日本にも「プロ経営者」の時代が到来か——大企業社長人事で相次ぐ外部人材起用

森 一夫【Profile】

[2014.08.07] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | ESPAÑOL | العربية |

新浪剛史ローソン前会長のサントリーホールディングス社長への起用をきっかけに注目を集める「プロ経営者」。“一家意識”の強い日本企業が相次いで外部人材を起用する背景とその成否を分析する。

サントリー、初の創業家以外の社長を起用

サントリーホールディングスや武田薬品工業、資生堂など、日本の著名な大企業で、外部の人材を社長に起用するケースが相次いでいる。経営手腕に定評のある「プロの経営者」を社外から招く新たな動きとして、マスコミは大きく扱っている。これまで社長は生え抜きの役員から選ぶのが半ば常識だった日本企業を、果たして変えることになるだろうか。

サントリーホールディングスは日本の洋酒および飲料業界のトップ企業で、ビールでも国内3位である。2014年5月には米国の蒸留酒最大手メーカー、ビームを158億ドル(約1兆6000億円)で買収し海外展開を積極的に進めている。そのサントリーが、コンビニエンスストア2位のローソンの前会長である新浪剛史氏(55)を10月1日付で次期社長に登用する。

新浪氏をスカウトした佐治信忠会長兼社長(68)は、創業者の鳥井信治郎氏の孫に当たり4代目社長である。同社が同族出身者以外で、しかも外部の人材を社長に据えるのは初めてである。

初の外国人社長を選んだ武田薬品

武田薬品工業の長谷川閑史会長兼CEO(右)とクリストフ・ウェバー社長兼COO(2014年4月1日に行われたウェバー社長就任についての記者会見、写真提供=時事通信社)

日本の製薬業界トップの武田薬品工業は6月、フランス人で英製薬大手グラクソ・スミスクラインの幹部だったクリストフ・ウェバー氏を社長兼COO(最高執行責任者)に就けた。最近まで創業家の武田家が君臨し230年余りの歴史を有する老舗企業が、初の外部人材の社長に外国人を選び、大きな話題になった。

前社長の長谷川閑史会長兼CEO(最高経営責任者)は非同族の生え抜き経営者で、社長を11年務めた。この間にグローバル企業への脱皮を急ぎ、海外で総額2兆円余りの企業買収を実行し、外国人役員も増やしてきた。ウェバー氏の社長起用は、こうした一連の流れの帰結といえる。

資生堂、ベネッセは“異業種社長”経験者を起用

国内最大手の化粧品メーカー、資生堂では4月、日本コカ・コーラで社長、会長を務めた魚谷雅彦氏(60)が社長に就任した。前社長の前田新造相談役は3年前に腹心の末川久幸氏に社長を譲ったが、末川氏は業績不振の中で体調不良を理由にわずか2年で相談役に退いた。このため前田氏は昨年、取りあえず会長のまま社長に復帰した。以来1年、後継者を探した結果、社内に見当たらず、2013年4月にマーケティング関係の顧問に委嘱した魚谷氏を後任に選んだというわけである。

現在、顧客情報漏えい問題への対処に追われている原田泳幸ベネッセホールディングス会長兼社長(65)は6月に就任したばかりである。原田氏は日本NCRなどを経て、アップルコンピュータジャパン(現アップルジャパン)や日本マクドナルドホールディングスの社長を務めた。これらの多彩なキャリアが買われて迎えられた。

ベネッセは子供向けの通信教育事業で国内最大手だが、同事業が最近、伸び悩んでいた。創業家の福武総一郎前会長(現最高顧問)は2003年に、ソニー出身でオーディオメーカーのアイワ元社長の森本昌義氏を社長に招き、一時は業績立て直しに成功したかに見えた。ところが、森本氏が女性関係のスキャンダルを週刊誌に報じられて2007年に辞任。ベネッセにとって、原田氏の会長兼社長就任は、2度目の社外からの登用となる。

日本ではレア・ケースの外部社長起用

これらのトップ人事が注目されるのは、日本では一般に例外的なケースだからである。社外から社長が来るとすれば、資金調達に窮して銀行から救済を受けたり、買収されたりした場合か、監督官庁からの天下りといった例がほとんどである。例えば経営危機に陥った日産自動車を再建したカルロス・ゴーン社長兼CEOは、筆頭株主になって同社を系列化したフランスのルノーから派遣された。

いま話題になっている事例は、企業側が各経営者のマネジメント能力に期待して、自ら招請したものである。数は少ないとはいえ、各業界を代表する著名企業ばかりなので、インパクトは大きい。マスコミが言う「プロの経営者」の定義ははっきりしないが、経営手腕を売り物に企業や業界の枠を超えて、経営を請け負う専門経営者といったイメージなのだろう。日本では少ないので、ことさら注目される。

「プロの経営者」が、いま求められる理由

欧米、ことに米国の大企業では、CEOなどのトップ経営者を選ぶ時に、社外取締役が社内外から複数の候補者を挙げて選考するのは珍しいことではない。経営者層の流動性は高く、要件さえ満たせば、他社からトップ経営者を迎え入れて、結果が伴わなければ解任する。中間管理職もキャリアアップのためなら転職をいとわない。トップもミドル以下の社員も、市場原理に従って、能力が認められればより高いポストに就いて高額の報酬を得られる。このような仕組みが機能するのは、何事も契約で割り切る社会風土が背景にあるためだ。

日本は事情が違う。中途採用も増えてきたが、新卒一括採用が依然として中心である。大企業では、入社式を経て横一線でスタートする純粋培養の社員が中核を占める。その中から役員に選抜されて、最後に社長に選ばれるというのが、当たり前に思われている。社長は生え抜き社員の代表であり、末端まで浸透する「企業一家意識」が日本企業の強みになってきた。

ところが皮肉にも、それが同時に、社外からいわゆる「プロの経営者」を求めざるを得ない原因になっている。内部昇格の社長もボランティアではないので、「プロ」である。しかし終身雇用の下で、新入社員から上がってくる経営者は、その企業の体質、思考法に最もよく適応した人材にならざるを得ない。生え抜き中心の組織は自然に、協調的で同じような考え方をする同質的な人材を増やす。

このため事業構造を変えたり意識転換を図ったりする、従来の延長線上にない非連続の経営を目指す場合には、社内の優等生はトップ経営者として必ずしも最適とは言えない。サントリーや武田薬品は、企業買収によって一気に拡大した海外事業を軌道に乗せなければならない。いきおい社外に経営者を求め、武田の場合は一足飛びに、新興国での事業経験のある外国人を選択したわけである。

資生堂は国内の化粧品市場が百貨店や専門店中心の時代には、化粧品のマーケティングで先頭を走っていた。しかし、いまやドラッグストアや通信販売などの台頭で販路が多様化して、従来の発想では対応しきれなくなっている。それで飲料などのメーカーでマーケティングをやってきた人材に賭けたのである。ベネッセホールディングスも、少子化や教育事業の多様化により、大黒柱の通信教育事業が変革を迫られている。異業種から違う視点を持つ経営者を迎えたゆえんである。

 外部人材起用のリスク

ただし、外部からの社長起用はリスクを伴う。これも日本的な経営風土に起因する問題である。いわば木に竹を接ぐようなことだからだ。終身雇用を原則とする日本の企業では、社員も雇用されている企業を「うちの会社」と呼び、社長も社員も仲間意識を持っている。米国のような契約社会とは異なり、外部から入って、その日から「社長」が務まるわけではない。役員も含めて生え抜きたちの暗黙の信任を得なければ、浮いた存在になりかねない。

サントリーに入る新浪氏は今までローソンでは、同社を系列化した三菱商事から送り込まれて独裁的に経営してきた。しかしサントリー社長内定の記者会見では、「現場との対話が何と言っても大切」と語り、「まず(サントリーの人たちの)民意を得ることが大事」と慎重だった。

さらに日本の企業では、社長を譲っても前任者が実力会長などで社内に残る場合が多い。サントリーのオーナー経営者である佐治氏は会長として「新浪君と二人三脚でやる」と言っている。これからも社内は佐治会長の顔色をうかがうだろうから、二頭政治になる危険性をはらむ。

社内の士気低下をもたらす恐れも

武田薬品では、長谷川会長兼CEOが「1年後にCEOをウェバー社長に譲る」と明言している。取締役と執行役員に相当するコーポレート・オフィサーを外国人および外資系出身者多数の構成に変えた。役員層については、いわば遺伝子を組み替えたわけだ。

開示を義務付けられている1億円以上の報酬を受けている武田薬品の取締役は、2013年度の有価証券報告書によると、長谷川社長を含め4人いる。半数が外国人で、山田忠孝氏(日系米国人)が8億3500万円、フランク・モリッヒ氏が9億6900万円である。両氏の金額は子会社の退職慰労金を含んでいるが、それを除いても長谷川社長の3億500万円を上回る。

契約の論理を優先する外国人は、市場価値に見合う報酬を出さなければスカウトできないためである。ウェバー氏もかなり高額の報酬が予想される。武田薬品は社員の給与を成果主義に変えているが、それでも生え抜きの役員や幹部の報酬は社長も含めて社員の延長線上に止めざるを得ない。

またウェバー社長は47歳である。新入社員から始まる長い昇進レースを競わなければならない生え抜き社員にとっては、まるで飛び級である。これが今後も続くとすれば、社内の40歳代以上の人材には、社長になれる可能性はほぼ消えたようなものだ。

外国人のケースは極端に見えるが、日本人であってもプロの経営者は基本的に契約の論理で動く。それと終身雇用による日本企業の風土との矛盾は、社内の士気低下をもたらす恐れがある。これを回避するには、二つの道がある。欧米型の企業に風土から制度まで完全に作りかえるか、異質なものを融合させて新たな経営を編み出すか、どちらかだ。対応が中途半端になれば、社外から迎えた社長は一時的な「助っ人」で終わり、定着しないだろう。

タイトル写真=サントリーホールディングスの佐治信忠社長(左)と次期社長に内定した新浪剛史氏(2014年7月1日に行われた新浪氏の社長就任発表記者会見、写真提供=時事通信社)

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ジャーナリスト。1950年東京都生まれ。1972年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。日本経済新聞社入社後、産業部記者を経て、編集委員、論説委員、論説副主幹を歴任。この間、日経BP社『日経ビジネス』副編集長、米コロンビア大学東アジア研究所・日本経済経営研究所客員研究員を務める。著書に『日本の経営』(2004年、日経文庫)、『経営にカリスマはいらない』(2008年、日経プレミアシリーズ)など。

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