ニッポン女子の就活事情

社会

就職活動から日本社会の変化を探る前回に続く第2弾として、昨今の女子大生の就活はどうなっているのかを概観しよう。専業主婦志向の高まりが指摘されているが、果たしてそうなのか。正直、「女子大生」(広義には女性の大学生、狭義では女子大の学生)という言葉自体、バブル期のニュアンスが強く、気恥ずかしい。が、明らかに今日の日本にはまだまだ就職におけるジェンダーの差は少なくなく、女子に限った問題点や悩みをまとめておくのも意味はあるだろう。

年配の世代には、女子大の学生といえば一流企業に就職し、結婚後は専業主婦になる、という保守的というか昭和的なイメージが強いかもしれない。バブル世代&男女雇用機会均等法初期の筆者は、女子大で3年間ほど就職部長を務めたが、そこで経験した近年の変化には、正直驚かされた。近年の動向は私の想像を超えていた。

あらかじめお断りしておきたいのは、ここで取り上げるのは東京の平均的な私立大学の女子学生の動向であり、全体像ではない(※1)。「昭和末期に専業主婦モデルの典型となった層」の娘たちの世代はどのような変化を遂げたか、その概要から経済と社会の変化を考えてみたい。

消えつつあるOL

一昔前であれば、男性は一家の大黒柱として稼ぎ、女性は妻として家庭を支え、子供を育てる、というモデルに合わせた就職を選択すればよかった。1986年の男女雇用機会均等法以前には、たとえ東大生であろうとも、女子は一般職(※2)での採用がほとんどであった。しかしいまや一般職は狭き門で人気大企業ともなれば尚更である。というのも雇用が柔軟化している今日、多くの企業は一般職の採用を削減し、派遣社員に置き換えているからである。残された一般職は、バイリンガルや営業担当など高レベルの能力が求められ、スーパー一般職といってもよい。

大企業OLの出身校というイメージが強い私の勤務先であるが、一般職としての就職は20%強に留まっている。しかもメガバンクなど人気企業が多く、競争は熾烈(しれつ)である。そして彼女たちの50%超は男女の区別がない総合職として就職していた。少なくとも本学の状況で判断すると、競争の激しい昨今、正規雇用に対しては、企業が男女を問わずよりシビアに数字を求めるようになり、利益を上げることができない人材にはボーナスを支給せず、派遣労働でまかなう傾向があるようだ。これが一般職の減少/総合職の増加につながっているのであろう。

キャリアプランからライフプランへ

こうした中、今日の女子学生の就活をめぐる悩みは大きい。選択肢が多すぎるのだ。大企業の一般職か、中小企業やベンチャー企業の総合職か。ジェネラリストかスペシャリストか。そして地方出身者にとっては、地元就職か、大都市での就職か。もちろん、こうした選択肢と並行して、子供の頃から憧れたCA(キャビンアテンダント)やアナウンサーに挑戦する学生も少なくない。何より女子の場合、単に会社や働き方を選ぶだけでなく、どのような人生を歩みたいのか、ということも合わせて考えている場合が多い(ぜひそうあって欲しい)。実際、学生の声も変化している。一生働きたい、という女子学生がここ数年顕著に増えている。

女子大であるせいか、確かに新入生の半数は「卒業後、一流企業に一般職で就職して、子供ができたら専業主婦になって子育てに専念して、子供が大きくなったらパートタイムで仕事をしたい」と語る。しかし上級生になるとこうした声は急速にしぼんでいく。「結婚できるかどうかわからないし、離婚するかもしれないので一人でも食べていけるようになりたい」、「夫がリストラされたり、会社が倒産すると大変だ」などがその理由だ。シビアな現実を見据えているのであろうか。実際、家族の中にこうした経験をした人がいる例も珍しくなくなっている。またシングルマザーの貧困化はメディアでも取り上げられており、他人事ではないと考えられている。

親の意識も変化してきた。以前は、「うちの娘はのんびりしているので、そんなにがんばらなくていい。できればよい会社でOLをやって、結婚後は家庭に入ってくれればいい」という声も少なくなかった。まさに昭和モデルだ。しかしリーマンショックの頃から大盛況となっている親対象の就職セミナーの参加者からは、「一流企業にこだらず、一生稼げるような仕事をみつけて欲しい」という声が増えてきた。

前回にも論じたが、日本経済の停滞と、少子高齢化の急速な進展が、働き方の変化を促しているのだろう。政府の政策レベルでも、労働力不足に悩む企業レベルでも、また世帯収入が減少傾向にある家計レベルでも、女性が働くことが求められている。その結果、母親世代のように専業主婦路線と、一生働き続ける路線とでは、有利な選択肢が異なってくる。だから結婚・子育てを視野に入れて、両立が可能な企業かどうか、ライフプランも重要になるのだ。

(※1) ^ 日本の四年制大学への進学率は、2013年の数値で男子54%、女子45.6%(短期大学を合わせると55.2%)。

(※2) ^ 一般職とは、いわゆる「OL」を指し、「お茶くみ・コピー取り」のイメージが強いが、実際には、高度な仕事を任されているにもかかわらず、男性と比較すると昇進が遅く、賃金も押さえられていた例も少なくない。

専業主婦は富裕層の証?

若い女性の専業主婦志向が強まっている、という記事をしばしば目にする。しかし本当にそうなのだろうか。この点について聞いてみると、「専業主婦は退屈そうでイヤ、面白い仕事を続けたい!」という声が多数で、専業主婦になりたいという学生はいまや珍しい。「家事手伝い」に至ってはもはや死語だ。確かに大学時代に勉強よりも遊びやバイトに忙しい学生ほど、卒業後、仕事に熱中し「バリキャリ」(高学歴でキャリア重視の働く女性をこう呼ぶ)となっている傾向が強い。

母親世代では、専業主婦は極めて現実的かつ実現可能な将来像であった。しかし近年、男性の所得は明らかに下降傾向にあり、妻が働くことはもはや珍しくはなくなっている。「専業主婦? なりたい! もちろん経済的余裕があればね」—。若い世代が発する「専業主婦」という言葉には、富裕層の妻というニュアンスが強いように思われるのだ。専業主婦は高額所得者の家庭にのみ許された憧れの存在、もはや手の届きにくい存在となっているのかもしれない。

学生に中長期的なキャリアプランを描いてもらうために、目標とする30代、40代像について毎年質問するようにしている。すると、さまざまな仕事に加えて、できれば高額所得者のパートナーを見つけ、妻として家事・育児をこなし、やりがいのある仕事を追求する、という女性像を描く学生が多い。もちろん「いくつになっても素敵な女性でいたい」。まさにスーパーウーマンだ。

仕事と家庭、両立は可能か?

しかしスーパーウーマンになるには障害も多い。希望する会社の支援は整っているのか、実際に両立している先輩はいるのか。また親世代の協力は得られるのか。また地方出身者の場合、親が地元に帰ってきて欲しがる一方、魅力的な都会生活も捨てがたい。しかし東京の生活コストは高すぎる。「東京に残るためには、一人暮らしができる賃金がもらえる総合職じゃないと」という固い決意で就活に臨む学生も少なくない(卒業後も家賃の仕送りを受けている、という幸せな例外もあるが)。そのため、東京ではなく地元での就職を選択する学生もいるが、地方での求人数の少なさや待遇の悪さ、何より男性優位の保守的な風土に戸惑うことになる。

企業や国が女性の働きやすい環境を整えるべきであるのは言うまでもない。しかし現時点では、こうした急速な変化の中で、女子の就活には、男子以上に、戦略的であることが求められるのだ。(2016年5月1日 記)

バナー写真:東京大学の卒業式に出席した卒業生=2016年3月25日、東京都文京区(時事)

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