国際中欧・東欧研究学会が日本にやってくる

秋草 俊一郎【Profile】

[2015.07.24] 他の言語で読む : Русский |

2015年8月3日~8日、千葉市幕張で国際中欧・東欧研究協議会(The International Council for Central and East European Studies、ICCEES[イクシーズ])の第9回世界大会が開催される。ICCEESは旧ソ連・東欧圏の研究に携わる各国の学会からなる総合的地域研究の国際組織、その視野はロシアを中心としながらも、中欧・東欧諸国、コーカサス、中央アジア、モンゴル、中国にまで、つまりロシア・中央ユーラシアのほぼ全域に及ぶ。5年に一回の世界大会が、欧米の外で開催されるのは史上初めてである。

非欧米圏で初めての開催

ICCEESイクシーズ……と聞いてもほとんどの方はなんのことやらわからないだろうが、これはInternational Council for Central and East European Studies――国際中欧・東欧研究学会を指している。この第9回大会が、千葉の幕張メッセと神田外国語大学で2015年8月3日~9日まで開催される。ICCEESは5年に一度、参加国の持ちまわりで開催されるが、非欧米圏での開催は初めてとなる。

中欧・東欧圏をあつかった地域研究の学会としては当然ながら最大の規模の学会であり、今大会の参加者は世界60か国以上、1700人を超える見通しになる。これは1985年のワシントンDC大会に次いで二番目の規模となる見通しだ。日本でこの地域の研究に従事する研究者はのべ1000人、実質800名ほどだと推計されるが、その約半数の400名が参加することになっている。当然ながら、これだけの規模のものなので、自治体や外務省、日本ペンクラブなどの後援を得ておこなわれる。まさに国をあげての学術イヴェントと言っても過言ではない。

バルト3国から中央アジアまで

そもそも「中欧・東欧」といっても、一般にはどこからどこまでを指すのかわからないかもしれない。ここでの「中欧・東欧」は、ポーランドやチェコのようなわかりやすい中東欧諸国だけでなく、旧ソ連、そしてロシアとCISの諸国も含んでいる。つまりバルト三国から中央アジアまでを含む広い地域を指している。

それではなにについて話すのか、なにを議論するのかということだが、これは「中東欧」に関連していればなんでもかまわない。政治、経済、文学、教育、歴史、宗教、言語といったものから、社会保障、ユダヤ学、メディア、ジェンダーといった分野まで、研究者は「中東欧」にかんするかぎりあらゆるトピックについて発表を応募できる。

ICCEESはほかの多くの国際会議同様、パネル形式でセッションがおこなわれる。これは特定のテーマについて、最もスタンダードな形式では3人が報告し、1人が討論者の役割を務める。その後フロアも含めて議論をおこなう形式だ。ICCEESは一週間にわたって、400近いパネルと50以上のラウンドテーブルがもうけられている。すなわち、それだけ多くの研究者たちが、膨大なトピックについて議論をたたかわせるということでもある。

と言ってもピンとこないだろうから、公式パンフレットからいくつかパネルの実例をあげてみよう。

  • 「ユーラシア政治体制の力学を理解する」
  • 「ロシアのナショナリズム——新しいアジェンダ」
  • 「イスラム、共同体および国家」
  • 「移民、(脱)都市化と社会ネットワーク」
  • 「中国におけるロシア——遭遇と翻訳」
  • 「スラヴ圏ユーラシアと日本における原子力の社会的リスクマネジメントと市民保護」
  • 「戦間期における中欧諸文学」
  • 「ロシアと中央アジアのイスラム」
  • 「中ロ国境間の経済連携と労働力移動」
  • 「満州の亡命ロシア人女性」

もちろんこれはほんの一部でしかないが、「中欧東欧研究」といっても、いかに幅広い領域をカバーしているのかがうかがえるのではないか。

徹底した多文化主義・多言語主義

今回、組織委員会事務局長を務める松里公孝東京大学法学部教授にICCEESについて話を聞いた。松里先生は1995年からICCEES世界大会にに出席しており、同学会の副会長も務められている。

——私も今回はパネリスト、司会として学会に参加しますが、はじめての参加です。国際学会であるICCEESの特徴はなんでしょうか?

「そもそも地域によっては国際学会をもたないところも多いのです。また規模もそうですが、やはり英語圏、ロシア語圏にかかわらず世界各地から人が集まるので、英語圏の学会、たとえばアメリカのASEEES(The Association for Slavic, East European, and Eurasian Studies、スラヴ・東欧・ユーラシア研究学会)のような学会と比べても多文化主義、多言語主義が徹底している点です。学会の『公用語』も英露独仏で(実際は英語の発表が7-8割、ロシア語の発表が2-3割ですが)、『全員が主人である』という意識でおこないます」

——今回、非西洋圏でははじめて日本でおこなわれますが、その経緯について教えていただけませんか。

「一般にはあまり知られていませんが、アメリカ以外では、日本のスラヴ研究のレベルは、イギリス・ドイツ・フィンランドと並んで高いのです。これはアジアでは突出しています。最近ではスラヴ圏の地域研究にたずさわる日本人研究者も、どんどん英語や国外で発表するようになっています。前大会のストックホルム大会では日本から60名以上の研究者が参加しました。以前から働きかけていたのですが、今年満を持しての開催になります」

ウクライナ問題への関心高い

——日本でおこなうことの意義やメリットについて教えてください。

「私はそれぞれの大会が『顔』をもっていなくては考えています。今大会だとやはりアジア初の大会ということで、中国、韓国をはじめアジアの国々から多くの参加者がきています。中央アジアもカザフスタンをはじめ、ウズベキスタン、キルギスタンからも研究者が集まります。ここ数大会はヨーロッパでの開催がつづいていましたので、真新しさという点でも国外の研究者を集められていると思います」

——今大会の傾向、特徴のようなものはあるのでしょうか。

「パネルやラウンドテーブルのトピックは多岐にわたっていて、一言では言いつくせないですが、やはりウクライナ関係のパネルは多いです。私も「現地から見るウクライナ動乱」というセッションをおこないます」

ICCEESでは上にあげたようなパネルだけでなく、オープニング企画としておこなわれる「元首相サミット――ロシア、韓国、日本の元首相が中国台頭を論じる」では、福田康夫元首相、セルゲイ・ステパーシン元首脳、韓国の李洪九元首相をまねいてパネルディスカッションがおこなわれる(参加者のみ)。

また、多和田葉子、アンドレイ・クルコフ(ウクライナ)、ミハイル・シーシキン(ロシア)、ドゥヴラフカ・ウグレシッチ(クロアチア)のような多国籍な作家をまねいて、「スラヴ文学は国境を越えて」のような市民向けの公開シンポジウムも開催される予定なので、この夏は幕張で過ごしてみるのもいいだろう。

公式ウェブサイト
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/makuhari2015/index_japanese.html

バナー写真:国際中欧・東欧研究協議会が開催される幕張

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  • [2015.07.24]

東京大学教養学部講師。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学) 日本学術振興会特別研究員(2006-2012)、ウィスコンシン大学マディソン校客員研究員(2009‐2010)、ハーヴァード大学客員研究員(2012‐2014)『ナボコフ 訳すのは「私」――自己翻訳がひらくテクスト』(東京大学出版会、2011年)、シギズムンド・クルジジャノフスキイ『未来の回想』(翻訳、松籟社、2013年)

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