日露関係 経済面で優位に立つ日本

袴田 茂樹【Profile】

[2013.06.13] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | العربية |

プーチン・ロシア大統領は、今年4月にモスクワで安倍首相と首脳会談を開催した。日本の首相が同国を公式訪問したのは10年ぶり。日露関係とプーチン政権の今後を袴田茂樹・新潟県立大学教授が考察。

プーチン政権は、メドベージェフとのタンデム時代(2008-2012)(※1)も含めると13年続いている。近年は反プーチン・デモも起きているが、概して高い支持率と安定性を誇ってきた。では、今後もプーチンへの国民の支持と政権の安定は続くか。それを考察するために、これまで高い支持率と安定をもたらしてきた諸要因が機能し続けるか考えてみよう。

プーチン政権を支えた要因は継続せず

プーチン政権に高い支持率をもたらしたのは、次の4要因だ。

(1) オイル(天然ガス)マネーによる経済の向上。
(2) 貧困と混乱の「屈辱の90年代」の反動としての、安定と秩序を求める国民の心理。
(3) ポピュリズム政策、具体的には軍人や治安関係者の給与や国民の年金引き上げ。
(4) 反欧米のナショナリズムと大国主義。

では、これらの要因が今後も継続するだろうか。

(1) 国際的なエネルギー価格は低落傾向にあり、今後、石油や天然ガスのもたらす収入でロシアが大きく潤う可能性は少ない。資源依存経済から脱却できる可能性も少ない。

(2) 屈辱的な1990年代の記憶は国民の間で徐々に薄れ、安定のみを求める心理は希薄になった。一方、社会全般における閉塞(へいそく)感や不満は強まっている。

(3) エネルギー輸出の減少で収入が減り国家財政は悪化し、エネルギー資源から得た収入を再配分するポピュリズム政策を継続できる可能性は少ない。

(4) 産業の近代化には、西側先進国の最新技術導入や、先端企業の誘致が不可欠である。従って、支持率を高めるための反欧米ナショナリズムの利用にも限界がある。プーチン政権にとっての、新たな安定要因が生まれる可能性も少ない。

以上を総合的に考えると、これからのプーチン政権はこれまでと比べて、より不安定になる可能性が高い。

プーチンには独自の理念や政策はなく、彼は各政治勢力のバランスを取る政策によって政権を維持してきた指導者であり、スターリン、フルシチョフ、ゴルバチョフ、エリツィンと異なり、独裁者にも真の改革者にもなれない。今のプーチン政権は、「停滞の時代」と言われたブレジネフ時代にますます似てきている。

ぜひとも必要な日本との経済協力

これまでの10年間の日露関係は互いに「相手を無視し合う」関係だったが、2013年4月末の日露首脳会談は両国関係の転機となる会談だった。この背景にはプーチンの「アジア重視政策」がある。欧州との経済関係が停滞しているからだ。

日本で自民党の安倍晋三政権が成立したことも重要だ。安倍政権は支持率が今も60~70パーセントで推移し、安定した長期政権になる可能性がある。ロシアにとってエネルギー輸出やハイテク導入、そして極東開発には日本との経済協力が、ぜひとも必要である。従って今、ロシアは10年ぶりの公式訪問を契機に、本気で日本に対応しようとしている。

日本も、エネルギーなどの経済関係の面から、また中国、韓国、北朝鮮との関係が悪化する中での国際戦略の観点からも、ロシアとの協力関係を強化しようと考えている。

民主党政権から自民党政権に代わったが、リアリストしか重視しないロシアは、観念的な民主党よりもリアリズムの自民党をはるかに高く評価している。親露派と言われた鳩山由紀夫首相や民主党政権は、ロシアは本気では相手にしていなかった。

問われるプーチン大統領の本気度

新たな日露関係で注目点は3つある。

(1) 経済関係における日本の優位――エネルギーを中心とする日露経済関係において、今では日本がロシアより強い立場にある。従来は、資源を保有するロシアが福島原発事故後の日本に対して高姿勢で臨んできた。しかし、ロシアにとって欧州のエネルギー市場が縮小し、中国はロシア産天然ガスの輸入価格で妥協せず、ロシア極東のガス田開発も液化天然ガス(LNG)輸出のインフラ整備も遅れている。一方、日本は、米国からのシェールガス輸入に向けた準備を促進し、メタンハイドレートの開発も進めている。さらに中近東のエネルギー資源もこれまで以上に大量にアジアに向かい、ロシアはアジア市場でも苦戦している。

(2) 安全保障面での協力――国際政治や安全保障面における協力に向けて、日露両政府は「2プラス2」、すなわち閣僚級の外務・防衛協議の立ち上げに合意した。ロシアが安全保障面で日本と協力関係を構築しようとするのは、ここ1、2年の新傾向だ。この背後には、明言はされていないが、中国ファクターがある。今年3月に習近平がモスクワを訪問してプーチンに、領土問題で中露が共同して日本に対処しようと提案したが、ロシアは応じなかった。公式的には中露関係は良好だが、ロシアは内心では中国に警戒心を抱いている。したがってアジア太平洋地域では日本やベトナム、さらに米国とも関係を強めてバランスを取っているのだ。

(3) プーチン大統領の真意――安倍・プーチンの首脳会談では、「戦後67年を経て日露間で平和条約が締結されていない状態は異常」という認識を両国首脳が共有し、平和条約交渉の「再スタート」「加速化」で合意した。このように、プーチンは日本との北方領土問題解決に前向きの姿勢を示し、日本の世論はプーチンの姿勢を評価して期待も高まっている。しかし平和条約締結に向けてのプーチンの姿勢が、日本との経済協力を促進するための単なるポーズに過ぎないと分かったならば、日本人のロシアに対する信用は地に落ちて、日露関係はこれまで以上に悪化するだろう。

(2013年5月30日 記)

記事上写真=代表撮影/AP/アフロ 文書の交換後、握手を交わす安倍首相とプーチン大統領(2013年4月29日・モスクワ)

(※1)^ プーチン大統領の最初の就任は2000年5月。2008年5月から2012年5月まではメドベージェフ現首相が大統領、プーチン現大統領が首相。

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  • [2013.06.13]

新潟県立大学教授、青山学院大学名誉教授。1944年生まれ。専門は国際政治学、現代ロシア論。プリンストン大学客員研究員、東京大学大学院客員教授などを歴任。『深層の社会主義』(筑摩書房/1987年)でサントリー学芸賞。他に『現代ロシアを見る眼 「プーチンの十年」の衝撃』(共著・NHKブックス/2010年)、『現代ロシアを読み解く』(筑摩新書/2002年)、『プーチンのロシア 法独裁への道』(NTT出版/2000年)など。

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