市場をにらんだ世界各国からの投資が高水準で継続している。

ちなみに、UAEは人口826万人(2010年国家統計局)で、自国民は約100万人しかいない。9割は外国企業の従業員やインド、パキスタン、アラブ諸国など近隣からの労働者で占められている。国土面積も8.36万㎢で、ほぼ北海道の大きさ。7つの首長国で構成する連邦国の首都はアブダビだが、商都ドバイは埼玉県くらいの広さしかない。

“YOKU MOKU”がバカ売れするUAE

ドバイと言えば、世界1の超高層ビルである「バージュ・ハリファ」(2010年完成、828メートル、160階)が有名だが、そうした新たな観光資源開発もあって、ドバイ国際空港の旅客者総数は2013年に7048万人を記録し、英国ロンドンのヒースロー空港を抜いて世界1となった。

第2国際空港のアール・マクトゥーム国際空港の整備も着々と進められており、2020年には年間9800万人を受け入れることのできる中東最大のハブ空港となる。ちなみに、成田空港の年間の旅客者は14年に国内を含め約7000万人を記録したが、海外からの旅客数は803万人でしかない。

ドバイ・モール内の「ヨックモック」で、丁寧にお辞儀する従業員

2020年には国際万国博覧会のドバイ開催も決まっている。このため、絶好調の観光産業を背景に、高い消費意欲を見込んだ世界の多くの外資系小売業の進出が目立っている。

ドバイは世界の主要小売店の進出数で、ロンドン、パリ、ニューヨークに次ぐ、世界4位。外国人居住者を含めブランド、高級志向が強い一方で、価格に厳しいという。高いだけでブランド力がなければ無視される。

その中で、日本の洋菓子「YOKU MOKU」がUAEでバカ売れしている。日本国内ではデパ地下を中心に180以上の店舗を展開するYOKU MOKUは、サクサクとした歯ごたえの甘味控えめの菓子で、贈答品やお土産によく利用されている。葉巻を意味するクッキー「シガール」が人気商品だ。 

3年で“高級洋菓子ブランド”を確立

株式会社「YOKU MOKU」(東京・青山)が現地企業と組んでアブダビに初出店したのは2012年10月。現在はUAE内に13店舗を構え、販売価格も日本の2.7倍という高値にもかかわらず、飛ぶように売れている。しかも大量買いだ。

UAEで一番売れている店は、日本国内のトップ店舗と肩を並べるというからすごい。「甘さ控えめ」のサクサク感と上品さが気に入られているが、今やUAE国民にとって“YOKU MOKU”は高級洋菓子として定着しているようだ。現地の人によると「箱入りで、本数が多いのがいい」というから、日本からUAEに行くときのお土産はYOKU MOKUに限る。世界最大のショッピングモール「ドバイ・モール」(The Dubai Mall)の中にある店舗YOKU MOKUの店員の深々と下げるお辞儀、“手渡し販売”という文化も気に入られている。

世界最大のモールで存在感示す巨大書店「Kinokuniya」

そのドバイ・モールの中で、もう1つ存在感を放つのが巨大書店「Kinokuniya」だ。入り口はさほどではないが、ワンフロア、総面積6000㎡の広大な売り場に圧倒される。英語書籍が中心だが、アラビア語をはじめ多言語書籍、人気のマンガ・アニメ雑誌を含む日本語書籍など50万冊超、さらに文房具など品揃えは豊富だ。

「Kinokuniya」ドバイ支店と川上幸弘店長

ドバイ支店長の川上幸弘さんによると、出店は「シンガポールの店舗で働いていたUAE関係者の依頼で、約3年協議して実現した。当時の経済開発庁長官からもシンガポールより立派な店舗という強い要請があった」という。ドバイ・ショック直後の2009年11月の開業で間もなく開業7周年を迎える。広さはシンガポール支店の1.5倍の広さになった。

何しろ、ドバイ・モールの年間利用客は14年に8000万人で世界1を記録した。日本のディズニーランドが3100万人だから、その集客力は尋常ではない。総面積約111.5万㎡、屋内フロア約55万㎡で、カナダのウェスト・エドモントン・モール、中国の華南MALLなどを上回る世界最大モールだ。約1000店舗が入居、ほかに水族館や、ウォーターフロントアトリウムなどが展開されている。

日本人管理者は「たったの3人」、売れ筋はビジネス関係

川上支店長によると、利用客の半分は近隣諸国からの旅行者で、「平均3.5冊のまとめ買い」をしていくという。売れ筋は、やはりビジネス関係。人気の秘密は「日本的なスタイルのサービス。それに種類の多さと、他では入手しにくいロングテールの書籍の品揃え」だという。店内のポップな雰囲気やこだわりを感じさせる書籍の陳列も魅力だ。

子供たち向けのおもちゃ、コレクターに人気のフィギュアも充実している。イスラム国なので検閲には気を配り、規制にかからないように性的表現や宗教的内容に問題あるものは、販売を止めている。

気になる管理だが、「従業員は約100人で、日本からの従業員はたったの3人」という。紀伊國屋書店は1969年のサンフランシスコ第1号店のへ出店から、「日本人は少数」という基本を貫いている。すでに海外8カ国・地域で店舗展開しているが、ドバイは営業時間が長いため、3交代で勤務しているそうだ。

外資規制で、「看板は日本、経営は現地」が主流

UAEの「YOKU MOKU」や「Kinokuniya」は、小売業の海外進出の成功例だが、課題も残っている。ドバイ・モールでは、このほか100円ショップの「DAISO JAPAN」、「MUJI」(無印良品),回転寿司店など日本系企業を見かけた。「ザ・ダイソー」を運営する大創産業は2004年にドバイに初進出した後、湾岸諸国に40店舗以上を展開している。

「manga sushi」とメイドスタイルの従業員(右)

しかし、現地の日本貿易振興会(JETRO)の西浦克次長によると、「UAEは法人税や所得税はないが、観光促進手数料など手数料が実質的な税金になっている」とするとともに、外資系企業の進出についても「フリーゾーン(経済特区)以外では、資本は49%までという外資規制がある」と指摘した。つまり、看板は日本でも、実質の経営は現地主導ということになる。

日本で一部に知られる、ドバイのマンガを置いてある寿司店「manga sushi」も、経営は漫画、アニメ好きの現地人。働く従業員もフィリピン、ネパール、シンガポール人で、客の大半がアラブ人だという。味はうまかったが、生ものを食べる習慣がないため、寿司は火を通したウナギやエビ、野菜系のアスパラガス、アボカドなどが中心。メイド風のスタイルをした従業員女性の一人は、「大阪繁華街ミナミのレストランで3年間働いた」経験があるということだった。

また、ドバイのコンテナ店舗が集積した地区に15年3月に開店したばかりの「YAMAHA Café」も、ヤマハのオートバイ展示や無料ゲームで人気の店だが、経営者は現地人で日本人ではなかった。外資規制に加え、厳しい競争の小売業だけに、UAEで成功させるのは容易ではない。しかも、日本の世界的なブランドでもある「ユニクロ」はまだドバイに進出していない。

カバー写真=高層ビルが林立するドバイ市内

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