露中接近は、日本への脅威となりうるか?
戦勝70周年記念式典から見えたもの

ワシーリー・モロジャコフ【Profile】

[2015.06.05] 他の言語で読む : 简体字 | 繁體字 | Русский |

主賓はやはり習近平主席

2015年5月9日、多くのロシア人がそうしたように、私もテレビ生中継に見入っていた。視聴者の中には、新しい兵器が気になった人もいただろうし、パレードの隊列を注視していた人もいただろう。私に関して申し上げると、軍事にはほとんど関心がない。その代わり、私はパレード会場の貴賓席で繰りひろげられる出来事にすっかり気をとられていた。

貴賓席の中央は、プーチン大統領。ロシア軍の最高司令官である。その隣には、ショイグ国防大臣。その隣には・・・・・・ あれ、メドヴェージェフ首相ではない? 隣に座っていたのは、主賓である中華人民共和国国家主席、中国共産党総書記の、“習近平同志”であった。

2015年5月9日 ロシア国旗の三色が大空に見事に描かれる(出所:ロシア大統領府広報室)

露中首脳が並んだ姿を世界が注目

習近平国家主席(出所:アメリカ合衆国政府)

目の前に、酒が半分だけ入った瓶があるとしよう。悲観的な考え方の人なら「もう半分になってしまった」、逆に楽観的な人は「まだ半分も残っている」と捉えるかもしれない。主要国(G7)のリーダーがことごとく欠席したことは、ロシアの孤立を際立たせるような印象だった。この場合、悲観的な人は「ロシア側には中国しかいない」、楽観的な人は、「(G7首脳こそ欠席したが)その代り、中国は私達と一緒だ!」と言うのではないか。今日の国際政治や経済において、「中国が何者であるか」は敢えて今さら説明するまでもないだろう。

もし、5月9日の「赤の広場」での戦勝パレードで、プーチン大統領と並んでいるのが、ナザルバエフ(カザフスタン大統領)やラウール・カストロ(キューバの国家評議会議長、国家元首)やムガベ(ジンバブエ大統領)だけだったとしたらどうだろうか。

それにしても、習近平主席が式典に列席したことは、オバマ大統領やキャメロン英首相やメルケル独首相が欠席したことの「埋め合わせ」となりうるのだろうか。いろいろな考え方ができると思う。プーチン大統領も習近平主席も赤の広場での再会を喜んでいるだろうとは思う。しかし、それ以上に、全世界が二人の並んでいる姿を注目したことの方が、彼らにとって大きな喜びだっただろうことは疑いがない。

5月9日の前後に、私は日本の知人達から質問を受けた。9日の前と後では、質問の仕方さえ違ったが、その本質は同じであった。つまり「日本にとって、ロシアと中国の接近は、どのような脅威となるのか」ということである。別の言い方をすれば、ロシアは、中国の反日政策に加担するのかということである。私にこのような質問を投げかけた日本人達は、中国の政策がことごとく“反日的”だということに疑いすら抱いていないようであった。

明治時代の浮世絵師、楊斎延一による「鳳凰城の戦い」(日清戦争1894-1895年)(パトリシア&フィリップ・フロスト美術館所蔵)

中国の政策はもともと“反日的”?

ひょっとして、私は必要以上に楽観的な見方をしているのかもしれない。私は原則、中国の政策のすべてが反日的なもの、つまり日本に意識的に敵対するものであると考えてはいない。

もちろん、日中の間では熾烈な経済競争が続いており、その規模たるや、今日では、地域内レベルからグローバルなものにまで拡大しつつあるのが現実(すでに拡大したと言えるかもしれない)。私には、この経済競争こそが、歴史的出来事への責任追及なども含んだ中国による一連の政治活動の背景だと思われてならない。皮肉に聞こえるかもしれないが、今日、このような熾烈極まりない経済貿易摩擦の中で、日本による「対中侵略戦争」に関する論議をぶり返すのは、非常に時機を得ていることになる。そう、間違いなく、米国に、日本にとって不利な心証を与えることとなるだろう。

日中経済競争は、どのような政治的・プロパガンダ的な騒音を伴っていたとしても、戦争や深刻な紛争にまみれていない“自然発生的な現象”であろう、なぜなら、日中間には、あまりにも膨大な額のカネが飛び交っているからだ、それも、日本や中国のカネだけではない。米中間についても同じで、膨大な額のカネが飛び交っている。あまりにも膨大な額というのは、本物の紛争を起こしてしまったら、皆が大損をするほど膨大だということだ。

露中「軍事ブロック」は可能なのか?

ロシアと中国の同盟は、想像力を思い切り働かせてみれば、現実的にみえることもあるかもしれない。しかし、日米同盟関係に対抗する軍事・政治同盟としての露中同盟は、決して現実的な選択肢ではないのである。

ロシア語のネット空間では、露中同盟関係を呼びかけるだけでなく、日米同盟に直接対決しようとの声も頻繁に上がっている。しかし、プーチン大統領自身は、赤の広場におけるパレードの開始前の演説で、「軍事ブロック的な思考」そのものを否定する発言をした。

中国との深刻な紛争勃発は、ロシアにとって極めて危険なことである。地図で両国間の国境の長さを見てみるだけで充分に理解できる。さらに人口分布地図を見れば一目瞭然であろう。米国との紛争もロシアにとって、同じ位危険である。

私の日本の知人達がどうやらその存在を信じているらしい中国の「反日陰謀」について、ロシアが関わる理由などまったくない。知人達は、赤の広場でのスピーチで、プーチンが「日本軍国主義」に言及したことに大いに注意を払っている。つまり「プーチンが安倍に不満を抱いている強いシグナル」だと言うのである。

歴史の専門家は、1944年11月7日にスターリンが初めて公式の場で、日本を『侵略国家』の一つ、ソ連と反ヒトラー連合の敵とする発言をしたことを例に挙げていた。

しかし、プーチンはスターリンではない。もし、プーチンが「強いシグナル」を送ったとするならば、それは習近平主席に対してだったのに違いない。

ロシアの大統領は、歴史をこよなく愛する人物でもあり、大統領のスピーチライターも、第二次世界大戦中、どこでどのような戦いが行われたかということを熟知している。従って「中国戦線が第二次世界大戦のアジアにおける主要な戦線だった」とのプーチン大統領の発言は、事実とは関係なくても言うべきと考えてのものだったはずだ。

露中接近は、まだ“途中の出来事”

ロシアと中国の接近は、疑う余地のない事実だ。しかし、これは、既に何らかの結果を生み出したものというよりは、まだ途中の段階にあるものに過ぎないと言わなくてはならないし、これは「追い詰められたタコが吐く墨」と同じようなものである。「強いシグナル」を敏感にキャッチしたり、式典でのスピーチの内容をつべこべ言うのは、「クレムリン・ウォッチャー」達の大得意な“お楽しみ”ではあるが、特段、何も生み出さない不毛な行為だ。

日本は、ロシアで実際に起こっていることを専門的かつ客観的に分析しなければならない。必要とされるのは、まさにロシアの国内事情に対する冷静な分析である。そのような分析は、プロパガンダの雑音が混じっていなければ、日本国内説明用の分析であってもいいのではないか。そして、他国の国内情勢に関する冷静な分析は、実はロシアの方がもっと必要としている。まさにロシアにこそ、このような冷静な分析が特に必要なのである。

(原文 ロシア語)

タイトル写真:2015年5月9日 戦勝70周年記念のパレード(出所:ロシア大統領府広報室)

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  • [2015.06.05]

拓殖大学日本文化研究所教授。1968年モスクワ生まれ。1993年モスクワ国立大学卒業、1996年同大学博士課程修了。歴史学博士(Ph.D., モスクワ国立大学、1996年)、国際社会科学博士(Ph.D.,東京大学2002年)、政治学上級博士(LL.D., モスクワ国立大学、2004年)。2000~2001年、東京大学社会科学研究所客員研究員。2003年、拓殖大学日本文化研究所主任研究員。2012年より現職。ロシア語で著書30冊以上、そのうち日本に関するもの15冊。日本語での著書に『後藤新平と日露関係史』(藤原書店、2009年)、『ジャポニズムのロシア』(藤原書店、2011年)。

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