教育が拓く未来——イスラム「女子教育」の重要性
ナビラ・レフマンさんへの教育支援を通じて

宮田 律【Profile】

[2016.05.06] 他の言語で読む : FRANÇAIS | العربية |

昨年度、運営する現代イスラム研究センターでシンポジウム開催の企画を思い立った時、イスラムの女子教育支援というテーマを思いついた。有名な、ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユースフザイさんは教育の重要性を訴えて、「パキスタン・タリバン運動(TTP)」の銃撃を受けた。同じように、パキスタンの部族地域(連邦直轄部族地域:FATA)で対テロ戦争の巻き添えに遭い、アメリカのドローン攻撃による誤爆で自身も負傷し、祖母が犠牲になったナビラ・レフマンさんが、米国議会に行って自らの被害を説明し、部族地域でのドローン攻撃の停止を求めたことは、イギリスの「ガーディアン」の記事などで知っていた。記事では、米国議会の公聴会には下院議員435人のうち5人しか出席せず、ドローンの誤爆の加害者である米国の被害者に対する無関心・冷淡ぶりに対し、自らの敵であるTTPの銃撃を受けたマララさんを厚遇し、オバマ大統領まで面会するという、二人の少女に対するアメリカの扱いの相違が強調されていた。

戦争より、教育を

パキスタンの部族地域は識字率が異様に低く、女子のそれは3%という有様だ。教育がなければ子供や若者たちには未来が開けない。ナビラさんは一昨年6月からのパキスタン軍のTTPへの掃討作戦の中で国内避難民生活を余儀なくされ、教育をずっと受けられなくなっていた。パキスタンの部族地域では、教育の欠如から若者たちは武装集団に入ることによって生計を立てることを考え、TTPなどの暴力を増幅させることになっている。

市民の犠牲をもたらすドローン攻撃の問題と対テロ戦争によって教育を受けられなくなったパキスタンの少女の訴えを日本人や日本の社会にも知ってもらおうと、私はシンポジウムを企画した。女子が教育を受けることができれば、その社会進出を促し、出生率も減り、仕事にあぶれる若者たちも減少することなり、社会の安定や平和に寄与することになる。そのためにイスラムの女子教育支援は重要で、ナビラさんを通じて強調したかった。

パキスタンの友人などを通じてナビラさんに働きかけ、シンポジウムは実現する運びとなり、昨年11月に来日した。実際に会ってみると、静かながら意志的な、聡明で、また愛くるしい笑顔が魅力的な少女だった。

シンポジウムでは、「私たちの地元ではきちんとした教育を受ける環境がありませんから、しっかりとした教育を受けたいです。戦争に大金を使うのでしたらそのお金を教育や学校に使うべきだと思います。攻撃と復讐を繰り返しても解決に向かいません。復讐より話し合いで解決していくべきです。安易に戦争に向かっても平和は絶対にやってきません。教育を普及させたいです。」としっかりした口調で語った。

シンポジウムに登壇するナビラさん。2015年11月16日、東京。

このように教育の重要性を訴えるナビラさんの姿はマララ・ユフスザイさんになぞらえて日本では報道されるようになり、「もう一人のマララ」とも表現されるようになった。

復興を遂げた広島で、戦禍の故郷を思う

ナビラさんたちとはシンポジウムの翌日17日に広島に向かった。広島は、イスラム世界では、原子爆弾で街がペシャンコになりながらも、目覚ましい復興を遂げた街と見られている。戦争でなかなか安定しないパキスタン部族地域の少女に広島の街を見せることは、希望を与えることになると思ったのである。

広島に原爆が落とされたことは、パキスタンの人たちにもよく知られている。広島に到着すると、皆異口同音にここが原爆で本当に何もなくなったところなのかと、広島駅の周辺のビルが立ち並ぶ様子を見て驚いていた。イスラム世界では原爆を投下されながらも、不死鳥のように復興や発展を遂げた日本に対する驚きや敬意がある。

広島原爆資料館で、写真を見つめるナビラさん。2015年11月18日。

被爆者の小倉桂子さんは、被爆体験の英語語り部で、「平和のためのヒロシマ通訳者グループ(HIP)」を1981年に立ち上げた。小倉さんはナビラさんがドローン攻撃を受けたのと同じ8歳の時に被爆された。小倉さんは原爆資料館でナビラさんに「一緒に戦争につながる『悪いもの』に対して立ち向かいましょう。」と語りかけた。そんなやりとりの中で、ナビラさんは「大切なのは対話です」と話した。

ナビラさんは、小倉さんの話を聴いて「戦争が続く故郷と重なりました。戦争をなくすために、平和の意義を国際社会に訴えたいと思います」と語った。小倉さんは話の最後に「どんなにひどい仕打ちを受けても人を恨んだり、憎んだりしてはいけません。広島や長崎の人たちは原爆の悲惨な体験をしましたが、決してアメリカに報復しようとはしませんでした。」と語った。テロと報復の攻撃が続く環境の中で生まれ、育ったナビラさんには小倉さんの言葉はきっと重く響いたことだろう。ナビラさんは大きく頷いていた。

一刻も早く、教育を受ける機会を

ナビラさんの話を聞いて、彼女がパキスタンに帰国してそのまま教育が受けられない状態にしておいてよいのかと思うようになった。彼女の教育適齢期を考えると、早く何とかしてあげたいと思ったのである。

私の中学校の野球部の一年先輩に、民主党政権時代に環境大臣を務めた小沢鋭仁・衆議院議員がいる。ナビラさんが帰国してから小沢議員に彼女の教育のことを相談した。彼女が住んでいるところの近くに日本のODA(政府開発援助)で学校を建てても、学校が機能するまでに相当時間がかかる。小沢議員も「できるだけ早く教育を受けさせてあげたいね」と言って下さった。

小沢議員の協力もあって、今年2月末にナビラさんの教育支援のための募金の口座「ナビラ募金」(※1)を設けることができた。日本の募金の動きが考慮されて、彼女は、パキスタンのペシャワールにある「スマート・スクール」という学校に他の6人の兄妹たちともに3月14日に入学することができた。私は学校には集めることができたお金をもって4月初めに訪問しようと思い立った。学校に通う彼女の様子を、募金をしてくれる方々に知ってもらいたいと思ったからだ。

スマート・スクールを選んだのは、一緒に来日したお父さんで、教師のラフィークさんの意向だった。ペシャワールにはラフィークさんの親戚も住んでいるし、またここは部族地域に隣接した町でもり、家族や親族たちの行き来も簡便だ。英語で授業が行われることや、パソコンの実習もあることは、ナビラさんの才能を磨くには最適な環境ではないかと思った。

スマート・スクールは、ペシャワール縁辺の緑濃く、閑静な住宅街にある。ラフィークさんは、学校の外で待っていてくれた。ナビラさんたち兄妹は、学校の周辺に住宅が見つかるまで、学校の一室に間借りをしていた。ラフィークさんは私を見るやいなや固く抱きしめてくれて再会をとても喜んでいた。後から出てきたナビラさんもにっこり笑い、再会をとても喜んでくれた。お父さんやナビラさんの表情からも彼女たちがどれほど日本に好印象をもったのかがすぐわかった。

「日本の方々の前でお話しすることができてとてもうれしかったです。」とナビラさんは言う。

「日本ではみなさんにとてもよくして頂いて感謝しています。日本の方々のおもてなしにはとても感激しました。アメリカではドローンの被害について語っても、話を聞いてくれる人が多くなく、これが世界のあり方なのかと思ってしまいましたが、日本ではアメリカとはまったく異なる世界があり、異なる人々がいました。日本の人々は礼儀正しく私たちに接してくださいました。

日本では一番印象に残っているのは金閣寺です。庭園もとてもきれいでしたし、色彩の美しさとともに構造がとても素敵でした。

日本に招いてくださり、また私の教育の重要さやアメリカの戦争の悲惨さを訴えるメッセージを伝える機会を与えてくださったことに感謝しています。私は日本人が大好きです。」

ナビラさん。2015年11月17日、京都、金閣寺にて。

途上国には教育が必要な子供は大勢いる。特に紛争や暴力が席巻している中東イスラム世界ではそうだろう。しかし、2004年に生まれ、2001年から始まったパキスタンの部族地域での「テロとの戦い」に翻弄されてきたナビラさんの教育を支援することによって、世界を覆うようになったかに見える暴力の抑制には教育によって若者たちに未来を与えることがいかに重要か、また武力によらない、日本だからこそできるテロ抑制への関わりや、日本は平和創造のために何ができるかを日本人や世界に示し、この分野における日本国内での議論もいっそう深めていきたいと思っている。

(バナー写真:ペシャワールのスマート・スクールで授業を受けるナビラさん。2016年4月4日筆者撮影。)

(※1)^ 「ナビラ募金」の口座は「東京三菱UFJ銀行 赤坂見附支店 普通預金 0280580 一般社団法人現代イスラム研究センター ナビラ募金」。5月9日から、携帯電話の料金支払いと一緒にクレジットカード決済ができるソフトバンクの「かざして募金」も始まった(https://ent.mb.softbank.jp/apl/charity/sp/careerSelect.jsp?corp=359)。ご賛同頂ければ幸いである。

この記事につけられたタグ:
  • [2016.05.06]

一般社団法人現代イスラム研究センター理事長。慶應義塾大学大学院文学研究科史学専攻修士課程、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院修士課程(歴史学)修了。専門はイスラム政治史、国際政治。主な著書に、『中東イスラーム民族史―競合するアラブ、イラン、トルコ』(中公新書/2006年)、『イスラムの人はなぜ日本を尊敬するのか』(新潮新書/2013年)など。

関連記事
その他のコラム

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告