「社会保障と税の一体改革」関連法案 衆議院通過の意義と理由

竹中 治堅【Profile】

[2012.07.30] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

消費税率引き上げを柱とする「社会保障と税の一体改革」関連法案が、民主、自民、公明3党協議の末に衆議院を通過した。このことの意義と理由を政策研究大学院大学の竹中治堅教授が解説する。

「社会保障と税の一体改革」関連法案は、民主、自民、公明3党により共同修正され、6月26日に衆議院を通過した。6月上旬から民主党と自民、公明両党の間で修正協議が行われ、3党は6月15日に法案を修正することで合意していた。しかしながら、26日の衆議院採決では民主党議員のうち72人が造反し、反対票を投じたり、欠席したりした。民主党は分裂し、小沢一郎民主党元代表をはじめ衆議院議員38名、参議院議員12名が7月2日に民主党を離党した。彼らのほとんどは7月11日に新党「国民の生活が第一」の結党に参加した。

「ねじれ」国会の下での政策決定停滞を打破

法案の柱は消費税を2014年4月に8%、2015年10月に10%に引き上げることにある。パートタイム労働者の厚生年金加入拡大など現行の社会保障制度の手直し案も盛り込まれている。また3党は新たに「社会保障制度改革国民会議」を発足させ、社会保障制度改革についてさらに議論することでも合意している。

2012年度予算90兆3000億円のうち半分近くの44兆2000億円を赤字国債によってまかなっているように、日本の財政は危機的状況にある。増税によりこの状況を改善することが期待される。

法案の衆議院通過には2つの重要な意義がある。第1は、増税という不人気な政策に民主党政権が取り組んだこと。第2は、国の基本的な政策である税制や社会保障制度の改革について与野党が合意できたこと。我が国は2007年7月以降ほとんどの期間、参議院で与党の議席が過半数に達せず、国会が「ねじれ」の状態にあったため、政策決定が停滞してきた。今回の衆議院通過は、「ねじれ」国会の下でも政策決定の停滞を打破する余地があることを示している。

本稿では、スペースの関係もあり、民主党政権が消費増税を推進した理由と与野党合意が成立した理由の2つに焦点を絞って議論したい。民主党の分裂については稿を改めて考えたい。

もともと消費増税路線だった民主党

民主党は2009年総選挙のマニフェストに消費増税を盛り込んでいなかった。当時の民主党代表で、総選挙後に首相に就任した鳩山由紀夫氏は「4年間は増税の必要はない」と断言していた。

ところが、2010年6月の菅直人氏の首相就任が転機となる。菅首相は7月の参議院選挙に際し、消費税を10%程度に引き上げる考えを示した。その後、菅首相は10月から社会保障制度改革と財源確保を課題として「社会保障と税の一体改革」の議論を始める。そして、2011年6月に「2010年代半ばまでに消費税率を10%に引き上げる」という方針を打ち出す。

菅氏は、首相就任直前は財務大臣であった。この間にギリシャの財政危機が深刻化し、同氏は日本の財政赤字に対する危機感を深めた。鳩山首相に消費増税を進言していたくらいである。このため、菅氏は首相就任とともに消費税引き上げに向けて舵を切ったのである。

また、野田首相は菅内閣の財務大臣であり、2011年8月の民主党代表選で消費増税を掲げて勝利する。野田氏は9月に首相に就任すると、一体改革関連法案の策定作業を進め、今年3月、国会に法案を提出した。

もっとも、民主党内での消費税引き上げの議論は急に起こったものではない。民主党はもともと消費増税に積極的であった。2004年の参議院選挙の際に民主党は3%の年金目的消費税を新たに導入することを訴えていた。年金目的消費税の導入は2005年総選挙の公約の1つでもあった。

「大阪維新の会」に対する共同戦線を組んだ与野党?

今回の与野党合意実現の上で重要なのは、自民党が民主党と妥協すると決断したことである。これには3つの要因がある。

1つ目は増税に反対した場合、これまでの自民党の主張との整合性を問われるからである。2010年の参議院選挙で、自民党は消費税率を当面10%に引き上げることを公約として掲げていた。次の総選挙でも税率を10%にすることを掲げる方針である。

2つ目は、増税をめぐり民主党が分裂することを期待したからである。

3つ目に、橋下徹大阪市長率いる「大阪維新の会」の台頭があることは間違いない。橋下市長は「決定できる民主主義」を掲げ、「維新の会」を率いて国政に進出する姿勢を強くにじませている。橋下市長が批判しているのは、与野党が「ねじれ」国会の下で対立し、重要な政策決定が遅れていることである。

「維新の会」は高い人気を誇っている。毎日新聞社が6月2日と3日に実施した世論調査では次期総選挙の比例代表の投票先として「維新の会」を挙げた回答者は近畿地方で実に41%に上っている。全国平均でも28%で、民主党の14%や自民党の16%を大きく引き離している。

自民党が法案の成立を拒めば、国民に「決定できない民主主義」の現状をさらに強く印象づけることになり、「維新の会」が勢いを増す可能性があった。同党の谷垣禎一総裁は野田首相に早期解散を求め続けてきた。法案成立を阻止すれば、野田首相は解散を余儀なくされたかもしれない。しかしながら、衆議院が解散されても自民党が有利に戦いを進められる保障はなかった。谷垣総裁や同党から与野党協議に参加した伊吹文明氏は、ともに選挙区が近畿地方の京都であり、こうした現状を意識しなかったはずがない。

このような事情が重なって、「社会保障と税の一体改革」関連法案は衆議院を通過したのである。(2012年7月20日 記)

タイトル背景写真:衆議院本会議で「社会保障と税の一体改革」関連法案への賛否の投票を行う衆議院議員ら(2012年6月26日、産経新聞社提供)

  • [2012.07.30]

nippon.com 編集企画委員。1971年東京都生まれ。1993年東大法卒、大蔵省(現財務省)入省。1998年スタンフォード大政治学部博士課程修了。1999年政策研究大学院大助教授、2007年准教授を経て現在、教授。主な著書に『参議院とは何か 1947~2010』(中央公論新社/2010年/大佛次郎論壇賞受賞)など。

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