外国人家事労働者の受け入れは、働く女性を救うのか

野村 浩子【Profile】

[2016.02.10] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | ESPAÑOL | العربية |

安倍晋三政権が掲げる「女性の活躍支援」の一環として、「国家戦略特区」での外国人家事労働者の受け入れが解禁され、今春から神奈川県、大阪府で外国人家事代行サービスが始まる予定だ。地域を絞って規制を緩める特区を活用しての “実験” に参加するのは、パソナ、ベアーズ、ポピンズ、ダスキン、シェヴなどの家事代行会社で、3月以降随時サービスを開始することになるだろう。

日本では、年収1千万円以上の外国人高度人材および、大使館員の家庭のみで外国人の家事ヘルパーの直接雇用が認められている。あくまでも例外的な措置だ。また、現在家事代行会社で合法的に働いている外国人家事ヘルパーは、夫が日本人の外国人の妻などに限られる。

今回の規制緩和に関しては、女性の活躍推進には家事、育児の負担を軽減しなければならないという問題認識を明確に打ち出し、そのためにアウトソーシング(外部委託)の選択肢を広げたことは評価すべき点だと思う。

価格の高さが普及を阻む一因

ところが、今回の神奈川県、大阪府の特区での “実験” には違和感がある。野村総合研究所が2014年に約4万人を対象に実施した家事支援サービスに対するインターネット意識調査では、既存利用者は約3%に留まっている。利用しない理由に関しては、他人を家に入れることへの不安、家事を人に任せることに対する抵抗感、そして価格の高さが挙げられている。現在、家事代行会社を通してサービスを利用する際の時給相場は3000円前後である。

今回の規制緩和の枠組みでも、価格に関しては、解消されるどころか高めになってしまう。

各家庭が雇うのではなく、家事代行業者が外国人労働者を最長3年間直接雇用して家庭に派遣する。賃金は日本人と同等以上を保証する。送り出し国での研修が要件となっており、語学研修はもちろん、例えば「お味噌汁の作り方」といった研修も必要だろう。

各社とも普通の料金設定より高めに設定するか、プラスアルファの経費は会社が負担して赤字覚悟で今後の市場開拓のために参入することになる。実験としては意味があるが、割高の料金設定になってしまうと、やはり高いから利用しない、実験してみるとあまり利用者がいないから、家事代行ニーズはそれほどないとされてしまう懸念もある。

キャリア形成の「自己投資」として

想定される利用者は、高所得層の専門職、管理職のキャリア女性に限られるだろう。筆者の知る限りでは、外国人家事代行を使ってみたいという人の中には、英語が流暢なフィリピン人ヘルパーならば、子供の英語教育になるので一石二鳥という人もいる。また、日本語が読める日本人だとプライバシーを詮索されるので、かえって外国人のほうが気が楽、という人もいる。

つまり、あまねく全ての女性のためのものではなく、キャリア女性に限定される支援策である。ただ、少なくとも今でも専門職、管理職の女性でさえも家事のアウトソーシングに抵抗を持っている人はいるので、その意識を変えていくひとつのきっかけにはなるだろう。

海外のキャリア女性の多くは家事をアウトソーシングしている一方で、日本女性は、他人を家に入れたくない、家事育児は愛情表現と考え、外部委託に対して罪悪感を抱く傾向にある。グローバル化の中で海外の女性とも競争しなくてはならない時代になっているのに、日本女性だけが重い荷物を背負いながら一緒に「よーいドン」で走るようなものだ。キャリア形成するうえでも、アウトソーシングの費用は自分への投資として考えたほうがいい。

香港では「住み込み」が原則、そのメリットとリスク

私は2015年にアジアでの受け入れ先進国・香港で、実際に外国人ヘルパーを雇う日本人家庭を取材した。香港は1973年から受け入れを始め、さまざまな問題は浮上しているものの、外国人家事代行の経験を積み重ねてきている。日本との大きな違いは、勤め先の家庭での「住み込み」で雇うことが原則となっていることだ。

その理由として香港政府は住宅不足などを挙げるが、実際には賃金を安く抑えるためだろう。香港での外国人ヘルパーの法定最低賃金は月約6万円強だ(2015年4月現在)。1日16時間労働として時給換算すると、香港人の法定最低賃金の4分の1程度である。本来、最低賃金は国籍によって差をつけてはいけないのだが、住宅費、食費、医療費の負担もないので、こうした「パッケージ」で考えれば、香港人ヘルパーと同等だというのが香港の労働省の主張である。つまり、住み込みにすることで、中産階級でも安く外国人ヘルパーを使える措置だ。

一方で、雇い主、被雇用者にとっての最大のリスク要因も、住み込みであることだ。雇い主によるハラスメントが問題になることがあるし、子どものいる家庭では、日中外国人ヘルパーに子どもを預けることへの不安が大きい。もっとも、住み込みが禁止で「通い」が原則の日本でも、職場が個人宅という密室であるため、やはり双方にリスクはある。

外国人ヘルパーを直接雇用する日本の家事代行会社に求められるのは、こうしたハラスメント対策はもちろんのこと、きちんとした住居を世話することや、労働時間を適切に管理して労働搾取にならないようにすることだ。日本は現時点で国際労働機関(ILO)の「家事労働者のためのディーセント・ワークに関する条約」(189条)に批准していない。受け入れるなら、早急に批准するべきだ。

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  • [2016.02.10]

ジャーナリスト・淑徳大学教授。1984年お茶の水女子大学文教育学部卒業。就職情報会社ユー・ピー・ユーを経て、88年、日経ホーム出版社発行のビジネスマン向け月刊誌「日経アントロポス」の創刊チームに加わる。95年「日経WOMAN」編集部に移り副編集長に、2003年1月から編集長。2006年12月、日本初の女性リーダー向け雑誌「日経EW」編集長に就任。2007年9月、日本経済新聞社・編集委員、2012年4月、「日経マネー」副編集長。2014年4月から淑徳大学人文学部表現学科長・教授。財政制度等審議会委員など政府審議会委員も務める。著書に『働く女性の24時間』(日本経済新聞出版社、2005年)、『定年が見えてきた女性たちへ』(WAVE出版、2014年)。

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