不安の中で先祖帰りする若者たち
「夫は外、妻は家庭」意識の増加

本田 由紀【Profile】

[2013.02.28] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية |

昨年10月の内閣府による世論調査で「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」との考えに賛成する回答者が増え、中でも20代の増加が顕著だった。この調査結果を本田由紀・東大大学院教授が検証する。

内閣府が数年ごとに実施する「男女共同参画社会に関する世論調査」で「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考えに賛成する回答者の比率は、1992年以降2009年まで減り続けたが、2012年10月調査ではこの流れが反転し、賛成の比率が約10ポイント増加して半数を超え話題を呼んだ。

高齢者ほど「夫は外、妻は家庭」に肯定的であり、社会の高齢化に伴う回答者内の高齢者比率の上昇が、調査結果に反映されている。だが今回の調査結果の注目点は「夫は外、妻は家庭」に賛成する20代回答者の20ポイント近い大幅増である。

専業主婦へのあこがれに原因を求める解釈

この調査結果には、すでにさまざまな解釈が加えられている。調査の結果を報じた同年12月15日付日本経済新聞の記事には、「内閣府の担当者は『東日本大震災後の家族の絆をより重視する傾向の表れとみられる』と分析している」とある。同日付朝日新聞は、博報堂若者生活研究室アナリスト・原田曜平氏による、「リーマン・ショック後に若者の雇用環境が悪化した。現実は厳しく、普通は女性も働きに出なければならないという発想になる。『夫は外、妻は家庭』という生き方が手に入れにくいからこそ、逆にあこがれが高まったという面もあるのではないか」というコメントを掲載している。

また、12月28日付の毎日新聞には、中央大学教授の山田昌弘氏が次のようなコメントを寄せている。「この背景に、若者の劣悪な労働環境があることは間違いない。就職活動に疲れ果てた男子学生の一人が『専業主夫になれるものならなりたい』とこぼしていた。(中略)家で専業主婦が待っていることを前提とした働き方が日本企業の標準である。たとえ仕事は面白くても、残業や休日出勤を断りにくい状況では、専業主婦がいなければやっていけないと考える男性と、結婚し子どもが生まれたら働き続けるのは無理と思う女性が増えるのは仕方がない。かといって、低収入の非正規雇用では仕事のやりがいもなく、やらないで済むならと考える女性も増える。この専業主婦志向には大きな落とし穴がある。現在、若年男性の雇用も不安定になっている」

疑わしい絆の重視

内閣府の調査は粗い集計結果しか公表されておらず、これらの解釈がどの程度あてはまるのかは、傍証をつなぎ合わせて推測するしかないのだが、可能な範囲で試みてみよう。

まず、「大震災による家族の絆重視」は疑わしい。なぜなら大震災以前から、「夫は外、妻は家庭」を支持する意識の――特に若年層での――高まりを示すデータが存在するからだ。

2008年に国立社会保障・人口問題研究所が、有配偶女性を対象に実施した「全国家庭動向調査」でも、1993年の第1回調査から2003年の第3回調査まで減少してきた「夫は外で働き、妻は主婦業に専念すべき」という考え方が、2008年の第4回調査では反転して増加し、中でも20代の増加の度合いが大きい。

続いて、大まかには「雇用環境悪化仮説」といえる原田氏と山田氏の議論を検討してみる。

まず、原田氏のコメントにある「リーマン・ショック」が若者の意識を変える重要なきっかけとなったとは言い切れない。若者の雇用状況が最も悪化していたのは2000~2004年頃であり、その頃はまだ「夫は外、妻は家庭」意識は減少傾向にあったからだ。また、山田氏のコメントには既婚男女の生活戦略の問題と、未婚男女の結婚観が混在し、さらにそれぞれについて男女の見方が含まれており、各要因を分けた後に検証する必要がある。

安定志向の若者と不安な母親

2010年国勢調査によれば、25~29歳の未婚率は男性で約7割、女性で約6割であり、今回の内閣府調査でも20代回答者の過半数は未婚者と推測できる。公表されている集計結果には、男女別に年齢層と既婚者・未婚者の回答結果はあるが、年齢層と未既婚の区別を重ね合わせた回答はない(表)。しかし、多くが若年層に属すると考えられる未婚者の回答では、男女とも「夫は外、妻は家庭」に賛成する度合いが高い。ではなぜ未婚の若年層でこの考えへの賛同者が多いのだろうか。

20代未婚者の中には在学者が含まれてはいるが、多くは既卒で就労している。2011年の労働力調査年次詳細集計から、内閣府調査の年齢の区切りに近い25~34歳の雇用形態を参照すると、男性の15.2パーセント、女性の41.0パーセントが非正規雇用であり、残りは正規雇用である。

また2011年に労働政策研究・研修機構が東京都の20代の若者に対して実施した「第3回若者のワークスタイル調査」によれば、この時点で20代の若者は2004~2008年頃の景気回復期に新卒としての就職や早期転職の時期を迎えており、2006年の第2回調査と比較して男女とも正社員比率が増加している。さらに同調査では、2001年の第1回調査と比べフリーター的な働き方への共感が薄れ、正社員や長期勤続など「安定志向」的な働き方への支持が増大している。

では、既婚者についてはどうか。「全国家庭動向調査」から既婚女性の就業形態別(年齢層による区分はなし)の意識を見ると、第3回調査から第4回調査にかけて「夫は外、妻は家庭」への賛成が専業主婦と自営・家族従業者ではほとんど変化がないが、常勤者の間では12ポイント、パートでは8ポイント増加している。また同調査では、「夫や妻は、自分たちのことを多少犠牲にしても、子どものことを最優先すべきだ」という項目に賛成する割合も、20代および常勤もしくはパートの妻において第4回調査で上昇している。

ちなみにベネッセ教育研究開発センターが小中学生の親に対し1997年から実施してきた「子育て生活基本調査」(直近は2011年)によれば、「子どもがすることを親が決めたり、手伝ったりすることがある」、「子どもの教育・進学面では世間一般の流れに乗り遅れないようにしている」、「子どもの将来を考えると、習い事や塾に通わせないと不安である」などの項目を肯定する度合いは、近年になるほど上昇している。

「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に賛成する割合 ^

(内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」に基づき作成)
  2012年10月調査  前回調査(2009年10月)との比較
  賛成 どちらかといえば賛成 「賛成」へのポイント増 「どちらかといえば賛成」へのポイント増 両回答のポイント増合計
全体 12.9 38.7 2.3 8.0 10.3
女性 12.4 36.0 2.9 8.2 11.1
男性 13.3 41.8 1.4 7.8 9.2
年代別(上段が女性、下段が男性)
20~29歳 5.6 38.1 2.2 13.7 15.9
9.3 46.4 6.5 14.9 21.4
30~39歳 6.6 35.0 1.0 4.5 5.5
10.7 41.5 5.8 1.3 7.1
40~49歳 7.1 33.8 4.5 3.1 7.6
10.3 40.6 4.5 4.3 8.8
50~59歳 6.2 34.2 1.5 9.0 10.5
8.7 38.5 -1.7 4.9 3.2
60~69歳 11.9 40.3 -2.6 13.8 11.2
12.7 43.1 -2.6 15.0 12.4
70歳以上 27.0 35.2 4.3 6.1 10.4
22.9 42.1 -0.7 6.0 5.3
従業上の地位別(上段が女性、下段が男性)
雇用者 4.9 30.0 1.4 7.0 8.4
9.2 43.0 2.6 7.6 10.2
自営業主 11.6 37.9 7.0 14.9 21.9
16.5 36.9 1.0 3.4 4.4
家族従業者 12.7 38.0 0.3 9.1 9.4
14.3 28.6 10.0 -19.2 -9.2
主婦・主夫 16.7 43.6 3.4 10.5 13.9
17.2 37.9 -2.8 8.8 6.0
その他の無職 24.4 34.2 4.7 3.9 8.6
20.0 42.9 -1.7 12.3 10.6
未既婚別(上段が女性、下段が男性)
有配偶(パートナー同居含む) 11.9 36.2 2.9 7.7 10.6
13.5 42.1 1.2 7.2 8.4
離別・死別 21.6 34.5 3.9 5.5 9.4
22.9 42.2 -6.4 16.1 9.7
未婚 4.7 36.3 0.8 14.6 15.4
10.0 40.6 5.7 7.6 13.3

 

調査結果を説明する仮説

これらを総合して考え、今回の内閣府調査への20代の反応を読み解くふたつの仮説を立ててみたい。

  • 「一時期的な景気回復による先祖返り」 20代の(主に未婚の)就労者の間で、一時期的な景気回復により雇用機会が回復・増加した結果、バブル経済崩壊以前の日本的な「男性が稼ぎ手」意識が一部で復活した。
  • 「子育て不安」 就労している既婚女性が仕事と家事、特に育児との両立のし難さを実感し、「子どものことを最優先」するには妻が家庭に入る方が望ましいという負い目の意識につながっている。

「先祖返り」は、今後も景気の変動に沿って浮沈を繰り返すと予測できる。「子育て不安」は、社会の将来像の不透明さや日本の子育てに関する家庭の責任の大きさを考慮すれば、これからも根強く続くと推測できる。

性別分業が強固な日本社会

日本は先進国の中でも、性別による役割分業が特に強固な社会であり、世界経済フォーラムが昨年10月に発表した男女平等度ランキングで日本は135カ国中101位、G8では最下位である。

一方、日本では少子高齢化が急激に進み、生産人口の減少を補うために女性の社会進出を推進しようとする政策動向も見られる。しかし従来の性別役割分業モデルと、子どもの将来への不安の双方に絡め取られ続けている日本社会では、働き方の変革や子育ての責任を家庭から社会全体へと大幅に移す政策がドラスチックに打ち出されない限り、性別を問わない個人の活躍や、ワークライフバランス(仕事と生活の調和)の実現は不可能であろう。

家計維持のため女性が「仕方なく」、「子どもを犠牲にして」と感じながら働かざるをえない、のではなく、男女とも柔軟に、自由に、のびのびとライフコース(生き方)を選択できる社会理念と制度設計が一刻も早く進むことを願う。

(2013年2月17日 記)

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  • [2013.02.28]

1964年生まれ。東京大学・大学院教育学研究科教授。著書に『若者と仕事――「学校経由の就職」を超えて』(東京大学出版会/2005年)、『多元化する「能力」と日本社会』(NTT出版/2005年)、『教育の職業的意義――若者、学校、社会をつなぐ』(ちくま新書/2009年)など。 ツイッターでも積極的に発言

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