トランプ政権下の日ロ関係:経済協力は日本にもメリット

ドミトリー・ストレリツォフ【Profile】

[2017.02.23] 他の言語で読む : Русский |

北朝鮮核への対処で、米中接近もある東アジア

トランプ米大統領が政権発足後まず着手したのは、対外政策における優先順位を明確にしていくことだった。公的な場での声明は孤立主義、保護主義、国家のエゴイズムを強く想起させるものであり、その中でも注目すべきは、米国が、今後、二国間軍事同盟の相手国に同盟の維持費を大幅に負担させ、同盟そのものの再編成を狙っているとみられる点である。日本に関して言えば、米国の政策はすでに現実のものとなりつつある。米国は在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)の「応分の負担」を要求する姿勢だ。

トランプ氏は、相反する2つの印象を与える人物である。日本では多くの人が、「大統領のポピュリズム政策は国内向けであるので、まともに受け止める必要はない」と考えている。同時に、実業家出身のトランプ氏は、国際政治における「交流主義(transactionism)」(※1)を前提にして、「米国の国益にかないさえすれば、どんな手段でも用いる」という見方も存在している。

トランプ氏はイデオロギー的な原則を一切持ち合わせておらず、映画『ゴットファーザー』の中の有名なセリフ「It’s not personal…. it’s strictly business (私情は全く挟んでいない。これは純粋にビジネスなのだ)」の原理のままに行動しているようにみえる。「世界地図の中の自国の取り分」について、自ら嫌悪している中国とも話をつけ、取引を進めていくかもしれない。「ニクソン・ショック」(1972年に当時のニクソン米大統領が、同盟国日本に何の断りもなく訪中し日本側にショックを与えた)のような「トランプ・ショック」の可能性が現実味を帯びてきていると言える。

日本にとって今後、「トランプ・ショック」が現実となる可能性が最も高いのは、北朝鮮が核ミサイル実験に成功した場合だ。そうなれば、北朝鮮は米国の主権に直接的な脅威を与える国となる。2月12日の固形燃料を用いた新型ミサイル発射は(※2)、いかに技術が日進月歩で向上しているかということの証左であり、北朝鮮が米国西海岸をミサイルの標的とすることが可能となる日もそう遠くない。このような状況の中で、米国の対応として考えられるのは、北朝鮮へ経済的な圧力をかけることのできる中国と話をつけることだ。

トランプ大統領は安倍首相との会談で、米国による日本防衛の義務を定めた日米安保条約第5条を尖閣諸島にも適用すると認めた。しかし、衝動的で予測不可能な彼の行動を考えると、この約束が無条件に守られるかどうかは疑問だ。また、中国が今後も尖閣問題で日本への圧力を強めていくと考える根拠は数多くある。安倍政権は日本の自衛力の強化、つまり「普通の国」への転換に向けた政策をさらに強化させていくだろう。

ロシアが重視する地域安全保障

このような状況で今後の日ロ関係はどのような展開を見せるだろうか?まず政治の分野では、大きな前進を期待することはできない。ロシアにとって日本は、政治におけるパートナーとしてはあまり大きな意味を持たない存在である。最近公表されたロシアの対外政策の基本コンセプトでは、日本は「ロシアのアジアにおける優先的なパートナー」のランキングでモンゴルに次ぐ第4位の位置づけだ。

また、ロシアの対外政策を決定する政治エスタブリッシュメントの多くは、日本は米国に追従するだけの国で、国際政治のプレーヤーとしては意味を持たない存在と受け止めている。2015、16年にかけてロシアの政治関係者の間では、日本を西欧との関係調整の仲介役にしようという考えが広まっていた。しかし、親ロ派と目されたトランプ氏の大統領就任により、このアイデアは意味を持たなくなった。モスクワは、停滞した日本との領土問題の進展にはあまり期待していない。両国の立場があまりに大きく乖離(かいり)していて、歩み寄りの可能性が想定できないのである。

このような背景において、二国間関係において最も重要となってくるのは地域の安全保障である。安全保障に関する日本との対話は、日ロ外務・防衛閣僚協議「2+2」という形式で13年に開始されたが、日本が14年に対ロ制裁に加わったことにより中断された。

ロシアはまず何よりも、ロシア極東地域における安全保障の問題に関心を持っている。ロシアは、少なくとも公式には、在日米軍の存在が自国にとっての懸念材料であるとは見なしておらず、ソ連時代のような日米安保への批判を差し控えている。ロシアは安倍政権の安全保障政策を、中国の強引な政策に対抗する理に適ったものだと考えている。さらにロシアの政治エスタブリッシュメントの中でも保守的な人々は、日米安保が日本の軍事的な野心を抑止するメカニズムであり、この安保条約がなければ日本は再び軍国主義への道を歩むこともあり得るとさえ考えている。

日本、中国、ロシアの駆け引き

安保における日ロ両国の対話の中で、最も大きな摩擦となるのがミサイル防衛の問題だ。米国が東アジアの同盟国にミサイル防衛システムを配備していくというこの政策は、ロシアにとって全く受け入れがたい。ミサイル防衛システムの運用はペンタゴン(米国防総省)の手に委ねられており、ロシアは、韓国と日本に配備されれば、この地域がさらに不安定化すると考えている。

高高度防衛ミサイル(THAAD)は、必要であれば防衛から攻撃へと転換できる。この極めて精密で高性能のロケットは、北朝鮮だけでなく近隣の国々を標的にすることも可能だ。ロシアと中国は、2016年にはミサイル防衛システムに対抗するための合同演習を行っている。

この問題はロシアにとって、日ロ間の安全保障をめぐる最も切迫したテーマである。ロシアはこれからもミサイル防衛システムを潜在的にロシアに向けられたものであると認識し続けるだろう。

THAADは17年中に在韓米軍へ配備されることが決まっており、ロシアと中国は軍事・軍事技術協力をさらに強化して対抗する構えだ。日本はこの動きについて、自国にとって非友好的な行為であると捉えていくだろう。

中国の動きは、日ロ関係に大きく影響を及ぼす。日本は、ロシアと中国が必要以上に緊密な関係にならないよう、あらゆる手を尽くすだろう。両国が軍事同盟を結ぶことは、日本にとっては悪夢に他ならない。

尖閣諸島を巡る問題で中国がロシアを味方に引き入れようと意図していることは、日本でもよく知られている。もちろん日本は、ロシアが中国の主張をそのまま支持することはないと考えている。しかしロシアとすれば、友好的な中国との関係を簡単に犠牲にするわけにもいかないだろう。

ロシアが中国に、あえて抑え気味な態度を通しているにもかかわらず、ロシアと中国との取引は潜在的に日本に対抗するものであるという危惧が日本国内に存在している。日ロ「2+2」の再開など、日本が安全保障におけるロシアとの戦略的な対話を再開しようという背景には、中国との関係における自らの外交的な立場を強化したいという思惑がある。

日ロ経済協力は、東アジア安定への布石

「ロシアと中国、日本」というトライアングルで、最も結びつきが弱いのが日ロの関係だ。日本と中国のように緊密に依存する経済関係がないため、政治情勢の変化によってはすぐに壊れてしまう危険がある。それゆえ、昨年12月のプーチン大統領訪日の成果として、両国が最も注目したのが経済面での協力強化だった。

ロシアでは現在、シベリア、極東地域の経済発展に向けた協力相手として中国に取って代わることができるのは日本だけだと考えられている。中国とは(ウクライナ危機で西側の対ロ制裁が始まった)2014年から経済協力をかなり深めてきたが、期待を裏切られるような事態も数多くあった。

ロシアとって、日本との経済協力は単に中国の代わりというだけではなく、東アジアでより均衡のとれた外交を展開していくための重要な布石として捉えられている。日本にとってロシアとの経済協力は、政治目的のためだというニュアンスの方が強い。しかし日本にとっても、実際に得るものは多い。中東に依存しているエネルギー資源の多様化、インフラ輸出による国内経済成長への刺激、欧州への安価な輸送網の確保などである。

日本にとっての領土問題と、ロシアにとっての自国の経済発展。たとえ最終目的が異なり、交わることのない性質のものであっても、両国が正常な二国間関係を希求しているのは事実である。だからこそ、二国間の政治対話に大きな意義を見出しているのである。実際のところ、平和条約締結交渉が進展するか否かにかかわらず、私は日本とロシアの関係が近い将来、確実に発展していくと信じている。

(2017年2月14日記 原文ロシア語)

(※1)^ 「交流主義(transactionism)」国際政治学者カール・ドイッチュによる概念。各国が主権国家として存在し続けながら、戦争の可能性がゼロとなる「安全保障共同体」を形成すべきと提唱。

(※2)^ 2017年2月12日、北朝鮮は、昨年11月の米大統領選後で初めて、ミサイル発射実験を行った。今回は、弾道ロケットの射程距離を伸ばすほか、より迅速な発射を可能とする固形燃料が使用されているが、このような新型ミサイルの開発は、北朝鮮による大きな進歩といえる。

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  • [2017.02.23]

モスクワ国際関係大学教授、東洋学科長。ロシア科学アカデミー東洋研究所主任研究員。歴史学博士。専門は政治学、日本研究。1963年生まれ。モスクワ大学卒。一橋大学などで客員研究員を歴任。ロシア日本研究者協会会長、年鑑『日本』およびオンラインジャーナル『ロシアにおける日本研究』編集長などを務める。

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