凋落の日本家電、未来をどう開くか

木代 泰之【Profile】

[2012.06.22] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

不振にあえぎ、中国・台湾マネーに救いを求める日本の大手家電メーカー。その再生への道を探る。

日本の家電メーカーが苦境にあえいでいる。ソニー、シャープ、パナソニックの3社は2012年3月期決算で合計1兆6000億円という膨大な赤字を出し、経営の立て直しを急いでいる。赤字の原因はテレビ事業の不振。2011年はアナログ放送から地上デジタル放送への切り替えが終わり、政府の家電エコポイント制度も終了した。いわば国の電波政策や税金に助けられて需要を先食いしていた日本家電がとうとう息切れした。

水平分業に乗り遅れた日本家電

日本の電子産業の生産額は41兆円で、うちテレビ関連は6兆円を占めるので、影響は大きい。事業見直しや人員削減を進めるには相当のリストラ資金が必要になる。その資金調達を救っているのが中国・台湾マネーである。

シャープは今年3月、台湾の巨大企業・鴻海(ホンハイ)精密工業(ブランド名はフォックスコン)から1330億円の出資を受けて危機を乗り越えた。ホンハイはシャープ株の10%を握る筆頭株主になった。

パナソニックは昨年、中国の家電大手ハイアールに白物家電の一部(旧・三洋電機分)を100億円で売却し、ソニーもメキシコのテレビ工場をホンハイに売った。NECは中国のレノボと合弁のパソコン会社(レノボ51%)を設立した。

薄型テレビの売上高世界シェアと伸び率

  シェア(%) 伸び率(%)
サムスン(韓) 26.3 18
LG(韓) 13.4 2
ソニー(日) 9.8 -34
パナソニック(日) 6.9 -19
シャープ(日) 5.9 -30

シェアは2011年第4四半期、伸び率は2011年の前年比
(出典:Display Search)

1980年代に全盛だった日本家電がなぜこのように崩れてしまったのだろうか。この20年間に起きたのはデジタル化とインターネットの急速な発展だ。デジタル化で電子部品のコモディティ(汎用品)化とモジュール(部品集約)化が進んだ。中間財の市場が生まれ、標準化された部材を買ってきて組み立てれば誰でも低価格で生産できるようになった。「水平分業」が主流になったのである。

有名なのがベンチャー出身の米国のテレビメーカーVIZIO社だ。商品企画のみ本社で行い、パネルは韓国から、半導体は台湾から調達する。自社工場は持たずに台湾企業に生産委託し、中国で組み立て、米国で販売する。最もコストパフォーマンスに優れた企業や地域を選んで経営最適化を図っている。これだけの仕事をわずか90人の社員でこなし、米国市場で上位を争っている。

「自前主義」の高コスト体質

一方、日本家電は自らを柔軟に変化させることができず、技術の優位性を信じて「自前主義」「垂直統合方式」と呼ばれる伝統的な生産形態にこだわり続けた。パナソニックのプラズマテレビの場合、富山県の工場でシリコンから半導体を作り、姫路工場でパネルを生産し、それらを尼崎工場に集めて組み立てる。自前の工場・社員・技術で作るので、コスト削減に限界がある。

2009年には2000億円もかけて尼崎第3工場を増設したが、すでに始まっていた世界的な価格下落で傷口を広げ、わずか2年で操業を停止した。液晶テレビの「亀山モデル」で知られるシャープの亀山工場も、2004年の完成から5年で生産を停止している。

つまり日本家電が負けた根本的な原因は、いわゆる6重苦(円高、法人税率、労働規制、電力料金など)だけではなく、高コスト体質・技術の方向性・経営手法がグローバル化の中で国際競争力を失っているのに、方向転換ができないという体質にある。

日本家電がとってきた戦略は、水平分業ではなく、付加価値の高い目新しい技術を次々にテレビに盛り込んで価格下落を食い止めるという路線だった。その一つが3Dテレビだったが、専用メガネの評判が悪い上に飽きられて失敗した。

今は画面の解像度を4倍に高める「4K2K」(水平4000×垂直2000画素)のテレビを開発するという。4K2Kは映画館の大型スクリーンで上映する高解像度で、現在のテレビ局には送出する能力もコンテンツもない。人間の目にそこまで必要なのだろうか。

一方で、次世代の本命とされる有機ELテレビでは、先鞭(せんべん)をつけておきながら途中で放棄し、今になって先行する韓国のサムスンやLGを追いかけている。どこかチグハグだ。

中国・台湾マネーは「福の神」だ

日本家電はこれからどのように道を開けばよいのだろう。3社とも出血が続くテレビ事業のリストラが当面の優先課題だ。海外への生産委託、国内工場の閉鎖、子会社の統合、人員削減などが急務であり、シャープの奥田隆司・新社長は「行き過ぎた自前主義を見直す」と表明した。

これは正しい処方箋だが、実行はそう簡単ではない。日本では「敵は社内にあり」なのだ。ビジネスモデルを変えるには社内の反対を抑え込む力技が必要で、周りの空気を読むだけの社長には務まらない。成否は、危機感をバネにした再生の決意にかかっている。

その上で3社はそれぞれの得意技を生かせばよい。ソニーはデジタルイメージング事業(デジタルカメラ、ビデオカメラ、半導体センサーなど)に力を入れるという。パナソニックはグループ企業のパナソニック電工や三洋電機を活用し、住宅を中心に家電製品や太陽電池、蓄電池を統合した「スマートハウス」で勝負する考えだ。

シャープは、もしアップルがテレビ事業(アップルテレビ)に乗り出す時は、ホンハイを通じて受託生産する可能性が高いという。シャープにとっては独自の液晶パネル技術を生かす好機になる。

日本家電はこの際、中国・台湾マネーを「福の神」として役立てる発想が大切だ。ハイアールがパナソニックから買収した旧・三洋ブランド(アクア)の冷蔵庫や洗濯機はデザインを一新し、わずか半年で売れ行き上位を占めるまでになった。

旧・三洋の社員たちは、乏しかった開発費が潤沢になり、世界相手に戦える面白さを味わっている。ハイアールのグローバル戦略の下でアジア全体の開発拠点になる可能性もあるという。

日本家電の課題は新興国市場への進出だが、日本製のハイテク商品を新興国に持っていっても富裕層が買ってくれるわけではない。なぜ中国・台湾や韓国の家電メーカーは新興国で強いのか、現地の生活感覚に合わせた商品企画の巧みさやスピード感を謙虚に学ばなくてはならない。

将来は日本から世界企業が続出

以前は外国企業による買収に警戒感が強かった日本だが、最近は変わってきた。経営が行き詰まった日本企業はそのままでは事業消滅しかないことを思えば、外国資本によって技術や人材が生かされ、生産や雇用が維持されるのは喜ばしいことだ。買収後も日本法人として税金を払い、GDPにも貢献してくれるのである。

家電の外に目を向けると、日本の産業は水面下でたくましく変貌しつつある。2011年度に日本企業が外国企業に対して行ったM&A(合併・買収)は、金額が前年度比2倍の7兆3264億円、件数は2割増の474件で、ともに過去最高になった(株式会社レコフ調べ)。歴史的な円高が背景にある。

家電のように外国資本に救済される企業がある一方、外国企業を買収して世界展開に弾みをつける企業も増えているのが、今の日本の産業界の姿である。単に海外に子会社や出先を持つという国際化ではなく、世界で一番ふさわしい場所に生産・流通・販売などの機能を配置し、経営最適化を実現する世界企業がどんどん登場する予感がする。数年後には産業界の風景は一変していることだろう。

(2012年6月18日 記)

タイトル背景写真:AFP=時事/時事

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  • [2012.06.22]

1946年生まれ。経済・科学ジャーナリスト。東京大学工学部航空学科卒。NECで技術者として勤務の後、朝日新聞社に入社。主に経済記者として財務省、経済産業省、電力・石油エネルギー、証券業界などを取材。現在はさまざまな業種の企業人や研究者らと組織する「イノベーション実践研究会」座長として、技術革新、経営刷新、政策展開について研究提言活動を続けている。朝日新聞WEBRONZA執筆者。著書に「自民党税制調査会」(東洋経済新報社)、「500兆円の奢り―素顔の兜町」(共著、朝日新聞社)など。

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