NTTドコモiPhone発売と日本のスマートフォン市場の今後

経済・ビジネス

米アップル「iPhone」の販売でソフトバンクとKDDIに先行されたNTTドコモが同機種の発売に踏み切った。これが今後の日本のスマートフォン市場に与える影響を探る。

アップルは2013年9月20日、新製品「iPhone 5s/5c」を発売した。日本では、孫正義社長が率いる携帯電話業界3位のソフトバンクモバイルと2位のKDDI(au)、さらに今年から首位のNTTドコモがiPhoneの取り扱いを開始した。

そもそも、2008年に日本でiPhoneが発売されると決まったとき、多くの業界関係者は「NTTドコモがiPhoneを取り扱う」と予想していた。しかし、ふたを開けてみれば、アップルのスティーブ・ジョブズCEO(当時)と仲の良かった孫正義社長がアップルを口説き落とし、独占的な販売権を獲得した。

その後、2011年にKDDIがiPhoneの取り扱いを開始するまで、3年間にわたってソフトバンクだけがiPhoneを販売。2006年にソフトバンクが英ボーダフォン日本法人を買収して携帯電話事業に参入した頃には、低迷していたキャリア(通信事業者)であったが、孫社長の手腕により、iPhoneの取り扱いを始めたことで、ソフトバンクは飛躍を遂げることになる。いまでは、営業利益で1兆円を超えるところまでに来ており、孫社長の悲願であった「NTTドコモを抜く」という夢も現実のものになった。

ユーザー流出を受け、水面下でiPhone発売準備

実は、日本はAndroidスマートフォンとiPhoneのシェアを比べた場合、iPhoneの方がよく売れている市場だという。世界中を見渡しても、iPhoneの方がよく売れているのは日本ぐらいだ(次いで米国)。アップルにとって、日本は最重要の国と言える。

日本では、ソフトバンクが3年間、独占的に販売して、猛烈にiPhoneを携帯電話ユーザーに訴求しただけでなく、2011年にKDDIが取り扱いを開始したことで、販売競争がさらに激化。両社はAndroidよりもiPhoneを徹底的に販売するという構図ができあがった。

iPhoneの販売権を持たないNTTドコモは、これまでの5年間「一人負け」の状態が続いていた。iPhoneを欲しがるドコモユーザーが、ソフトバンクやKDDIに流出。月間10万人規模のユーザーが流出することもあった。

2013年夏商戦で、NTTドコモはiPhoneを持つソフトバンクやKDDIに対抗しようと、サムスン電子「GALAXY S4」とソニー「Xperia A」というグローバルスマートフォン2機種を「ドコモのツートップ」として、ユーザーに訴求。料金割引などを充実させて従来型ケータイから乗り換えやすくし、さらにツートップ機種のハイスペックな機能を訴えることで、何とかドコモの既存ユーザーを囲い込もうと躍起になっていた。

また、iPhoneと差別化するために、NTTドコモは映画やドラマ、アニメなどの動画配信サービスを強化。さらに、アプリや音楽だけでなく、野菜や生活雑貨、ファッションなど、スマホ向けの通信販売事業も強化することで、iPhoneにはないメリットをアピールし始めた。

しかし、NTTドコモがどんなに頑張っても、iPhoneを欲しがるユーザーの流出は止まらない。そこで、NTTドコモは、ついにiPhoneの取り扱いを決断することとなる。iPhone発売を発表するまで、NTTドコモ首脳は「アップルとは条件が合わない」との発言を繰り返し、iPhone導入を拒んでいるかのように見えたが、水面下では着々と準備を進め、アップルと手を組んだ。

一方のアップルにとっても、NTTドコモをパートナーに迎え入れるのは喜ばしいことだ。iPhoneがAndroidよりも売れる日本市場で、携帯電話契約者数トップシェアを誇るNTTドコモがiPhoneを扱い始めれば、iPhone販売台数のさらなる増加が見込める。NTTドコモが年間に扱うスマートフォンの端末販売台数は1600万台といわれており、仮に半数がiPhoneになれば、800万台近い売上げ増が期待できる。

Androidメーカーにとっては厳しい冬

ただ、NTTドコモがiPhoneを扱い始めることで、影響を受けるのが日本メーカーだ。すでに、NTTドコモが夏商戦で「ツートップ戦略」を始めたことで、この2機種に選ばれなかったNECカシオモバイルコミュニケーションズがスマートフォンからの撤退を発表。さらに9月26日には、パナソニックも国内キャリア向け(個人ユーザー用)スマートフォンの開発休止を明らかにした。

NTTドコモとしては、これまで長く深く付き合ってきた日本メーカーがスマートフォンから撤退したことで、iPhoneを導入しやすくなったという背景もありそうだ。

今回、NTTドコモがiPhoneを売り始めたことで、シャープや富士通、さらにツートップに選ばれていたソニーやサムスンなどのAndroidメーカーが大打撃を受けるのは間違いない。

実際、9月20日のiPhone販売開始から2週間が経過したある日、ドコモショップの店員に話を聞いたところ「iPhone発売日からiPhoneしか売っていない。Androidの売れ行きがぱたりと止まった」という。そのドコモショップでは、いまだに400件近い予約を抱えており、年内に全ての客に手渡せるか微妙なのだという。

当面、NTTドコモは間違いなくiPhoneしか売れない状態であり、Androidメーカーにとっては厳しい冬を迎えそうだ。

iPhoneで先行したKDDIとソフトバンクはAndroidを強化

ただし、この影響は短期的なものであり、長期的な視点で見ると、むしろAndroidメーカーにとっては追い風になる可能性がある。なぜなら、ソフトバンク、KDDI、NTTドコモがiPhoneを取り扱うということは、日本のスマートフォン市場において、iPhoneはもはやキャリアとしての差別化にはならないからだ。キャリアが他社を出し抜き、ユーザーを獲得していくには、iPhoneとは違うラインアップを強化する必要がある。

KDDIはすでにソニーやサムスンとの関係を強化。これまで、ソニーやサムスンは、グローバルスマートフォンのフラグシップモデルをいち早くNTTドコモに納入していたが、2013年冬商戦モデルからはKDDIからも「Xperia Z1」(ソニー)や「Galaxy Note 3」(サムスン)といったフラグシップモデルがNTTドコモと同タイミングで発売されることとなった。

また、KDDIはLGエレクトロニクスとは端末の共同開発を行うことで、KDDIオリジナルモデル「isai」を売り出す。他社にはないAndroidスマートフォンを作り出すことでiPhone以外の機種で差別化したい構えだ。

ソフトバンクの2013‐14年冬春モデルは、グローバルスマートフォンがなく、シャープ3機種と富士通1機種の合計4機種のみという寂しいラインアップだった。ただ、同社は今後、買収に成功した米国キャリアのスプリントで、米国市場上位2社のベライゾンとAT&T追撃のため、ソフトバンクと関係が深く、冬春モデルでも主力のシャープに重要なポジションを担わせようとしている。

NTTドコモは10月10日に2013-14年冬春モデルを発表。ソニー、サムスンのほか、シャープ、富士通、LGのAndroidスマートフォン10機種をラインアップし、NTTドコモも引き続きAndroidに注力していく姿勢を示した。

米国市場でも当然のことながら、4大キャリア(ベライゾン、AT&T、スプリント、T-Mobile)の全てでiPhoneが取り扱われている。そのため、ソフトバンクはスプリントの差別化のために、シャープに独自のAndroidスマートフォンを開発させ、米国と日本の両国で販売しようと計画している。シャープの液晶技術は他社にはない優位点であり、米国市場でも十分に戦えると孫社長は判断しているようだ。

日本でのiPhone人気は高く、今後もスマートフォン初心者を中心に広がりを見せるだろうが、一方で、ハイスペック端末や、日本市場であれば防水やテレビ機能付き端末、さらにシニア層向けのシンプルな端末などはAndroidでなければ実現できない。そういった個性的なスマートフォンを作れるAndroidメーカーは確実に生き残っていくことができそうだ。

(2013年10月9日 記)

タイトル写真=NTTドコモ2013-14年冬春モデル発表会に登場した(左から)女優の石原さとみさん、NTTドコモの加藤薫社長、俳優の渡辺謙さん、女優の堀北真希さん(撮影=nippon.com編集部)

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