新プーチン政権の行方と日露関係

袴田 茂樹 【Profile】

[2012.04.02] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS |

3月4日のロシア大統領選で前大統領のプーチン首相が当選した。今後のロシア情勢と日露関係をどう見るべきか、袴田茂樹教授が解説する。

3月の大統領選挙でプーチンが約64%の得票率で勝利し、5月に再び大統領に就任する。今後のロシア情勢と日露関係を概観したい。

新たなプーチン時代の展望

昨年12月の下院選挙の後、大規模なプーチン批判のデモや集会がロシア各地で起き、政権を狼狽させた。大統領選挙に関しても、その公正さに対してはロシア内外で厳しい批判が出たが、カラー革命は回避できたし、当選によりプーチンは再び自信を強めている。一昨年以来、支持を失っていたプーチンが、なぜ一時的にせよ支持率を高めたのか。

第1に、2000年以来の国際的エネルギー価格の上昇による経済の向上がある。一般国民にとって、プーチンは依然として、経済発展と安定のシンボルなのだ。

第2に、最近のプーチン批判のデモや集会が結果的に「逆バネ」になり、1月以後、プーチン支持が高まった。一般民衆は、この政治変革を求めるデモに驚き、そして政権が突きつけた「混乱か安定か」、「90年代の混乱が再現する」という揺さぶりに動揺し、変革よりも安定を選んだのだ。

第3に、危機感を強めた政権は選挙前に、行政組織やマスメディアを「集票マシーン」として総動員し、またバラマキ的政策を乱発した。有力なクドリン前財務相が厳しく批判したのも、財政的裏付けのないバラマキ政策であり、その結果、クドリンは解任された。

第4に、NATO拡大、ミサイル防衛(MD)システム配備、「アラブの春」等を理由とした厳しい欧米批判も、支持率を高める要因となった。大国主義とナショナリズムの復活である。

政権不安定化の要因

ではこれからのプーチン政権は、本当に安定するのか。彼は強力な指導者になれるのだろうか。筆者はこれからのプーチン政権はこれまでと比べて、はるかに多くの不安定要因を抱えることになると予想する。その理由を説明しよう。

肥大する官僚主義や腐敗・汚職の蔓延で、国民の閉塞感は強まっている。大部分の国民は、政府も指導者や政治家も信頼しておらず、もっぱら個人生活に関心を向けている。プーチンの支持率も2010年秋以後、急速に下降していた。これからのプーチン政権が安定する可能性が低いと見る最大の理由は、今後は、彼の支持率を高めた前述の4つの要因がなくなるから、あるいは弱まるからだ。

第1に、世界の経済が停滞しているとき、資源輸出に頼るロシア経済が今後も急速に向上する可能性はない。第2に、「屈辱の90年代」への反動の心理はすでに忘れられつつある。第3に、バラマキ政策はもともと財政を無視したもので継続性がない。第4に、欧米との良好な関係は、経済発展のためにも必要だ。大統領選挙が終わった現在、すでに、イラン問題などでの欧米との対立を緩和しようという動きも見られる。

「政治の季節」は終わり、今後、プーチンの支持率は急速に低下するだろう。権威主義は今後も継続するだろうが、プーチンは独裁者にも改革者にもなれない。ただ、バランス感覚で権力を維持してきたこれまでの経験を生かして、激変を避けて何とか6年間は政権を維持する可能性は大きい。しかし、ロシア国内の閉塞感はさらに強まるだろう。

日露関係の可能性

今後の日露関係を展望しよう。ロシアと欧州との経済関係は今後停滞する。欧州経済が落ち込んでいるし、欧州はガスの輸入先も分散化させようとしているからだ。したがって、プーチンは今アジアに強い関心を向けている。ただ、昨年10月にプーチンは北京を訪問したが、対中ガス輸出交渉は、価格面で折り合わず行き詰まった。中国との経済関係では、ロシアは資源を輸出し工業製品を輸入する貿易構造に不満だ。シベリア、極東で中国経済の影響力が強くなりすぎることや移民の増大も警戒している。

そこでプーチンは日本との経済協力に関心を強めている。その理由は、日本は原発事故によりガス輸入が増えると見ているからだ。また、資源依存経済を脱するというロシアの最重要国家戦略から見て、日本にはそのためのノウハウや先端技術が豊富にあるからだ。ただ、日本との協力関係発展に強い期待はあるが、日本の北方領土返還要求が、プーチンにとって頭痛の種である。大統領選挙の直前に、プーチンは欧州や日本のマスコミ代表と会見した。このとき、日本からは朝日新聞の主筆が参加した。主筆に対してプーチンは自ら北方領土問題を持ち出し、「引き分け」、「始め」といった柔道用語を持ち出して、領土問題解決に関心を有しているポーズを示した。朝日新聞やその情報を基にした日本のマスメディアは、プーチンが「妥協」や「最終的解決」を呼びかけたので、彼が大統領になると北方領土問題も解決するとの期待感が高まった。しかし、しばらくして実際にプーチンが領土問題に関して述べたことは、従来のロシアの強硬論と変わらないことが判明し、期待感はしぼんだ。プーチンの主張は、実際には領土問題を棚上げして日露の経済関係を発展させたいということだ。今後、日露の経済関係の一定の発展はあるだろう。しかし、領土問題を解決した両国関係の真の正常化は、プーチン時代には訪れないだろう。

(2012年3月26日記)

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  • [2012.04.02]

新潟県立大学教授、青山学院大学名誉教授。1944年生まれ。専門は国際政治学、現代ロシア論。プリンストン大学客員研究員、東京大学大学院客員教授などを歴任。『深層の社会主義』(筑摩書房/1987年)でサントリー学芸賞。他に『現代ロシアを見る眼 「プーチンの十年」の衝撃』(共著・NHKブックス/2010年)、『現代ロシアを読み解く』(筑摩新書/2002年)、『プーチンのロシア 法独裁への道』(NTT出版/2000年)など。

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