日本の低調なIT投資、アベノミクスの思わぬ足かせ

トバイアス・ハリス【Profile】

[2015.08.21] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

“第3の矢”のカギを握る情報通信技術

安倍晋三首相は、2012年12月の第二次安倍内閣の発足以来、アベノミクスのいわゆる「第3の矢」を前進させようと躍起になっている。第3の矢は、日本経済を変えるための構造改革と、新産業の育成に国の力を活用する産業政策の両方を含んでおり、おそらくそれを進めるためのカギは、情報通信技術(IT)政策である。実際、首相がこの5月の訪米中、シリコンバレーの面々と会合をしたことからもわかるように、ITは安倍内閣の経済ビジョンにますます欠かせないものとなっている。

IT戦略は現政権の発足以来、重要な役割を果たしてきた。安倍内閣は2013年6月に「世界最先端IT国家創造宣言」を閣議決定し、ITをアベノミクスの目標である長期的な持続的成長を実現するための重要な柱のひとつに据えた。

サービス産業へのIT投資の拡大は、日本経済が今後15~20年で停滞から脱却できるかどうかの決め手になりそうだ。マッキンゼー・グローバル研究所の最新レポートが指摘しているように、「日本が生産性の伸びを現在の2倍に高めることができれば、経済成長率を年率約3%とすることは可能である。そうなれば、2025年のGDPが現時点の予測より最大で30%拡大することになる」。(*1)

肝心の規制改革に遅れ

しかし、政府はITの重要性を口にしているものの、必要な規制改革の具体化は遅れている。安倍内閣は2015年に第1回の年間「日本ベンチャー大賞」の表彰を行うなど、国内IT産業の強化とより活発なスタートアップ文化への支援を表明しているが、IT生産産業(IT-producing sectors)における起業家精神の奨励は思うように進んでいない。これは特に、IT利用産業(IT-using sectors)の投資水準の低さが新しいハードウェアとソフトウェアの需要を減退させているためである。

安倍内閣は、サービス産業が生産性向上のための技術に投資できるよう、政府がより積極的に環境整備を進める必要があることを十分認識している。実際、この問題は、6月末に閣議決定される成長戦略「日本再興戦略」改訂版の柱になると想定されている。

IT戦略で後れをとった日本

そもそも日本のIT戦略は、日本が情報化時代への対応という面でG7諸国(および隣の韓国)に後れを取っているとの認識から出発している。

日本が後れを取ったのはある部分、政府がITを優先課題に据えるのが遅れたことによる。IT戦略が最優先課題となったのは、森喜朗内閣が誕生した2000年以降である。2000年7月、森内閣は、「e-Japan戦略」の実施を掲げ、情報通信技術戦略本部を設置した。「日本型IT社会」の創設に向けた具体策を定めたIT基本戦略とIT基本法を策定するのが責務だった。

IT基本戦略は、日本がIT革命の影響に対する取り組みにおいて諸外国に「後れを取ってきた」と認定した。その原因は、日本社会へのインターネットの急速な普及を阻む高い通信料金と複雑な規制であるとした。その上で米国を始めとする諸外国に追いつくため、基本戦略は以下の4つの提言を行った。①超高速ネットワークインフラ整備および競争政策(広範で低廉な高速インターネットアクセスへの官民の投資拡大)、②電子商取引と新たな環境整備(電子商取引の規制撤廃)、③電子政府の実現(電子政府の推進加速)、④人材育成の強化(高度なIT専門家の育成教育へのIT利用の促進)。これらの提言はIT基本法に盛り込まれ、同法は2000年11月29日に成立した。

「e-Japan戦略」は2006年の小泉内閣終了まで継続し、すべての国民に手ごろな高速インターネットアクセスを提供するために必要なインフラを整備する、という主要目標を達成した。

ITインフラの状況についての基本的指標を見ると、日本は少なくとも他のG7諸国並みの技術先進国となっている(図1、2、3を参照)。日本ではインターネット利用と携帯電話が急速に普及した。スマートフォンの浸透度は諸外国より低いかもしれない。推定では2014年末現在、米国の携帯電話加入者の75%がスマートフォンの利用者となっているが、一般世帯の耐久消費財購入を調べた内閣府の調査によると、日本では2015年3月現在、携帯電話を保有する一般世帯の94.4%のうち、スマートフォンの保有は60.6%にとどまっている。

最高品質のインターネットを提供

一方、過去の政権が実施してきた政策と民間部門の投資のおかげで、日本は世界で最高品質のインターネットサービスを実現している。クラウド・コンピューティング・サービスのアカマイが発表している『インターネットの現状』レポートによると、2014年第4四半期現在、日本の平均接続速度は15.2Mbpsと前年同期比で16%改善し、世界で第3位につけている。首位は韓国だが、日本はG7諸国の中で唯一上位10カ国に入った。

日本が遅れているのはITの企業活動への統合である。IT投資の潜在的な破壊力を考えると、日本の優れたITインフラにもかかわらず、多くの企業がIT導入に及び腰であるのは当然かもしれない。例えば、経済協力開発機構(OECD)のデータによると、1998年から2008年まで、日本の住宅投資を除く国内総固定資本形成に占めるIT投資の割合はG7の中でも最低水準にあり、米国を大幅に下回っていた(下の図4を参照)。

日本の経済産業省が取りまとめた最新データでは、IT投資は2008年の世界的な金融危機以降も低迷している。例えば、企業5,000社超から情報を集めた経済産業省の2013年度の情報技術活用調査によると、2012年度の「一社平均情報処理関係諸経費」は5億9,250万円と前年度比で4.8%減少した。

(*1) ^ マッキンゼー・グローバル研究所、『Future of Japan-生産性向上が導く新たな成長の軌道』、2015年3月。

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  • [2015.08.21]

笹川平和財団米国の経済・貿易・ビジネス分野の研究員。政治リスクコンサルタント会社Teneo Intelligenceの日本政治・経済アナリストも務める。ブランダイス大学で政治学、歴史学を専攻し、その後ケンブリッジ大学で国際関係の修士号を取得。2006~2007年に、浅尾慶一郎氏(当時、民主党、参議院議員。現在は無所属、衆議院議員)のスタッフを務め、外交政策や日米関係のリサーチを行った。2011~2012年には東京大学社会科学研究所にてフルブライト研究員として、日本の官僚政治に関する研究を行う。

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