日本の皇室をめぐる現状と課題

笠原 英彦【Profile】

[2012.02.09] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | Русский |

政府は女性皇族が結婚後も皇室にとどまる「女性宮家」の創設など皇室典範改正問題の検討を進める方針だ。今なぜ、「女性宮家」の議論が浮上しているのだろうか。

野田内閣は昨年11月、皇族女子が結婚後も皇室にとどまりうるよう「女性宮家」の創設を検討する方針を表明した。現行の皇室典範では、皇族女子は天皇及び皇族以外の者と婚姻した場合は皇族の身分を離れると定められている。現在、皇室には30歳までの若い皇族が9人いるが、男子は5歳と最も年少の悠仁親王殿下のみである。残る8人は女子と、その男女比は極端にアンバランスな構成となっている。しかも皇族女子8人のうち6人がすでに成年に達しており、近い将来、婚姻に伴い皇籍を離れる方が続出する可能性がある。皇族の減少により公務など皇室の活動に支障をきたすおそれが出てきたため、皇室のお世話役である宮内庁が「火急の案件」として内閣に対処を要請した。

現在の皇室制度

現在の皇室は、天皇陛下に加え、皇族である皇后陛下、皇太子ご一家や秋篠宮ご一家など23人で構成されている。日本国憲法においては、天皇は国家、国民統合の象徴であって、その地位は主権者である日本国民の総意に基づくとする象徴天皇制度が定められている。同憲法は皇位継承について世襲、すなわち血統(血のつながり)によると規定している。憲法はこうした基本原理のみを定め、その詳細を皇室典範に委ねている。

皇室典範に基づき、皇位継承制度をはじめ、皇族、摂政、皇室会議などの諸制度が定立されている。皇位継承資格は、皇統に属する男系の男子に限定されており、皇族女子は皇位継承権を有していない。皇位継承順位は、長系、直系優先と定められている。現在の継承順位は、1位皇太子殿下、2位秋篠宮殿下、3位悠仁親王殿下、4位常陸宮殿下、5位三笠宮殿下、6位寛仁親王殿下、7位桂宮殿下の順となっている。皇族の範囲としては、男子の場合、天皇の子や孫が「親王」、ひ孫以降が「王」であり、女子の場合、天皇の子や孫が「内親王」、ひ孫以降が「女王」と称され、配偶者や寡婦も含まれている。

現行の皇室典範には、皇族の子孫はみな皇族となる「永世皇族制」が採用されている。皇族男子の婚姻は、皇族議員のほか衆参両院議長や内閣総理大臣、最高裁判所長官らいわゆる三権の長などにより構成される皇室会議の議を経ることが求められ、その配偶者も皇族となる。これに対し、皇族女子の婚姻には皇室会議の議を要しない。そのため、現行法のままでは、適齢期を迎えた皇族女子の婚姻に伴う皇籍離脱を止める術はない。

小泉内閣による試み

今回、野田内閣が検討に入った「女性宮家」を創設するには、皇室典範の部分的な改正が必要となる。皇室典範の改正については、すでに2005年に小泉内閣が「安定的な皇位継承」をめざした本格的な試みがある。小泉首相の私的諮問機関である「皇室典範に関する有識者会議」は同年11月下旬、最終報告書を提出した。有識者会議は、「皇位継承資格を女子や女系の皇族に拡大することが必要である」と結論づけた。これに対し、男系継承こそが日本の皇室の伝統であるとして、保守系の団体から「女系拡大」に反対する声が挙がった。こうした諸団体は各地で集会を開くなど反対運動を展開し、全国会議員の3分の1の反対署名を集め首相官邸に慎重な対応を申し入れた。

当時、内閣支持率が高く国民的人気に支えられた小泉首相は、2006年1月召集の通常国会に有識者会議の報告書を踏まえた皇室典範改正法案を提出する方針を表明した。しかし、同年2月上旬に秋篠宮紀子妃殿下の「ご懐妊の兆候」が報じられると、小泉首相は改正法案の提出を断念した。そして同年9月、秋篠宮家に待望の男子、悠仁親王殿下が誕生したのである。皇室には秋篠宮殿下誕生以来、実に41年ぶりの皇族男子誕生であった。

親王の誕生により、多くの国民は皇位継承問題が解決したと考えている。しかし、宮内庁は依然として「問題が解決されたわけではない」との見解を示している。現在、皇室には6つの宮家があるが、近い将来に年配の皇族男子の薨去や若い皇族女子の婚姻に伴う皇籍離脱により、皇族が減少し宮家が廃絶する可能性がある。そこで昨年末、政府は「女性宮家」の創設の検討を開始したのである。

「女性宮家」創設の目的は

「女性宮家」は皇族女子が結婚後も皇室に残り、独立して生計を立てる宮家のことである。「女性宮家」はこれまでの日本の歴史上に存在しない。創設されれば、史上初ということになる。それだけに、慎重な検討が求められる。早くも男系継承の伝統を守ろうとする保守系の団体からは、皇族の減少により安定的な皇室の活動に支障が出るというなら、公務等を減らせばよいとの指摘や、「女性宮家」の創設よりも戦後GHQの意向で半ば強制的に皇籍を離れた11宮家の男系男子子孫を復帰させるべきであるとの意見が表明されている。また、男系継承の伝統を守ろうとする人々からは、「女性宮家」の創設が将来、なし崩し的に女系容認につながることを警戒する声も挙がっている。

したがって、もし「女性宮家」を創設する真の目的が皇室の活動を安定的に維持することにあるなら、皇室典範の規定する皇位継承資格や皇位継承順位を変更するべきではない。あくまで皇族女子が婚姻後も皇室にとどまりうるよう、皇室典範第12条を中心に関係条文の改正に限定すべきであろう。「女性宮家」も一代限りとし、対象となる皇族女子に皇位継承権を付与しない方がよかろう。確かに公務を減らせばよいとの意見もあるが、公務には法的な裏づけがなく、最終的には天皇陛下の意向しだいということになろう。

すでに述べたように、保守系の団体の中には、「女性宮家」を創設する前に旧皇族の男系男子子孫の復帰を検討すべきであるとの主張がある。現行皇室典範が禁じる養子の解禁は、どの宮家の養子になるかにより絶えず皇位継承順位に変更が生じる。やはり男性配偶者の皇室入りを考慮する方が現実的ではなかろうか。ただし、男系維持を守るためにこうした選択肢を採る場合、憲法の定める「法の下の平等」や「貴族の禁止」、婚姻の要件である「両性の合意」に抵触する可能性もあり、特別立法を視野に入れる必要がある。悠仁親王殿下までは皇位継承順位を変える必要はなく、女系拡大を企図すべきではない。

天皇陛下の公務や皇室の活動はすでに体系化しており、単純に減らすとバランスを欠くことになりかねない。皇室の活動を安定化するには、それを担う皇族の適正な規模を維持する必要がある。今回の改正では皇位継承問題を切り離し、皇族の減少をくい止めることで皇室の存続を優先すべきであろう。陛下のみならず、悠仁親王殿下の将来の物理的、精神的負担を軽減することが求められる。

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  • [2012.02.09]

慶應義塾大学教授。1985年、慶應義塾大学博士課程修了(政治学専攻)。法学博士。1988~1989年、2000~2001年に米国スタンフォード大学訪問研究員。著書に『象徴天皇制と皇位継承』 (ちくま新書、2008年)、『明治天皇――苦悩する理想的君主』(中公新書、2006年)など。

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