アベノミクスの要、「女性の活躍」を実現するために

岩田 喜美枝 【Profile】

[2013.06.26] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | االعربية | Русский |

安倍首相は成長戦略の中核が「女性の活躍」であると言明、その実現に向けて待機児童ゼロ、女性役員登用など3つの具体策を挙げた。岩田喜美枝・公益財団法人21世紀職業財団会長(前資生堂副社長)が、それぞれの対策を検証する。

安倍首相はアベノミクスの3本目の矢である成長戦略の中核として「女性の活躍」を取り上げた。このことは歴代政権にはなかったことで、私は大いに歓迎している。安倍首相が4月19日に経済団体に対し、また、日本記者クラブの講演で提唱した女性の活躍のための具体策は「保育所の待機児童ゼロ」「3年間の育児休業」「役員の一人は女性に」の3本の対策である。この3つについての私の考え方を以下に述べたいと思う。

「待機児童ゼロ」が待ったなしの最重要課題

女性の活躍のためには社会的インフラである保育所の整備が最重要、かつ緊急の課題である。安倍首相は5年間で40万人の保育定員の拡大により待機児童をゼロにすると考えている。潜在的需要については数年前の内閣府の推計では85万人であり、40万人で足りるとは考えられない。

また、全国で最も待機児童が多かった横浜市は今春、3年間の集中取り組みにより待機児童をゼロにした。政府だけではなく、自治体の首長が女性の活躍を政策のど真ん中に据えて取り組めば、5年と言わず3年で達成できる。このように、40万人や5年という数字には不満が残るが、今度こそスピーディーな待機児童ゼロの実現を期待している。

育児休業3年ではキャリアアップは難しい

安倍首相は、現在は原則1年、最長で1年半の育児休業を3年間に延長するよう企業の自主的な取り組みを要請した。出産後いつ仕事に復帰するかについての選択肢が増えるという意味では歓迎したい。特に、保育所の待機児童問題がなかなか解決されない現状の中で、3歳になれば保育所の定員が増え、また、幼稚園という選択肢も加わる。「育児休業は3年」をスタンダードとして奨励するのではなく、復帰可能時期が3年まで拡大されることは、休業者にとって安心材料だ。

一方、育児休業は復帰できればよいというものではなく、その後のキャリアアップができるような休み方でなければならない。「育児休業3年」は「役員の一人は女性に」と両立できるか。一般的には3年という長い休業はキャリアにとっては障害になる。職場復帰プログラムを準備してもその効果は限定的であろう。現に、育児休業期間を既に3年にしている企業でも、3年まるまる休業する女性はまれであり、自分の将来のキャリアのことを考えて1年程度で復帰をしているのが現状である。

また、安倍首相は「3年間抱っこし放題での職場復帰」と表現した。この発言からイメージされるのは女性が3年間自宅で育児に専念する姿である。若い父親の大半はもっと育児に参加することを望んでおり、それを実現するために男性の育児休業の取得を促進することが必要であるが、これが逆行するのではないかと懸念される。

大事なことは、3年間という長い育児休業の取得を推奨するのではなく、復帰したいタイミングで復帰ができるようゼロ歳児保育・1歳児保育の拡充を中心に保育所の受け入れ体制の整備を早急に進めることである。

一歩踏み込んだ「ポジティブ・アクション」を

第3の対策、「役員の一人は女性に」はわかりやすくていい。一人の女性役員を作ろうと思えば、女性全体がもっと活躍し、管理職の女性比率も高まらなければならない。

男女雇用機会均等法が実施されて27年になる。企業は男女に均等な機会を与えているが、それでも女性は男性と同じようには活躍できておらず、管理職の女性比率は1割でしかない。このことが物語っているのは、格差解消は機会均等を保障するだけでは気が遠くなるほどの年数がかかるということだ。格差を早く解消するためには特別の取り組みが必要であり、これをポジティブ・アクションという。

私は各社がそれぞれの現状に応じて、「執行役員の〇%」「管理職の〇%」「総合職採用の〇%」などの数値目標をつくること、そして、その実現のために仕事と子育ての両立支援以外にも、女性人材の育成の在り方、評価の在り方、ロールモデルやメンターによる支援など必要な取り組みをすることが必須だと考える。政府には一歩踏み込んで、ポジティブ・アクションを講じることを企業に義務付けて欲しい。

第4の対策:残業のない働き方への転換

安倍首相の女性活躍のための対策に欠落していることがある。それは日本の正社員にとって常識とされてきた働き方を見直すことである。長時間労働が当たり前、会社都合でどこへでも転勤といった働き方は、専業主婦の妻を持つ男性だからできる働き方である。子供のいる女性はこのような働き方はできない。その結果、出産後も仕事は何とか継続できるとしても、正社員として期待されている働き方から外れ、社内での位置づけは「ママコース」ともいうべきもので、本格的な活躍とは程遠い。

女性が子供を育てながらも活躍し、その中から管理職や役員が誕生するようになるためには、働き方の常識を変え、残業がないのが当たり前という働き方にしなければならない。これを実現するのは企業経営者の責任者であるが、政策としても、一日8時間を超える残業に対する割増賃金を引き上げるなどの工夫があり得ると考える。

以上、アベノミクスの重要な要素になっている女性の活躍推進策についての私の見解を述べた。やるべきことはたくさんあるように見えるが、その中でも、「待機児童ゼロ」と「残業ゼロ」の2つさえ実現すれば、女性は見違えるように活躍すると確信している。

(2013年6月10日 記)

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  • [2013.06.26]

公益財団法人21世紀職業財団会長。1947年香川県高松市生まれ。1971年東京大学教養学部卒業、労働省入省。厚生労働省雇用均等・児童家庭局長を最後に2003年退官、株式会社資生堂に入社。取締役執行役員、取締役常務を経て08年代表取締役副社長に就任。2012年4月から取締役、7月から顧問。キリンホールディングス株式会社社外監査役、日本航空株式会社の社外取締役も務める。

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