モディ新首相訪日は日印戦略的連携強化の幕開け

ブラーマ・チェラニー【Profile】

[2014.07.31] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS |

インドのナレンドラ・モディ新首相の訪日を前に、インドの著名な戦略地政学者が、日印の互恵的連携の深化への要因を分析する。

主要国への初外遊先に日本を選択

今夏予定されるインドのナレンドラ・モディ新首相の訪日は、歴史ある豊かな民主主義国家である日本と、世界最大の民主主義国家であるインドとの戦略的な関係を強化するだろう。モディ首相が主要国への初外遊先として日本を選んだことは、インド政府が経済面や安全保障面で日本を重視するという姿勢の表れに他ならない。

一方、日本もインドを重要なパートナーと位置付けている。それは、2013年に天皇皇后両陛下のインド訪問という歴史的出来事を実現させたことからも明らかだ。1992年の天皇陛下の訪中をきっかけに中国への援助や投資、技術移転が促進されたように、陛下の訪印は日印関係の重要な分岐点になるだろう。2014年1月26日に行われたインド共和国記念日の記念パレードに安倍晋三首相が主賓として出席したことも、両国にとって大きな意味を持つ。

「ツイッター友達」の安倍首相との共通点

モディ首相就任は日印関係にとって朗報であり、訪日で経済・安全保障面における両国の結び付きが強化されることは間違いない。モディ首相はグジャラート州首相時代の2007年と2012年に日本を訪問し強固な関係を築き、安倍首相との友情も育んだ。今、安倍首相がツイッターでフォローしているのは、昭恵夫人と猪瀬直樹前東京都知事、そしてモディ首相だけだ。

総選挙で地滑り的勝利を収めたモディ氏がツイッターで「私には日本と仕事をした素晴らしい経験がある。今後インドと日本の関係が新たな高みへと向かうことを確信している」とつぶやくと、安倍首相は電話で祝意を伝えた後で「お話しできてよかった。東京でお迎えし、友好をさらに深めることを楽しみにしています」と自身のツイッター上で応じた。

両首相ともに市場寄りの改革推進派であり、政治的な価値観を共有する。また、アジアの民主主義国と緊密な関係を結び、相互に利益ある戦略的パートナーシップのネットワーク構築を目指すなど、安全保障に関する考え方も近い。アジアの安定化に強い関心を示している点でも共通する。

今後アジアのパワーバランスは東アジアとインド洋地域の情勢で決まるとみられ、海洋民主主義をけん引する日印両国には、インド太平洋地域でのシーレーン防衛を主導していくことが求められる。エネルギー資源に乏しく石油やガスを輸入に頼る両国にとって、エネルギー供給や輸送ルートを支配しようとする動きは大きな懸念材料だ。

安全保障では戦略的利益が合致

日本とインドの連携は、中国の台頭や米国のアジア重視政策と並んで、アジア地域に大きな影響を与える可能性がある。例えば、中国による強引な力の行使を両国で牽制することも可能だろう。日本とインドが国連安全保障理事会の常任理事国に入ることに反対するなど、中国は両国の国際的な影響力の向上をあからさまに妨害してきたが、インドは南の、日本は東の“重石”として、パワーバランスの安定化に寄与し得る。

安倍首相は、日印関係について「世界の二国間関係の中で最も大きな可能性」を秘めると語っており、両国が戦略的グローバル・パートナーシップ構築を打ち出した第一次安倍内閣(2006~07年)の頃からインドとの関係強化を積極的に進めてきた。今年は太平洋で行われる米印の海軍共同演習「マラバール」に海上自衛隊を参加させた(7月24~30日)。日米印の3カ国による軍事演習は2009年以来だが、この時日本を招待したマンモハン・シン前首相は「日本はインドのルック・イースト政策の要だ」と述べている。

日本国内には「同質性の高い日本がパートナーにするには、インドは多様かつ複雑すぎる。両国が接近しているのは地理的に離れているために対立要因が存在しないからだ」という意見もある。しかし二国間関係で重要なのは、地理的・文化的要因よりも、戦略的利益が合致するかどうかだろう。地球規模での相互依存と輸送コストの削減が進む中、経済や安全保障上の利益を共有できることこそが国家間の関係を深化させる。

相互補完的な日印経済

しかも、両国の相違点は互恵的な経済連携推進にはむしろプラスに働く。確固たるものづくりの基盤を持つ日本と、サービス主導の成長を遂げてきたインド。世界最大の若年人口を擁するインドと、主要先進国の中で高齢化が最も急速に進む日本。資金や技術力を持つ日本と、人的資源が豊かなインド――。双方まったく異なる特性を持つからこそ、両国の経済は相互補完的なものになり、強力な相乗作用が生まれる。

安全保障の面でも、日本とインドでは大きく事情が異なる。インドが常に戦略的自立性を重視してきたのに対して、日本は模範的な米国の同盟国として大規模な米軍の駐留を認め、駐留経費まで負担している。だが、この事実も連携強化の障壁にはならない。なぜなら近年、両国の安全保障政策は変化してきているからだ。これまで受け身の“小切手外交”を続けてきた日本は、地域でより積極的な役割を果たそうとしている。一方インドは、かたくなな非同盟主義から、地政学を踏まえた現実的な対応を取る方向へと姿勢を転換した。

日本とインドの政治的・経済的な結び付きは、2006年に戦略的グローバル・パートナーシップの構築を宣言して以降、飛躍的に深まった。2011年には日・インド包括的経済連携協定を締結。2012年にはレアアースの世界市場をほぼ独占している中国への依存から脱却するため、両国で共同生産することで合意した。

インドにとって日本は、資金と技術を提供してくれる重要な国だ。日本の対インド直接投資は主要先進工業国の中で群を抜いており、日本からの政府開発援助(ODA)は10年以上前に中国を抜いてインドが最大の供与先となった。ODAの資金は貨物専用鉄道建設事業、デリー・ムンバイ間産業大動脈構想、バンガロール・メトロ建設事業など、インド国内の60以上のプロジェクトに投じられている。

インドとの連携は日本の“再浮上”につながる

一方、日本は経済再生と安全保障の観点からインドを重視する。長期の経済低迷を経て政治力を取り戻した今、競争力を高め、インドなどの新しいパートナーと戦略的関係を構築することで安全保障面を強化しようとしている。日印関係が急速に深まりつつある背景には、こうした日本側の事情もある。

今後、両国が民主主義の枢軸としてアジアで大きな役割を果たしていくためには、経済面や安全保障政策での結び付きをさらに深め、連携を一層強化する必要がある。その意味で、モディ新首相の就任はチャンスだといえよう。例えば武器輸出を進めたい日本にとって、インドは有力な市場になり得る。一方、安倍首相が主導する武器輸出緩和や集団的自衛権行使容認などの政策は、インドにとってプラスに働くはずだ。

互いに連携することで、インドはインフラ整備と大国化への歩みを前進させ、日本は大国として再浮上を図ることができる――。まさにウィン・ウィンのパートナーシップと言えるのではないか。

(2014年6月25日 記、原文英語 <タイトル写真提供=ロイター/アフロ>)

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  • [2014.07.31]

民間シンクタンク・政策研究センター(ニューデリー)の教授。専門は戦略研究。著書にAsian Juggernaut: The Rise of China, India and Japan (Harper Collins, 2006)、Water: Asia’s New Battleground (Georgetown University Press, 2011) など。

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