「高年齢者に甘い」制度で若者の就職機会を失わせるな

政治・外交

政府は、国家公務員新規採用の大幅削減と退職者再任用の義務化の方針を決めた。堀江正弘政策研究大学院大学副学長(元総務審議官)は、「若者に厳しく、高年齢者に甘い」と受け止められる人事管理制度であってはならないと指摘する。

新規採用の大幅減と定年退職者再任用の義務化

政府の行政改革実行本部(本部長:野田佳彦首相)は、2013年度の国家公務員の新規採用全体の上限数を2009年度の約6割(56%)減に相当する合計3780人とする方針を4月3日に決定した。民主党政権になって、新規採用抑制の方針が毎年決定されており、2011年度の上限は4783人、2012年度の上限は6336人とされた。今回の新規採用抑制はこれらと比べても特に厳しいものである。他方、同本部は3月、「国家公務員の雇用と年金の接続に関する基本方針」において、公務員の年金の支給開始年齢が2013年度以降3年に1歳ずつ段階的に60歳から65歳へと引き上げられることに伴い、無収入期間が発生しないよう、定年退職する職員がフルタイム再任用を希望する場合その職員を採用するという方針を決定し、今後具体的な制度改正案を検討するとした。

公務員の総人件費の抑制は民主党がマニフェストに掲げた政策であるが、4月3日の行政改革実行本部決定では、「社会保障・税一体改革において国民負担をお願いする中、政府としても、公務員総人件費削減など自ら身を切る改革を実施する必要がある」とし、今回の新規採用抑制も「身を切る改革」の一環としている。しかし、これにより新規採用抑制分だけ国家公務員の定員が減るわけではなく、今回の新規採用抑制による人件費の削減効果も明らかではない。そして、若者が対象となる新規採用が抑制されるのに対して、現職の公務員については定年までの在職が保障され、さらに、60歳定年後においても再任用の制度があるため、政府の政策は、在職者、高年齢者には優しく、若者には厳しいと批判されている。「政府は民間企業には若者の求人を増やすよう求めながら、自らの採用を大幅に減らすやり方は一貫性に欠ける」という批判もある。また、公務員の年齢構成がいびつになり、人事管理がやりにくくなるといった意見もある。そこで、こうした観点を含め、以下、国家公務員の定員管理、採用抑制、高年齢公務員の雇用、人件費の削減などについて整理して考えてみよう。

定年までの勤務や退職者再任用が増加

日本の国家公務員の定員は法令により規制されており、いわゆる総定員法による総数の上限規制の下で、政府全体で業務の合理化などによる定員の削減を行いつつ、新規および既存の業務量の増加に対応するための最小限の増員を行うという仕組みで管理されている。三本柱からなるこの仕組みにより、長期にわたって計画的な公務員の削減が実施された結果、国家公務員の定員は減少を続け(図1)、労働力人口に占める公務員(地方公務員を含む)の割合を比較したデータでは、日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最少規模になっている(図2)。

日本の国家公務員の人事管理は、定員の制約と上に行くほどポストが少なくなるピラミッド構造の組織の制約の下で、毎年度の新規学卒者の一括採用や、採用試験区分と採用年次、勤務年数(年功)を基本とする昇進管理などを柱にして行われてきた。上位のポストほど少なくなるのに対応して、多くの省庁では高年齢の職員に対する退職勧奨が行われてきたが、これは通常、官庁による再就職のあっせんとセットで行われてきたため、近年、天下り批判が高まる中で再就職のあっせんが行われなくなると、定年前の早期勧奨退職の慣行も維持することが難しくなった。そして、60歳の定年まで勤務することが普通となってきた。また、2008年、複線型人事管理を進めるため、専門スタッフ職の制度が導入され、課長などラインの管理者ではないが給与などの面ではそれに近い扱いを受けられるようになり、高年齢の公務員もこれに就くことが可能になった。さらに、定年退職者についても、2001年に導入された再任用制度を利用する者が増加してきた。

出所:OECD “Employment in general government as a percentage of the labour force (2000 and 2008)”Government at a Glance 2011所収)を元に作成
注:アイスランドの数値は不明のため、この図には含まれていない。フィンランド、イスラエル、メキシコ、ポーランド、スウェーデンは2007年、フランス、日本、ニュージーランド、ポルトガルは2006年の数値。

若者減少で士気が低下する官庁の現場

定員削減、新規採用抑制、専門スタッフ職や再任用制度といった高年齢の公務員を対象とする制度や政策によって、官庁の現場ではどのようなことが起こっているか。まず、若い公務員、低職位の公務員が減少し、例えば、官庁の組織の最小単位である係のレベルでは、係員がおらず、係長がさまざまな仕事をすべて自分でせざるを得ないケースが増えている。日々の仕事に追われ、余裕のない組織になり、士気も低下しつつあるといわれる。また、優秀な人材でも課長などへの昇進年齢が40歳以上と遅くなっており、この面でも士気に影響が出ている。さらに、新陳代謝が遅れ、行政組織の活力の低下、保守化、革新能力の低下が懸念されている。また、平均年齢は上昇し、平均給与も上昇してきた。

冒頭に述べたように、政府は、3月に「定年退職する職員がフルタイム再任用(常勤勤務を要する官職への採用)を希望する場合、当該職員の任命権者は、定年退職日の翌日、常勤勤務を要する官職に当該職員を採用するものとする」として、今後具体的な再任用制度改正案を検討すると決定している。新しい制度が導入されれば、フルタイムの再任用者が増えることが予想される。官庁の現場で起きている上記のような問題を悪化させることがないよう、新制度と同時に適切な措置を講じる必要がある。

人事管理と雇用・福祉政策を分ける必要

定年退職前後の公務員に関する最近の政府の政策では、彼らの経験・能力を活用することが目的の一つに加えられているものの、実際には、行政組織や公務の能率、活力、能力の維持、向上という人事管理の基本的な目的よりも、定年退職前後の公務員に対する援護策という雇用政策あるいは福祉政策的な目的が優先されている。官庁の外に仕事を探す代わりに官庁の中に仕事を作り、年金を支給する代わりに税金(給与)で面倒を見ようとするようなものである。

国家公務員の人事管理を適正化するためには、行政管理政策と雇用・福祉政策を分けて整理し直す必要がある。まず、定年後の再任用者はフルタイムであっても通常の定員の枠内とせず、分離して管理する方がその趣旨が明確になる。また、それにより、若者が高年齢者のために就職の機会を失うことを避けるとともに、将来を担う新規学卒者など若手職員の安定的、計画的な確保を図れるようにすべきである。また、定年退職後の再任用者の給与水準はフルタイムであっても年金が支給される場合の水準かそれ以下に抑えるべきだ。また、給与水準について批判的な意見も聞かれる専門スタッフ職については、具体的な仕事の内容と当該ポストに任用される理由などを考慮して、給与水準を極力抑制すべきで、社会的に容認される以上のものになってはいけない。若者だけに厳しく、高年齢者や高位の者には甘いと受け取られるような人事管理制度であってはならない。

さらにいえば、現在の公務員の人事管理の問題の多くが、年功序列を基本とする昇進や昇給に起因するものであるとすれば、そのような人事管理を抜本的に改めることが最も重要なことと考えられる。

(2012年5月14日 記)

タイトル背景写真=東京・霞が関の官庁街近くを歩く人々(撮影=久山 城正)

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