映画『太陽の子』と台湾の先住民問題

野嶋 剛【Profile】

[2016.09.06] 他の言語で読む : 繁體字 |

先住民に謝罪した蔡英文総統

8月15日、台湾総統の蔡英文は、台湾東部の離島、蘭嶼島(らんしょとう)を訪れた。蔡英文の目的は謝罪だった。そこにはタオ族の人々およそ4千人が暮らしている。蔡英文は、民族衣装姿の頭目に向き合い、トレードマークのおかっぱの髪の毛が下がって横顔が見えなくなってしまうほど深々と、頭を垂れた。

蔡英文の選挙前からの公約だった先住民に対する謝罪。それは、8月1日に総統府で正式に行われた。台湾に54万人、16部族いる先住民の代表たちを総統府に招いた形での謝罪が、同じ先住民の一部からは「皇帝の拝謁(はいえつ)のようで差別意識の表れだ」と厳しい批判を招いた。しかし、全ての部族を一人の総統が回ることなど物理的に不可能であり、いささか批判のための批判という印象が強かった。先住民の中にもいろいろなグループがあるようだ。だが、総統が客人として先住民を総統府に招き、謝る。その意味は大きかった。

蔡英文はその翌日から、時間を見つけては先住民地域をその足で訪れ、謝罪を行っている。特にこの日の蘭嶼島行きは象徴的な意味があった。なぜなら、蘭嶼島には、低レベル放射性廃棄物の中間貯蔵施設が置かれているからだ。その貯蔵施設の設置の経緯は非常に曖昧かつ怪しいもので、「缶詰工場を造る」と言って地元のタオ族をだました、という声もあるほどだ。真実は闇の中だが、もともと海洋廃棄のための「一時的」な貯蔵施設のはずが半永続化してしまったのは、先住民が「犠牲にされやすい人々」だったことと関係していないはずはない。そうした「先住民=犠牲にされる人々」という構図に対して、今後決別するという意思を示すための謝罪であり、台北から最も遠い離島の一つである蘭嶼島への訪問だったと考えられる。

こうした先住民への謝罪は、台湾では「移行期の正義」と呼ばれる。かつての政権が行ったさまざまな圧政や暴力を総括し、二度と起きないよう謝罪や責任の明確化を行うものである。例えば、民進党政権になって台湾の立法院は野党・国民党の巨額の党資産を解体するために条例を可決した。これも、国民党が戦後間もなく接収した台湾の日本資産を党資産にしてしまって政党間の正常な競争を阻害しているという問題意識から行っているもので、「失われた正義」を回復させるための措置であると理解されている。

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  • [2016.09.06]

ジャーナリスト。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。1992年、朝日新聞入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長等を歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)等。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

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