ユーロ危機の真の解決に向けて

鈴木 一人【Profile】

[2012.07.09] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | ESPAÑOL |

6月末のEU首脳会議で、ひとまずギリシャのEU離脱は回避された。しかし、財政統合に踏み込まなければ、抜本的な解決にはならない。そのためには、何よりもEU市民の意識改革が不可欠だ。

2009年のギリシャから始まったユーロ危機は長らくヨーロッパを苦しめ、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルに公的支援が入り、ユーロ圏で4番目に大きな経済であるスペインまで金融支援を要請する泥沼に陥っている。

しかし、5月のフランス大統領選挙で経済成長を優先するオランドが当選し、6月17日に行われたギリシャの総選挙では緊縮財政を支持する新民主主義党が勝利した。そして同日行われたフランスの総選挙でオランド大統領の母体である社会党が勝利したことで潮目が変わった。6月28-29日に行われた欧州連合(EU)首脳会議では銀行の直接支援が合意され、欧州安定メカニズム(ESM)が国債を直接買い入れることも受け入れられた。

果たして、6月に入ってからの一連の変化は本当にユーロ危機の流れを変え、収束に向かったといえるのだろうか。

ギリシャ問題の火種はくすぶる

6月17日の選挙で新民主主義党(ND)が第一党となり、同じく緊縮財政策を支持する全ギリシャ社会主義運動(PASOK)等と連立を組むことで過半数を獲得し、ND党首のサマラスが首相となった。しかし、サマラスは網膜剥離で入院し、また欧州各国にパイプのある銀行経営者のラパノスを財務大臣に起用したが、突然の体調不良で就任前に辞任した。

このような波乱の幕開けとなった新政権であるが、緊縮財政策を進めるといっても、NDは僅差(きんさ)で反緊縮財政派に勝ったにすぎず、またギリシャ国民もユーロ離脱を恐れて渋々NDに投票したことから、国内での緊縮財政策に対する批判は根強い。サマラス首相も公約で緊縮財政策の施行を2年間遅らせるとしており、EU、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)のトロイカと融資条件を再交渉するとしている。

この再交渉は間違いなく難航すると思われる。というのも、既に推し進めてきた緊縮財政策によりギリシャの経済は悪化の一途をたどっており、緊縮財政を緩める余地がないからだ。サマラス首相がトロイカとの交渉で財政を緩和できなければ、緊縮疲れを起こしている社会は、また過激なデモなどに訴え、政権を混乱させる可能性が高くなる。そうなれば、結局、以前と変わらない状況に逆戻りし、ギリシャ問題は引き続き大きな問題となってユーロ危機の火種となるであろう。

1200億ユーロの成長戦略では不十分

次の問題は、6月22日に行われた仏独伊西(スペイン)の4カ国首脳会談で出された「成長・雇用協定」である。オランド大統領が選挙戦の公約に掲げた成長重視は、一方で成長を促進するための投資を行い、中産階級や労働者階級への緊縮財政の締め付けを緩め、他方で富裕層への課税強化によって財政バランスを維持するというものであった。

「成長・雇用協定」は1300億ユーロ(後に1200億ユーロ)をインフラ整備などに新規投資するという合意だが、メルケル首相はかたくなにフランスが求める新たな投資に対して否定的な立場をとった。そのため、融資とはいっても欧州投資銀行(EIB)による融資とEUが持つ「構造基金」等からの支出に限定され、新たに注入される「真水」は100億ユーロに限られ、しかもEIBへの増資という形をとった。そもそもの問題として、現在、危機に直面しているスペインなどは過剰なインフラ・不動産投資によるバブルが問題となっており、さらなるインフラ投資が現在の危機を解決すると考えるのは過剰な期待であろう。

妥協策で取り繕ったEU首脳会議

EU首脳会議(6月28-29日)の主要な論点は不良債権に苦しむ銀行にEUが直接資本を注入する仕組みを作る、という点であった。ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペインは、自国の銀行が自己資本不足に陥り、EFSF(欧州金融安定基金)の支援を受けているが、EFSFによる支援は直接銀行に注入されるのではなく、各国政府に貸し出され、政府が銀行を救済する仕組みとなっている。そのため、政府の負債は膨らみ、仮に銀行が更なる自己資本不足に陥って返済できなければ、政府が肩代わり返済しなければならなくなる。つまり政府債務がさらに増えることを意味するため、スペインなどでは国債の利回りが上がる傾向が続いていた。

しかし、EFSFが7月にESM(欧州安定メカニズム)に改組される際に、政府を経由せず銀行に資本注入できることにしたことで、イタリアやスペインは財政負担なく不良債権処理に踏み出すことができるようになった。だが、これは逆にESMがリスクを背負うことになる。ESMの原資はドイツやフィンランドといったAAAの格付けを持つ国々の信用で成り立っており、もしESMの資本が損なわれることになれば、そのツケはドイツなどが引き受けることとなる。そのため、ドイツはこの措置に強く反対していた。

ところが、イタリアのモンティ首相はスペインのラホイ首相を引き込み、ESMの直接資本注入がなければ1200億ユーロの成長戦略を承認しない、という駆け引きに出た。これは、今回のEU首脳会議の目玉を失うことを意味し、市場が失望することは目に見えていた。何とか成果を挙げたいと願うメルケル首相は、ESMによる直接注入を認める代わりに、EUによる銀行監督体制を構築するという対案を出して妥協した。

妥協の背景には、ドイツ、イタリアとも苦しい国内事情があった。メルケル首相はこれ以上、南欧諸国を支援することでドイツの負担が増えることに反対する世論を説得せねばならない。イタリアは国民に不人気な労働市場の改革と年金改革を進める中で、なんとしてでもEU首脳会議で成果を出さなければならなかった。こうした各国の事情によって何とか成立した妥協であるがゆえに、いつ壊れてもおかしくない不安定さを伴っている。

統合深化を目指した4人の「プレジデント」の敗北

現在のEUにはたくさんの「Presidents」がいる。ファンロンパイEU首脳会議常任議長(EU大統領とも呼ばれる)、バローゾ欧州委員長、ユンケル・ユーロ圏財務相会議議長、ドラギECB総裁はいずれも英訳するとPresidentと呼ばれる(このほか、ブゼク欧州議会議長もPresidentである)。今回のEU首脳会議で、ファンロンパイ、バローゾ、ユンケル、ドラギの4人のPresidentsが共同で、金融統合(銀行同盟)、財政統合(ユーロ共同債)、経済政策の統合などを含めた、統合深化を目指した提案をしていた。このうち、預金保護や銀行の救済を一元化する銀行同盟には至らなかったが、EUによる銀行監督の一元化とESMによる銀行への直接資本投入は決定された。また、財政統合の入り口となるユーロ共同債、そして経済政策の統合については、長期的な工程表を作るという合意にしか達しなかった。

2009年に発効したリスボン条約で権限が強化された、EUのリーダーたるべきPresidentsが束になってかかっても、加盟国の利害を調整することも、EUの危機を乗り越えることもできなかったことが明らかになった。その意味では、制度強化によって統合を進め、問題を解決するというこれまでのEUメソッドは機能せず、加盟国の妥協でしか解決を見出すことができなかったことは、欧州統合の現状を如実に物語っている。

金融は統合、財政は分離のジレンマ

6月に入ってからの一連の動きは、ユーロ危機がとりあえず一息ついた状況を作り出した。しかし、これが問題の根本的な解決に結び付くとは言い難い。すでに述べたようにギリシャ問題は再燃する可能性が高く、スペインのバブル崩壊後の不良債権処理もうまくいく保証はない。

今回のEU首脳会議で出された結論が問題の根本的な解決に至っていないのは、ひとえに金融の統合と財政の分離という構造が変わっていないことにある。銀行監督の一元化や銀行への直接資本注入は、ある意味では金融統合を進めた時点で行っていなければならない措置であった。しかし、預金保護や銀行の救済といった巨額の資金を必要とする銀行同盟に対しては、その原資となる資金を各国の財政に依存せざるを得ず、他国の預金者や銀行のために自国の税金を使うというのは、なかなか国内で同意を得ることが難しい。

仮に銀行同盟が実現したとしても、それが財政統合に発展するとは限らない。財政統合はユーロ共同債のように、他国の財政を賄うための借金を自国が負担するというだけでなく、他国の財政赤字を自国からの資本移転によって埋め合わせるということも含まれる。すでに巨額の債務を背負っているギリシャやスペイン、イタリアに対して、ドイツが無条件で資本移転し、財政を埋め合わせることは、現時点では想像することが難しい。

必要なのは市民の意識改革

このように考えると、ユーロ危機の根本的な解決のためには、繰り返される危機に直面し、そのたびに短期的な解決を小出しにしながら、徐々にユーロ圏は一蓮托生(いちれんたくしょう)であるとの認識を高め、ユーロの問題は自分の問題である、と多くの人が考えるようになるしかないのだろう。それは、経済低迷にあえぐ地方を、経済が豊かな都市部が支援することが当たり前になっている一国経済のようなレベルでの「国民意識」や「連帯感」を必要とするだろう。

そうなると、ユーロ危機の解決は、経済的な措置や政治的な解決ではなく、ユーロ圏に住む人々の意識やナショナリズムのレベルにあるといえる。果たしてユーロ危機は、そうした「EU市民意識」や「連帯感」を生み出すことができるのだろうか。政治指導者たちはそうした感覚を生み出すような方向づけをしているのだろうか。これからのユーロ危機の行方を占うに当たって、こうした意識のレベルにも着目してみていく必要があるだろう。

ユーロ崩壊回避への動き
2012年5月6日 仏大統領選第二回投票で社会党フランソワ・オランド氏が勝利。財政再建と成長路線の両方を追求するという認識を示す。
6月17日 仏総選挙で左派が躍進。オランド大統領は成長重視の経済政策などの選挙公約を実現するための地歩を固める。
6月17日 ギリシャ再選挙で緊縮策を支持する新民主主義党(ND)が勝利を収める。
6月20日 ギリシャでNDを中心にした3党の連立政権が発足。NDのサマラス党首が首相に就任。 EU、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)の3機関で構成する「トロイカ」からの支援条件である赤字削減と改革の実施に関し、支援条件を緩和するように交渉を始める。
6月22日 ローマで仏独伊西(スペイン)の4カ国首脳会議。域内総生産(GDP)の約1%(=約1300億ユーロ)に相当する成長支援策を導入する必要があるとの見解で一致。
6月28-29日 ブリュッセルでEU首脳会議。経済成長を促進するために実体経済に約1200億ユーロの資金を投入することで合意。また、欧州安定メカニズム(ESM)が、経営不振に陥ったスペインなどの銀行に対し、資本を直接注入する危機対策で合意。

(2012年7月5日記)

タイトル背景写真:EPA=時事

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  • [2012.07.09]

北海道大学大学院教授。1970年生まれ。2000年英サセックス大ヨーロッパ研究所博士課程修了。専門は国際政治経済学。2008年から北海道大学準教授、2011年4月から現職。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店)で2012年度サントリー学芸賞(政治・経済部門)。ツイッター(http://twitter.com/ks_1013)でも積極的に発言。

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