インフラ・クライシスを回避せよ

根本 祐二【Profile】

[2013.01.24] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | العربية | Русский |

従来指摘されてきた社会インフラの老朽化。笹子トンネルの崩落事故で、懸念が広がっている。財政逼迫や人口減少に直面する日本がとるべき今後の道筋について、東洋大学の根本祐二教授が提言する。

笹子は氷山の一角

2012年12月に発生した中央自動車道笹子トンネル事故によって、インフラ老朽化の問題への関心が一気に高まった。この事故の原因は、トンネル構造部分からつり下げられたコンクリート製天井板を支える金属製付属物の損傷と見られている。現在、検証作業が進められているが、建設後35年の間、金属製付属物が十分にメンテナンスされていなかったとすれば相当な問題があったと見るべきだろう。

トンネルに限らず、日本では第2次世界大戦終了後からインフラ整備が行われた。国土交通省社会資本整備審議会の資料によると、整備のピーク時期は1960年代~80年代に集中している。種類別には、道路が60年代後半、橋りょうが70年代前半、河川(水門、ダム)が80年前後、港湾が80年代前半、公営住宅が70年代前半、公園が70年代後半、学校施設が70年代後半〜80年代前半であり、現在30~40年が経過していることになる。

こうしたインフラのメンテナンスが不十分であれば、いずれは物理的に崩壊する。笹子トンネルは氷山の一角にすぎない。1962年に第1期が開通した首都高速道路は2012年の調査で無数のひび割れが発見され、全長の4分の1を速やかに更新する必要があると発表されている。東日本大震災では津波被害のなかった首都圏内陸部でも、ホールの天井が崩落したり、市庁舎が使用不能になる例が相次いだ。地震国の日本には世界一厳しい耐震基準があり通常は壊れない。東日本大震災はきっかけに過ぎず、真の原因は老朽化にあるのである。

一気に振りかかる更新投資

老朽化に対する最も有効な対策は更新投資である。毎年同程度の規模で公共投資が行われていれば、その規模の投資を継続することで老朽化したインフラも更新できる。今まで世界的にインフラの更新投資がさほど問題視されてこなかったのは、どの国でもインフラ整備が数十年単位の長期間にわたって行われたため、結果的には予算が足りていたからである。

だが、日本の場合、前述の通り70年代前後の特定の時期に集中して投資が行われ、2000年以降は急激に減少した。このことは、今後急激に更新投資需要が高まる一方、そのための財源である公共投資予算は非常に少ない、つまり更新投資のための財源が確保できないことを意味している。

筆者の知る限り、歴史上同じことが起きたのは米国だ。米国では1930年代のニューディール期に全米で橋りょう、ダム、道路が建設された。これらが50年を経て老朽化した80年代、ニューヨークで橋が落ちる事故が起きた。インフラ老朽化の弊害を実感した米政府は、ガソリン税の税率を引き上げ、橋りょう検査員制度を創設するなどの対策を打ち出した。米国ではその後も橋りょう崩落事故は起きているが、80年代の政策転換がなければさらに悲惨な状態になっていただろうと思う。

今の日本は80年代の米国と老朽化という観点で似通っている。だが、高度成長が止まり、高齢化が進み、人口も減少し始めた日本ははるかに深刻だ。税収は伸びず、増大する社会保障費の問題もある。

東洋大学PPP研究センターでは、自治体別に将来の更新投資金額と予算確保可能額を容易に計算できる表計算ソフトウエアを開発している。現在までに約30の自治体で公共施設の予算過不足額を計算したところ、どこの自治体も既存インフラですらすべてを維持する予算はないとの結果が出た。インフラが老朽化し、更新投資の山が一斉に到来する一方で、使える予算は減少して谷になっている以上、不足するのは当然のことである。

不足を賄うためには負債に依存せざるを得ないが、現在の日本の負債依存度は名目GDP(国内総生産)比200%を超えている。90年代のバブル崩壊後、税収低迷のなかで公共事業を拡大し景気を下支えしようとしたことに加えて、2000年以降は高齢化による社会保障支出の増大を賄うため国債が増発されたことなどが原因である。すでにOECD加盟国平均の2倍以上となり、ギリシャをも上回っている。これ以上大幅に国債を増発すれば、世界からの信認はさらに失われるだろう。

3つの処方箋で財政負担を引き下げる

窮地に追い込まれた日本であるが、有効な方法はある。

第1に、老朽化したインフラの維持管理・更新投資を優先し、新規投資を抑制することである。インフラの9割は国ではなく地方自治体が所有しているが、国の補助金、交付金の条件として連動させれば実効性が上がるはずだ。

従来は、新規投資を約束することが首長や議員の選挙に有利に働いてきた。しかし、ほとんどの国民は、今あるインフラすら維持できない状況を知れば、新しい道路や公共施設を要望している場合ではないと理解できるはずだ。筆者は、複数の自治体に対して住民意見を聞くアンケート実施を指導している。今まで実施した5自治体では、老朽化や財政の厳しさをきちんと説明することで、8割以上の市民が新規投資の抑制を支持することが明らかになっている。

第2に、公共施設に関しては学校施設を中核とした多機能化が有効である。今まで、地域には学校のほか、保育所、幼稚園、公民館、集会所、地区図書館、デイケア施設などが別々の建物として建設されることが原則だった。このため、それぞれの建物に駐車場、玄関、事務室、トイレ、階段、廊下などの共用施設が必要となり財政負担が増した。これを、学校を建て替える際に、学校だけでなくこれらの施設をテナントとして入れる方法にあらためることで、共用施設が不必要になる。その際、各施設の仕様を決めずに、将来の地域の人口構造やニーズの変化に応じてどのような用途にも変えられるようにしておくのが重要である。建築技術的にはすでに確立されているスケルトン方式が有効である。

第3に、道路、橋りょう、トンネル、水道、下水道に関しては予防保全マネジメントが有効である。現在、自治体が保有するこれらのインフラは、道路に穴が開くなどの具体的な障害が発生してから対処する事後保全が主流だ。これを、穴が開かないように道路を管理する予防保全に変える。予防保全費用は必要になるが、事後保全費用が大幅に削減されるので、合計したライフサイクルコストは有利になるはずだ。日常の保全業務が重要なので、専門的な民間企業にアウトソースするのが妥当である。また、できるだけスケールメリットを出すために地域全体のインフラを包括的にマネジメントすることが望ましい。最近では、将来の陥没につながる地中の空洞を容易に検知する技術も実用化されている。

上記の方法が確実に実施されれば、公共サービスの品質を維持しつつ3~4割の財政負担を引き下げることができる。今の日本に必要なのは、高度成長期からバブル期の「財政負担が多くてもインフラを大量に保有していることが豊かである」という理解をあらため、「財政負担が少なくても質の高いスマートなインフラを持つ」知恵である。それは、第2次大戦まで日本人が長きにわたって持ち続けた謙譲の美徳に相通じる。筆者は確実にこの問題には対処できると確信している。

老朽化インフラの問題は、日本だけでなく、アジア、アフリカの新興国にも共通している。皮肉なことに経済成長が早ければ早いほど、この問題はより厳しくなる。日本国内で的確に問題に対処することは、今後世界で深刻化する共通の課題に答えることにもなるのだ。

(2013年1月14日 記)

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  • [2013.01.24]

東洋大学経済学部総合政策学科教授。同大学PPP研究センター長。東京大学経済学部卒業後、日本政策投資銀行へ入行。経済企画庁、米国ブルッキングス研究所、開銀設備投資研究所などを経て2006年から現職。専門は地域・産業再生。近著に『朽ちるインフラ―忍び寄るもうひとつの危機』(日本経済新聞出版社/2011年)、『「豊かな地域」はどこがちがうのか』(筑摩書房/2013年)など。

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