高校生の海外修学旅行行き先:米国抜き、台湾がトップに

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日本と台湾。両者の関係は年々強まっている。2016年度に台湾から日本を訪れた渡航者は約417万人。そして、台湾を訪れた日本人も約190万人となっている。つまり、合わせて600万人規模という相互交流があった(いずれも台湾政府交通部観光局調べ)。

台湾の人口は約2355万人。これを踏まえると、約5人に1人の台湾人が年に1度は日本に赴いていることになる。対成人人口では4人に1人という割合で、韓国が約10人に1人、中国が約216人に1人ということを考えると、いかに台湾の「日本熱」が高いかが分かる。

日本を訪れる台湾人渡航者は、09年度には約102万人だった。これが13年度に約221万人とほぼ倍になり、16年度には約4倍となった。その背景には、円安傾向や格安航空会社(LCC)の就航、日本の地方空港との路線開設、そして、自治体や団体による台湾人旅行者の誘致合戦など、さまざまな要因が絡んでいる。

一方、台湾を訪れる日本人も増加傾向にある。書店には台湾についてのガイドブックや書籍がずらりと並び、中には「台湾コーナー」を設けるところもある。女性誌や専門誌などでは台湾特集が組まれ、テレビ番組で台湾が取り上げられることも、ここ数年で急激に増えた。

そんな中、この10年間で最も増えた渡航者は、修学旅行で台湾を訪れる日本の高校生たちだ。

2015年、台湾は海外修学旅行の行き先ランキングで1位となった(公益財団法人全国修学旅行研究協会統計)。これまでは米国が独走状態で、2位は長らくシンガポールだった。両国とも英語学習において利点があり、人気があるのは容易に理解できる。

一方で、台湾は行き先としては後発であり、誘致も積極的に行っていたわけではない。03年に台湾を訪問した日本の高校生は577人、学校数で言えばわずか9校に過ぎなかった。

それが14年には2位となり、15年には僅差ながらも米国を抜いてトップに立った。この年、224校の3万6356人が台湾を訪れた。米国は学校数では249校と首位を保っているが、生徒数は3万6170人、3位のシンガポールは147校、2万1000人となっている。

治安の良さと、日本への親近感

台湾が選ばれる理由は何だろうか。まず挙げたいのは治安の良さである。標示なども整備されており、初心者でも旅行しやすいと評価は高い。台北市観光伝播局の簡余晏(かんよあん)局長によれば、台北市はこの点を大変重視しており、老若男女を問わず「言葉ができなくてもスマートに楽しめる都市」を目指しているという。

日本への関心が高いことも重要なポイントだろう。台湾には日本語学科が設けられている大学が多く、日本語学習者が多い。こういった人々の力を借りる形で、他国では見られない台湾ならではの試みが可能になる。具体的には、日本語学習中の大学生をサポーターとして同行させ、班行動の時間を設けるのだ。これは異文化交流と街歩きの双方を楽しめるだけでなく、台湾の大学生にとっても生の日本語に触れられると好評だという。

日本人とのふれあいをいつも楽しみにしているという屋台の店主(片倉佳史氏提供)

大阪府立天王寺高校では、現地の高校生とともに夜市(ナイトマーケット)で食べ歩きを楽しむことを行程に盛り込み、英語や筆談でコミュニケーションを図りながら現地の文化に直接触れる試みを実施している。また、同校では生徒だけでの自由行動の日を設け、より深く台湾の文化を探る試みも行っている。こういったことができるのは、対日感情が良好で、治安も安定している台湾ならではのものと言えるだろう。

生活水準が比較的日本と近いことも重要だ。台湾では日本の音楽や芸能、スポーツの他、アニメや鉄道など、サブカルチャーへの関心もきわめて高く、趣味やレジャーなどの共通の話題が多い。また、修学旅行後のアンケート調査では台湾に対する満足度は高く印象もおおむね良好だという。中でも「友達ができてよかった」という声が多い。台湾人の気質や民族性に支えられている部分が多いとはいえ、日台間に共通する話題が豊富なことが根底にある。

また、日本と関わりがある歴史遺産が多く、こういったものから歴史を学び、考える機会を得られる。台湾では日本統治時代の半世紀もまた、台湾の郷土史の一部として認識されている。例えば石川県出身の八田與一技師は、台湾南部の大平原を豊かな土地に変えた功労者として、台湾では教科書でも取り上げられている。一方、石川県も八田技師が手掛けた烏山頭(うざんとう)ダムのある台南市との交流に熱心だ。県下の学校も修学旅行の行き先として台南を選び、郷土の偉人の足跡をたどる学習を行っている。

台北市の総統府(日本統治時代の台湾総督府)。台湾には日本統治時代の産業遺産や建築物が守られているケースが多い(片倉佳史氏提供)

台湾には日本統治時代に生まれ育った「日本語世代」と呼ばれる老人たちがいる。こういった人々を訪ね、実体験に基づいた話を聞くこともできる。東京都新宿区の目白研心高校では台湾の老人を囲み、台湾人の戦争体験を学ぶ試みを続けている。戦時下の台湾で人々は何を思い、何を考えていたのか。日本語で熱く思いを語る姿に、心を打たれる生徒が多いそうだ。

また、東京都北区の順天高校では「互いに学び合うこと」をモットーに、海外研修旅行を実施している。生徒たちは事前に研究課題を決め、現地の高校生と共同で交流や研究を行う。同時に日本の伝統文化を現地で紹介する取り組みも行っている。「遊び」の要素はほとんどなく、あくまでも「研修」にこだわった行程を組んでいるという。

当然ながら、修学旅行の行き先は学校が選定する。その際に最も重視されるのは、「その土地で何を学べるか」という点だ。修学旅行は物見遊山ではなく、行った先々で見聞を広め、さまざまな体験をする学校行事である。そういった意味からも、台湾は上述のような国際社会やアジア情勢、異文化コミュニケーション、日本との歴史的な関わりなど、学ぶべきテーマが豊富にある。

台湾・烏山頭ダムのほとりにある八田與一技師の銅像(片倉佳史氏提供)

姉妹校締結、交換留学につながる例も

台湾への修学旅行は、都道府県別の学校数で言えば東京都や大阪府、広島県が上位を占めるが、石川県、静岡県など、自治体そのものが熱心に後押ししているところもある。

静岡県は、修学旅行を通じた海外体験を重要視していることに加え、2009年に開港した静岡空港の利用促進の狙いもあるという。16年度は公立高校だけで10校、1414名の高校生が台湾を訪れた。

最近は修学旅行の交流がきっかけとなって姉妹校関係の締結や交換留学などが行われるケースが多い。台北市では修学旅行生がより充実した台湾滞在を楽しめるように『高校生・大学生のための台北満喫ハンドブック』を作成し、旅行代理店を通じて無料配布している。

筆者は講演の際、台湾に赴く前の事前学習の必要性を強調している。基礎知識のない状態で台湾に向かってしまうと、当然ながら収穫は小さくなってしまう。また、最低限のマナーや常識を身につけ、コミュニケーション・テクニックを会得しておくことも重要だろう。出発前にどれだけ準備を整えたかで、実際の成果は大きく変わってくる。

正式な国交がないにもかかわらず、物理的にも心理的にも日本との距離が近い台湾。若者たちの交流が盛んになることで、理想的な国際理解や異文化コミュニケーションが進行している。

バナー写真:台北の夜景(バナー写真、文中写真はいずれも筆者提供)

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