日本版「緑の党」に未来はあるのか

政治・外交

日本版「緑の党」(現・「緑の党グリーンズジャパン」)が政治団体として結成されたのは2012年7月。当初は、日本における環境重視の「緑の政治」が気運に乗る絶好のタイミングだと思われた。前年3月の東日本大震災・福島第1原発事故から半年を経ていたが、毎日のように報道される政府のお粗末な事故対応に市民はあきれ果て、原子力発電に代わる再生可能エネルギーへの移行を求める声はこれまで以上に大きくなっていた。

市民運動に根ざす緑の党グリーンズジャパン(以下、緑の党(日本))は、特に欧州で支持基盤が強い「グローバル・グリーンズ」の国際的ネットワークと連携している。エコロジカルで持続可能な社会、公正で平等な社会の実現、一刻も早い脱原発の達成を目指す変革は、当時の社会の潮流に沿うものだった。

結成4年で消えた存在感

結成から4年近くがたったが、すでに緑の党(日本)が新聞の見出しを飾ることはなく、政治の現場での存在感もない。2013年7月の参議院選挙には10人の候補者を立てたが、全員落選。16年7月の参院選には独自候補も出せなかった。

現在、緑の党(日本)は地方自治体の議員・首長ら約70人が会員として参加。会員総数は2012年からほぼ2倍に伸びたとはいうものの、まだ1300人だ。会員・サポーターの会費や寄付は年間2000万円程度にとどまっている。

緑の党(日本)の低迷は、日本では自然保護や脱原発を目指す政党は根付かないということを意味するのか。そんな疑問を胸に東京・杉並区の緑の党(日本)本部を訪ねた。本部は1階に24時間営業の洋服店がある雑居ビルの6階にある。熊本県産のオーガニック紅茶を飲みながら、緑の党(日本)の広報部長、石崎大望(ひろみ)氏に今後の展望を聞いた。

市民の問題意識の高まりはあるが、支持拡大につながらず

「かつては、市民の社会参加、政治参加は低調でした。福島の原発事故、昨年は憲法9条の再解釈や安保法制への反対運動が盛り上がって、徐々に人権、民主主義、社会的正義を守らなくてはという機運が高まってきた」と石崎氏は言う。

ところが、市民の問題意識は高まったものの、それが緑の党(日本)への支持拡大に結び付いてはいない。「それでも長い目で見れば、緑の党が存在すること自体には意義があります。全国に(党の会員である)市民派の自治体議員が散在していて、人権・平和・環境などの価値を守るためにそれぞれの自治体で孤軍奮闘しています。そういう人々にとっては、緑の党はいずれ自分達の代表を国会に送り込むという希望を託す受け皿となっています。ビジョンと目標を掲げ、ネットワークを強化し、地道に組織拡大に取り組んでいくほかありません」

新興政党が参入しにくい政治制度

確かに短期的には、楽観的な見通しは持てないと石崎氏は認める。そもそも、2013年の参院選で全敗したのも、日本の政治制度が新しい政党にとって「極めて不利」であることが原因だ。選挙運動の期間はたった17日間で、10人以上の候補者を擁立する必要がある(編集部注:公職選挙法は、事前に「確認団体」として総務省に届け出た政党・政治団体に限り、選挙期間中のポスター掲示やビラ配布などを認めている。確認団体の申請には、全国で候補者が10人以上いることが条件)。しかも、候補者1人につき300万から600万円の供託金を払わなければならないのだ。

欧州、日本における緑の党など、新興政党を研究する早稲田大学の日野愛郎教授(比較政治学)は、「国際的なスタンダードから見ても、日本の供託金制度は極端です」と指摘する。既成政党は政党交付金から供託金を拠出することが多いが、交付金は国会議員5人以上を有することなどの条件(編注:法人格の取得も必要とされる)がある。ちなみに、政党交付金は、最近の国勢調査の人口に250円を乗じて得た額を基準として国の予算で決まり、年間総額は約320億円。

条件が厳しいため、日本の新党のほとんどは、すでに議員の職に就く政治家たちのグループ再編にすぎないと日野教授は言う。「日本では、真に草の根レベルから新政党が生まれることはほとんどありません」

緑の党(日本)は、20年間にわたる地方を中心とした市民運動が徐々に、国政に参加するための環境政治団体を結成する動きに収束した結果生まれた。

世界各国の「緑の党」の理念の根底には平等主義がある。その理念が党の飛躍を妨げる側面も否めない。原則として、組織の序列化や力関係で物事を決める方針を良しとしないため、「選挙で票を取れるような、抜きんでたリーダーシップを発揮できる候補者が生まれにくい」と上智大学の中野晃一教授(政治学)は指摘する。「順番に立候補する機会を与えようとする傾向があり、その姿勢が、皮肉なことに、党の影響力や政治力を削ぐことになる」

高度経済成長を知らない有権者が希望の星

緑の党が掲げる革新的な環境重視の主張は、今後日本の有権者から広い支持を集めることができるのか。反原発の気運はまだ高いとはいえ、日野教授は「エネルギー問題だけで多くの票を集めることは難しいのでは」と言う。教授によれば、欧州で成功している緑の党は、マニフェストに安楽死問題や同性結婚など、特に注目度の高い問題を取り込んだり、女性の権利運動、消費者運動などの市民運動とうまく連携している。

だが、石崎氏は今後数10年のうちに、日本人有権者は持続可能な環境への取り組みを、経済成長よりも優先させるようになると予言する。

「日本経済は1990年代以降停滞しました。中高年世代は好景気の時代を覚えているが、20代、30代の人たちは景気が良かった時代を知らないので、成長路線を志向していない。お金があまりなくても生活を楽しめると考えている人は多い。気候変動の影響も、今よりももっと顕著になっているでしょう」

確かに、緑の党の目指す政治と社会―市民が自ら決定し行動する民主主義、エコロジカルで持続可能な社会、非暴力、社会的公正、多様性のある社会―が、今後、高度成長を知らない若い有権者の支持を獲得する可能性はある。

(原文英語。バナー写真:2012年7月緑の党結成総会/提供:緑の党グリーンズジャパン)

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