危機に瀕するウナギ資源―最大消費国日本は積極的対策を

井田 徹治【Profile】

[2012.09.25] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

安価な加工済みウナギの輸入が定着する一方で、世界のウナギ資源は激減している。ウナギ資源の保全に向けて率先して取り組むことは日本の責務だ。

この夏、養殖ウナギの「原料」になるウナギの稚魚「シラスウナギ」の不漁に端を発したウナギの品不足と価格の上昇が大きな注目を集めた。ウナギの資源が危機的といわれるような状況にまで追い込まれたのは、河川環境の破壊も一因だが、最大の原因は、ウナギの資源管理の無策と、それが招いた乱獲である。世界のウナギの70%以上を消費している日本の業界や漁業者、行政、そして消費者にその大きな責任があるということになる。

天然資源に依存したウナギ養殖

日本のウナギの漁獲量は、シラスウナギ、河川や湖沼での親ウナギのいずれもこの数十年ほどの間に急減した。1961年には年間3400トン近くもあった親ウナギの漁獲量は現在では200トン近くにまで減少している。2011年の日本国内のウナギ消費量は成魚換算で約56000トンなので、「天然ウナギ」と呼ばれるこれらのウナギは全消費量の0・5%にも満たない。われわれが食べているウナギのほぼすべては、国内外の養殖池育ちの「養殖ウナギ」である。

ところが、ウナギの場合、人工養殖技術が実用化にほど遠いため、養殖ウナギといっても、天然のシラスウナギを捕獲して池の中で餌を与えて育てたものである。つまり、われわれはウナギ消費のすべてを天然の資源に依存しているということになる。そして、シラスウナギの漁獲量も親ウナギ同様、1963年の230トン余りから現在では10トンを切るまでに急減している。今季は10トンにも満たない3年連続の極度の不漁に見舞われた。ウナギ資源の危機が顕在化し、このままではウナギは絶滅に向かうとの懸念が現実のものとなってきたのである。

日本国内のウナギ生産量は1980年代後半までほぼ、年間4万トン程度で推移し、これに台湾からの輸入が2万5千トンから多い時では4万トン程度加わるという形が続いてきた。これに変化が現れるのは1987年ごろからだ。そのきっかけの一つは中国で日本向けのウナギの養殖業が盛んになり、安い労働力を利用した加工品の輸入が急激に増えたことだった。88年のウナギの加工品の輸入量は87年のほぼ2倍の3万トンとなり、その後も増加の一途をたどる。2000年には中国、台湾から過去最高の13万トン超のウナギが輸入され、国内の流通量は過去最高の16万トン近くに達する。15年ほどの間に、2倍近くに増えたことになる。

中国経由・加工済みウナギの「薄利多売」が定着

日本のウナギ消費は爆発的に増え、価格は暴落した。比較的高価なかば焼きをウナギ専門店で食べるというそれまでのウナギ消費のパターンも大きく変わり、ウナギ食の主流は、コンビニなどでの弁当、あるいはスーパーでパック詰めにされた加工済みのかば焼きになった。今ではウナギ専門店での消費は全体の約3割程度でしかないとされている。取引価格は、専門店のかば焼きよりもはるかに安く、ウナギの「薄利多売」傾向がすっかり定着した。中国からの加工済みかば焼きパックの大量流入に対応するために、国内の業者も加工済みの生産と販売にシフトせざるを得なくなったためでもある。

だが、短期間の「多売」がもたらしたものは、ただでも深刻化していたウナギ資源のさらなる悪化であった。ニホンウナギの漁獲量はさらに減少し、中国経由で日本に大量に輸入されたヨーロッパウナギは、絶滅の恐れがある野生生物種の国際取引を規制するワシントン条約の規制対象種となった。

ウナギ資源の危機が深刻化する中、このような薄利多売型のウナギ消費がいつまでも続かないことは明白なのだが、日本のウナギの販売、流通と消費の構造に大きな変化は見られない。これほどまでに資源が悪化し、ウナギ価格が高騰する中で、「夏の土用の丑(うし)の日」に向けて、コンビニやスーパーが依然として、安いウナギ製品の消費を煽り、中には値下げまでして「薄利多売」を続けようとしている業者があることが、それを象徴している。

実効性に乏しい水産庁の緊急対策

行政の無策がこれに追い打ちを掛けた。重要な漁業資源でありながら、日本にはウナギの資源量や漁獲量などに関する信頼できるデータはほとんどない。データがなければ適正な漁獲量などが分かるはずもなく、資源管理も一部の県を除いてないに等しいのが現実だ。ウナギ資源の減少を背景に、研究者の中には、早くからウナギ資源の科学的な調査と漁業規制の導入を求める声があったにもかかわらずこれを放置し、今日の事態を招いた水産庁など行政の責任は極めて大きい。ウナギの国際取引に関する規制も不十分で、不透明なウナギの国際取引が存在していることは関係業界の間では公然の秘密になっている。

資源の極度の減少とシラスウナギの価格の高騰を受け、水産庁もようやくこの6月末、緊急対策をまとめ、産卵に向かう親ウナギの漁獲の抑制とシラスウナギの河川への遡上を確保する取り組みを関係者に働き掛けるとしたが、強制力はなく、自治体関係者の間には実効性を疑問視する声がもっぱらだ。

6月半ばには水産庁の担当者が訪中し、中国・農業部の担当者と初の協議を行った。だが、実質的な議論は半日だけ。日本側が求めた養殖施設の見学も実現せず、次回の日程も決まっていない。7月末には、日本の呼び掛けで、ウナギの資源保護で協力する枠組みを中国、台湾との3者間で創設することに各国が合意し、漁獲規制を検討していくことになったが、データは不十分だし、実効性のある国際協力の実現にはほど遠い。

まず日本国内での資源管理対策が急務

ウナギ資源の復活と持続的な利用のために今、何より重要なのは、日本国内での資源管理の徹底と市場の適正化である。シラスウナギの漁獲量の大幅な削減は不可欠だし、不透明な輸入に対する水際での規制強化も必要だ。

最大の消費国である日本国内の対策を進めずに、関係国に資源管理での協力を呼び掛けても、理解は得られないし、不透明な国際取引が残れば、実効性は上がらない。ウナギの資源管理は、世界最大のウナギ市場を抱える日本が、率先的な取り組みによってこれまで果たしてこなかった責任を果たすことなしには実現しない。ウナギの生態に詳しい東京大学・大気海洋研究所の塚本勝巳教授を中心に、日中韓などの業界関係者も参加する「東アジア鰻資源協議会」は3月、河川・沿岸域での親ウナギ漁業の制限と、正確な統計データを得るため、シラスウナギ漁を国の一括管理とすることなどを提言している。

消費者とそれを支える流通業者の責任もまた重い。輸入ウナギの一時的な大量流入をきっかけに、かつては高級食材だったウナギはいつの間にか、コンビニやスーパーで大量に取り引きされるチープな食材になってしまった。輸入ウナギの大量流入によって価格が暴落した時期のキロ当たり800円台という価格に比べれば、同2000円を超える現在の成魚のウナギ価格は高いように思える。だが、かつては同1800円超で取り引きされることも少なくなかったことを考えれば「高騰」というような水準ではない。

これを機に、一時のバブルによって形成された現在の「薄利多売」「質より量」のウナギビジネスを「量より質」のビジネスに転換させることが必要だ。さもなければ、資源の減少はさらに深刻化し、質の悪い製品を食べさせられる消費者のウナギ離れに拍車がかかり、ウナギ業界全体の収益の悪化と地盤沈下が加速されるという三重苦の悪循環がいつまでも続くことになる。その先に待っているのはウナギ資源とウナギ漁の崩壊である。ウナギ漁、養殖や加工、販売流通にかかわる業者、そして何よりも「安ければいい」という日本の消費者の発想の転換と、責任ある行動が求められている。

(2012年9月11日 記)

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  • [2012.09.25]

共同通信社編集委員(環境・エネルギー・開発問題担当)。1959年生まれ。 1983年東京大学文学部卒業、共同通信社に入社。2001年から2004年、ワシントン支局特派員(科学担当)。環境と開発の問題を長く取材、気候変動に関する政府間パネル総会、ワシントン条約締約国会議、環境・開発サミット(ヨハネスブルク)、国際捕鯨委員会総会など多くの国際会議も取材している。著書に『サバがトロより高くなる日——危機に立つ世界の漁業資源』(講談社現代新書)、『ウナギ 地球環境を語る魚』(岩波新書)、『生物多様性とは何か』(岩波新書)など。

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