台湾社会はCP信仰から脱却せよ

野崎 孝男【Profile】

[2017.09.24] 他の言語で読む : 繁體字 |

先月、フェイスブック上のインターネット媒体で、台湾の低賃金とCP(コストパフォーマンス)値の関連について話したインタビューが放送後1週間で瞬く間に150万ビューに達し、シェアは1万3000を超えた。小さく誕生したばかりの媒体だったので、これほどの大騒ぎになるとは想像もつかなかったが、それだけ台湾人にとって関心が高いテーマだったのだろう。放送後に寄せられたメッセージの中には、「勇気ある発言」「よく言ってくれた」「みんな怖くて触れられないテーマ」といった反応があったことから、低賃金とCP値の関連性については、もともと多くの台湾人が問題意識を持っていたのかもしれない。

生産コストから見る高いCP値実現の難しさ

台湾で飲食業の経営をしていると、必ずと言っていいほどCP値が高いか低いかという基準で評価を受ける。台湾人が使用する「CP値高」とはコストパフォーマンスが高いということである。誰しも支払う価格より高い価値を感じられるサービスを受けられるならばうれしいには違いないが、そもそも支払う価格の価値より高いサービスが得られるということは可能なのか、また、可能であるならばどのような企業努力によりその高いサービスは生み出されるのか。台湾人のソウルフードの一つでCP値が高いといわれる台湾風フライドチキンを例に考えてみる。

台湾風フライドチキンは鶏の胸肉を丸ごと1枚揚げた台湾の国民食ともいえる食べ物で、長さ30センチ以上、幅15センチ程度で細めのB4サイズを想像してもらうと、いかに大きいかがよくわかる。台湾ではこの巨大なフライドチキンが平均55元(1元約3.7円)程度で売られている。では1枚のフライドチキンを作るために、いくらコストがかかるのか、見ていくこととする。メインとなる鳥の胸肉は骨付きで1キロ110元(骨なし1キロより骨の重量分が安い)として1枚約250グラムで27.5元、これに小麦粉1元、調味料3元を足すと31.5元で、すでにコストは売価の約57.2%になる。さらに包装用紙袋1枚0.5元、長串0.1元、ビニール袋0.4元で合計して1元。ここからは消費者に見えにくいコストになるが、フライヤーに使う油は1缶18リットル約610元でフライヤー1台の容量が23リットル、2台使用で油を2日間で交換すると仮定し2日で46リットル、1559元かかる。1日200枚のフライドチキンを販売すると、1枚当たりの油代は3.9元にもなる。ここまでのコスト全てを合計すると、36.4元で売価に対する比率は66.2%に達している。残りの33.8%で家賃、電気、ガス、水道、人件費、投資回収の費用を負担しなければならない。

次に1か月の売り上げのシミュレーションをしてみる。1日の労働時間は営業時間6時間、仕込み準備1時間、掃除片付け1時間の合計8時間とする。1台のフライヤーで同時に揚げるのは5枚とし、フライヤー2台で最大10枚。1回の生産に15分かかるとすると、営業時間内をずっと売りっぱなしでも1時間で40枚、6時間で240枚となる。実際は客足が途絶える時間もあるので売り上げを1日200枚とすると、1日の営業額は1万1000元になる。週1の休みとして月の営業日数は26日。1か月の売上高は28万6000元となる。ここから商品の原価18万9332元を引くと残りは9万6668元。家賃を2万5000元、電気、水道、ガスを合わせて1万元とすると、残りは6万1668元。社員を2人とアルバイトを1人雇うためには企業の社会保障費負担も考えると社員の給料を2万2000元弱、アルバイトの給料を8500元以内に設定しなければ赤字となってしまう。しかもここでは開店するために投資した資金の回収を考慮していないので実際は赤字だ。さらに言えば悪天候による売り上げ減少なども加味していない。台湾人のソウルフード台湾風フライドチキンは、低賃金により支えられているといっても過言ではない。

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  • [2017.09.24]

台南市城市外交顧問、創新美味股份有限公司董事長、崑山科技大学非常勤講師。1974年生まれ。台湾大学法学院博士課程後期単位取得満了。専門は公共政策、企業マネジメント。台湾で飲食店を9店経営。論文に「中華民国憲法における立法院の女性議席の確保論」等。

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