世界を揺るがす中国資源多消費型経済の屈曲点

経済・ビジネス

独自指標では2014年から失速していたが

世界経済は2016年の年明けから、資源価格見通しの更なる下方修正と債務処理という金融面の課題が顕在化した。株式市場ではリスク・オフが基調となり、先進国でも企業の時価総額の縮小が続く。こうした世界経済の先行き不安定の根源が中国経済にあるという見方は、世界中に広がっている。

何しろ中国経済は、その実態を映す指標がないも同然という異常性が際立っている。そこで国際公共政策研究センター(CIPPS)では、独自の調査で中国経済の定点観測を行う試みを行っている。2011年から毎月行っている、およそ60の邦人企業の中国事業拠点を対象とした基本的なアンケート調査を基にしたもので、「中国CIPPSインデックス」とでもいうべき数値を作り上げた。

この中国CIPPSインデックスによれば2014年の年初からほぼ一貫して中国経済の状況は悪化を続けている。確かに2015年の年初で多少ジグザグはあったものの、大きな流れは、景気の潮目は退潮だったといえる。しかし株価は上昇し、暴落した。2016年は初頭から上海株式市場で再び暴落が起こり、突然導入されたサーキットブレーカーがすぐに休止されるなど大混乱が発生し、人民元安も加わって、中国経済の先行きに対して世界的に強い警戒感が一気に広がっている。この現象は、中国CIPPSインデックスが示す実体経済の動向と株価動向の極端な乖離とその反動として観察することができる。

中国CIPPSインデックスによれば、2014年から景気後退が続いていたにもかかわらず、2015年の3月以降はとりわけ株価の水準が切り上がった。このことの異常性は明らかだったが、そのことについての指摘は国際的に必ずしも強いものではなかった。しかし6月中旬以降、株価は大幅に下落した。そして、この株式バブル崩壊後の中国経済像は、それ以前とは違うものになった。バブル崩壊により、中国経済の生産・販売現場における金詰りはより本格的なものになったのだ。

資本流出のメカニズム

なぜバブル崩壊後、こうした状態が生じたのか。まず中国の内部から国外への資金流出に歯止めがかからなくなったことがある。バブル崩壊以前においては、中国の人々も、果たしてどこまで事態が深刻なのかについて、自分の周辺はともかく、国全体の実態についてのイメージを持つことはなかっただろう。市場における価格発見機能がまったく尊重されず、資源配分にあたって価格のシグナルが十分な役割を果たすことがなかった中国においては、そうした機縁を持つことは難しかったかもしれない。

しかし現実に株価が暴落すると、もはや中国の内部において新たな投資メカニズムが働く可能性は乏しくなった。魅力的な投資先が消滅し始めているということは、中国の内側から海外に対する資金の流出が加速することを意味する。また海外から見れば、直接投資先として中国を選ぶことを回避せざるを得ない。結局のところ投資が滞り、投資増に伴う生産性の伸びがまったく期待できないことになる。今後は、金詰まりを通じて、さらなる不良債権が顕在化するであろう。こうしたことが連続的に起きる状況では、間違いなく成長率は屈折する。

すでに株価バブルの崩壊の後、資金流出ゆえに、市場に任せれば人民元相場は上昇するよりも下落を続けると見られるようになった。実際、2015年の秋以降、著しい人民元安が進行しているが、その背景にあるのはこうした事情だ。中国の金融当局にしてみれば、人民元の傾向的下落が市場で予想されるようになれば、海外からの中国経済への資金が止まるだけでなく、中国内から海外に金融資産を移すことの有利性がますます高まるという深刻さがある。したがって、人民元の下落に歯止めをかけるために外国為替市場においてドル売り・人民元買いを行わなければならない局面も増えてくるだろう。

2015年8月以降の中国外為統計では、これが改めて顕在化した。外為市場においてドル売り・人民元買いを行うことは、国内の民間部門にとどまるべき人民元が外国為替勘定に吸収されるため、金融緩和に対して逆流が起きることを意味する。そこで金融セクター全体に資金を流し続けるため、預金準備率のさらなる引き下げなどの手段をとらざるを得なくなる。

今日、そうした非常事態の金融対応が行われている。中国の政策当局が、人民元を安く誘導し、中国製品の輸出を増加させることで国内の過剰在庫の整理を進めるというやり方を一直線にとることができないのは、根底で、こうした資金流出がすでに始まっているからである。そして、このことが中国経済の成長屈折を視野に入れなければならないと考える理由である。

年金生活者が株式投資に熱を入れる異常さ

2015年以降、中国企業の資金繰りの急速な悪化が起きていた可能性がある。ところがそうした状況であるにもかかわらず、株価の方は上がり続けた。この意味を統一的に理解することは相当難しい。

2015年7月に中国において手広く自動車の販売をしている企業の社長に会う機会があった。すでに6月に株価の急落が発生していた。彼は車の販売がきわめて難しい情勢になっているため、しばらくはしのぐと語っていた。資金繰りに問題が起きている事業所ではとても商業車を購入することにはならないというわけだ。

そこで、私は株価のことを聞いてみた。「なぜ2015年に入り、企業の資金繰り問題が生じていたにもかかわらず、株価は急騰したのか。もし資金繰り悪化が産業界に広がっていれば、この急騰は考えられないのではないか」。彼の答えは大変興味深いものであった。

すなわち、——中国経済全体の資金繰りが悪化するため、分譲住宅などの販売はきわめて不振とならざるを得ない。株価が下落した上に、住宅価格低迷が中長期化する可能性が出た。こうした状況は、プチ・ブルジョワジーにもなれない層にとっては我慢がならない。預金金利はすでに大幅に引き下げられており、実質上、物価上昇率に見合う金利収入が得られない彼らは何らかの形で金融資産の持っていき先を選び始めている。そうした中で小口の株式投資は彼らに便宜を提供することになった。少し前までならば、シャドー・バンキングから比較的高利回りの債券、ハイイールド債とでもいうべきものを購入できたが、それも地方財政改革によって阻まれた以上、利益を出そうと思えば株式市場しかないという状況だというのだ。一方、大金持ちは誰もこの株価急騰に付き合ってはいない——というのが彼の意見だった。

それでは誰が株式を買ったのか。このディーラー網の経営者は年金生活者さえも株式市場で投資をしていると言った。すなわち低所得者の生計費に関わる資金までも、いわば賭場につぎ込まれているというのだ。

しかも、この異常性をこの経営者、そして彼と同じような立場の人間はすでに知っていたことになる。彼は、乗用車販売の現場を熟知しているので、中国経済の屈折の到来を認識せざるをえず、株式投資などできる状況ではないという現実に即した冷静な判断をもっていた。また彼は、ブルジョワ・ネットワークとでもいうべき情報仲介の仕組みの中にいる。このネットワークの参加者は、究極のインサイダーでもある。実際に、彼らは株式投資をしていなかった。

国有企業の資金繰りから始まった株式ブーム

にもかかわらず、驚くべきことに、2015年上半期の世界で新規株式公開(IPO)によって調達された金額ランキングで、香港が1位、上海が2位となったのである。上海は2014年の11位からの急上昇である。

香港におけるIPOは中国国有企業の比重がきわめて高いのが特徴である。このことが物語るのは、国有企業群が新規の資本調達を行い、デレバレッジ(債務削減)を進めたことである。また、そこに資金を投入したのはどちらかといえば零細な投資家であったという事実である。経済実態を映さない統計の発表が相次ぐ中で、その背後では富の形成が歪み、かつそれが階層的な格差を広げた可能性があるという仮説が浮上する。

中国政府の発表する所得の不平等度を示す指標であるジニ係数においても、すでに社会不安に結びついても不思議ではないほどの所得格差の拡大が進行している。株価上昇の過程で、所得だけでなく資産のレベルでも格差拡大が生じた可能性があるわけだが、これはきわめて重大な意味を持つ。少なくとも中国政府は説明責任を果たす必要がどこかで出てくると考えざるを得ない。

人事評価が生んだ経済成長

中国の経済成長が投資を中心にして資源多消費型発展という形態をとってきたことはいうまでもない。しかも投資のうち固定資産投資がきわめて大きなものとなっていった。なぜこうした経済成長パターンになったのかについては諸説あるが、これまで一番多かった議論は、中国共産党における人事評価が、経済成長率を高くした人たちが業績を挙げた人物として評価されることによる、というものである。

しかし、省長や党書記など地方幹部に抜擢される人物が、経済成長率を高めるために取り得る手段に、さほど多様なものがあるとはいえない。沿岸部の輸出に適した土地であれば、投資を決めるのは海外の投資家であって党書記や省長ではない。もちろん多少便宜を図ることはできるが、これは他の拠点でも同様のことが起こるため、特定の都市が他よりも成長するとすれば、それは生産や輸出拠点として恵まれた都市でしかない。大連、天津、上海、広州等々はそうした要件を備えたところといえる。

他方、こうした要件を欠く都市は、工業団地造成、商業用ビルディングの建築、そして大規模な住宅建設を通じて成長していくしかない。しかし、このための投資のために地方政府が直接負債を増やすことは中央の規制でできない。そこで日本でいう第3セクターのようなペーパーカンパニーを作り、そこが発行するハイイールド債で資金を集め、工業団地造成、住宅団地建設、港湾整備などを行うという方法をとる。

こうしてその直轄市や省に、短期間だけをとれば高い成長率が実現する。もちろん長い目で見ると、この方法に持続性があるかどうかはかなり怪しいが、農民を追い出し、その土地を工業団地にふさわしい用地として売却する以外に資金調達の方法がなかった各省や直轄市は、そうした手法に走ったのである。

過剰投資、過剰能力、過剰資源消費

中国の高成長とはこのようなものであった。事業としての見通しではなく、投資行動それ自体を求めて無計画に資金がつぎ込まれた。その結果、現在では鉄鋼、非鉄、石油化学など、資材型産業を中心に過剰投資、過剰能力が明らかになった。結果として資源多消費型になったといえる。

鉄鋼についていえば、中国の生産は、世界の生産の半分を占め、しかもそれが過剰能力化しているのである。粗鋼生産レベルでいえば4億トン近くの過剰能力があるといえるだろう。そして鋼材の輸出量は、2015年の上半期のデータをもとにして考えてみると、1億トンを優に超えると推計されたが、実際には下半期のほうが国際市況は波乱が大きくなった。

日本の粗鋼生産量に匹敵するものが中国では輸出向けに稼働しているという現実の中で、鋼材価格は世界的に大幅な下落を遂げている。同様のことが石油化学製品についても今後より深刻化すると思われる。

世界第2位の経済大国である中国の経済実態がこうしたものであることが明らかになった今日、世界の中国経済そして経済運営を見る目は極めて厳しいものになっているといわなければならない。

中国の挫折を見越したリオ・ティント社の先見性

こうした中国経済の変調を誰が最初に把握したのか。今回ほどこの点が注目されたことはない。あえていえば、英豪系資源メジャー、リオ・ティント社の経営者が最初に中国経済の屈折について明確な判断を下し、鉄鉱石や原料炭の生産シェアを高め、結果として価格の急落も辞さないと判断したことからすれば、私はリオ・ティント社に「第1発見者」の称号を与えてもよいと考えている。この動きが出たのは2014年の4月以降であった。

この時点において中国経済の中長期の屈折を明確に論じた人はいなかった。それでもリオ・ティント社にとって中国の比重が無視できないことは明らかだ。中国は、鉄鋼やセメントの生産量については世界の50%前後、銅、亜鉛、アルミなどについても比重は高い。また原油の消費量は世界の10%程度という比重を持つ。中長期的なマーケットとしての中国像を調べる作業は彼らにとって自社の売り上げ予測をすることと著しく近いといえよう。

このため彼らは中国の上海などに重要な市場分析拠点を用意している。数年前にはリオ・ティント社の中国拠点において中国人社員がスパイ罪で摘発された。オーストラリア政府はこれに抗議したが、考えてみれば中国のマーケットの先行きを展望するに当たって必要とされるデータを集めようとすれば、国家における計画作成や国有企業の投資見通し作成部局の人々との接触は避けられない。国家機密漏洩という嫌疑に引っかけられることも覚悟のうえという側面もあるのではないか。逆にいえばリオ・ティント社をはじめ、英豪資本のBHPビリトン社などの資源産業企業群はそこまでマーケット・リサーチをしていると考えたほうがよい。

限界的な生産者は退出を迫られる。

彼らは中国における鉄鋼生産が中期的に横ばいになるとすれば、すでに自らの鉱山開発投資が進んでいる以上、シェアを確保し高め、価格支配権をもつことがきわめて重要だと考えた。最も早い時期に最も有利な鉱山を手にしている彼らは、最も生産性が高い鉱山を保有している。一方、限界的な生産者は効率の悪い鉱山でも鉱産品価格が高止まりすることを前提に投資したわけだが、値下がりが起きれば限界生産費用の高さゆえに彼らは市場から撤収することにならざるを得ない。

これはリカードが地代の発生を説いたことに対比させられよう。最も地味の肥えたところと地味の痩せたところを考えてみる。地味が痩せたところで何とか成り立つように農産物価格が設定されれば、地味の肥えたところでは過剰利得が発生する。その過剰利得が地代として支払われるという地代論をリカードは提示した。リカードによる地代の発生把握に相当する状況把握が、今回、巨大資源企業によってなされたといえるだろう。すなわち、価格下落を通じて地代に相当するものが減額されることさえ甘受すれば価格下落は即マーケットの支配力強化に直結するのだ。

これが中国の内部に影響を与えたことは間違いない。山西省は石炭鉱山の宝庫だが、現在ではこの石炭の荷動きはばたりと止まり、閉山が相次いでいる。黒竜江省も同様だ。

リオ・ティント社、そして同じく英豪資本のBHPビリトン社、ブラジルのバーレ社などの企業は原料炭や鉄鉱石の市場シェアを高めているが、その一方で限界的な生産者が淘汰の憂き目にあうという流れが、いま、世界的に起きようとしている。

混迷する金融政策の背後にあるもの

中国経済の直近の運営指針を筋道だって説明することは容易でない。ここでは同時達成はなりがたい経済政策の3目標を手掛かりとして、政策の振幅を分析してみよう。まず時期を、①2014年から2015年6月、②2015年6月~11月 、③2015年11月以降の3つに分ける。

①はデレバレッジ(債務削減)という中国経済全体の課題のうち、企業債務の削減に焦点をあてて行われた金融政策の実施である。②は株価の急落の過程で、恣意的な介入政策を重ねつつも、人民元売りによる総体としての「中国売り」を回避しようとして繰り返された緊急時の個別対応の積み上がりがある。③は人民元の国際化の象徴としてのIMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)勘定入りの実現以降の中国の政策姿勢の変化である。

①については企業部門の資金繰りの悪化と成長屈折見通しの浸透のなかでの高株価対策が特徴だったといえる。金融緩和の本格実施が不可欠であるにもかかわらず、資金の中国からの純流出の恐れがあったところから、人民元の価格維持のためのドル売り、人民元買いが2014年の夏以降は本格化する。このことは資金市場から人民元を吸収することになるため、預金準備率の引き下げの連続的実施などが不可欠となった。

こうした見せかけの金融緩和がもつ株価のテコ入れ効果の喧伝によって、企業部門のIPO(株式公開)促進が図られた。個人投資家の資金が株式市場に入り、資金調達した企業は負債の返済にこれを回すことになった。一見すれば政策は当初の目的を実現したかに思えた。

②については株価急落の中、株式の売りを封ずる諸施策が恣意的に投入された。資本取引についての規則は当然とされたが、人民元の急落だけは回避されねばならず、ドル売り、人民元買いの介入は続いた。不安定な金融情勢が持続した。

③は人民元のSDR入りが実現し、人民元の国際化というとりあえずの目標を達成したところから、人民元の価値を市場に委ねるという方針がしだいに固まった。「人民元はどこまで下がると思いますか」という問いが、経済政策に明るい中国の人々から発せられるようになったのが2015年の11月以降、暮れに至るまでの状況であった。

2016年からの年初からは人民元売りも、またこれをきっかけとした株安にも歯止めがかからなくなった。恣意的な諸介入が続いたため、どれが個別の介入の効果なのか、副次的な悪影響がどの時点から生まれているのか、市場関係者の誰も分析できなくなっているというのが実情だろう。

震源地・中国の状況は闇の中

そもそも、2015年6月の上海の株価急落の開始以来、世界の市場が反応した中国発の情報は、たった2つと言ってよい。1つは『財新』と『マークイット』による毎月のPMIの発表指数である。そしてもう1つは人民元の切り下げ意図に関する政府対応についての憶測情報である。

前者について言えば、闇夜を覆い尽くす黒塗りの空間にあって、手元に下げたランプが足元をわずかに照らしただけに過ぎない。その先に大きな淵が口をあけているのかどうかについては、まったく情報を提示していないのだ。しかし、これ以外には足元を照らしだす指標はまったくないのも同然なのだ。

後者についていえば、中国政府の経済政策の責任者の狙いが全く理解できないことに発している。人民元の切り下げが中国経済にとってソリューション(解)とならないことは明らかなのだが、しかし、ひょっとして、この程度のことを考えているかもしれないと市場はみなさざるをえないのだ。

こうした中国経済の実態と政策の闇は、世界の資源価格を急速に不安定なものにした。これが2015年12月から2016年2月にかけての状況である。もはや市場の眼は、リスク・オフという投資家の行動を反転させる材料を、今年5月のG7サミットが用意できるかどうかを注目するという局面に入っているのである。

カバー写真=中国経済・資源価格への不安から世界同時株安が続く(提供・時事)

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