日本の雇用はこれからどうなるのか

玄田 有史【Profile】

[2014.12.17] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

増加する非正規労働者への対応、人手不足、高齢者雇用など、雇用問題は日本経済再生や財政再建に関わる重要課題だ。完全失業率、雇用形態の推移などのデータから、日本の雇用の在り方を考える。

完全失業率、60年間の推移

雇用にまつわる統計のうち、最も注目されるのが、完全失業率である。完全失業率とは労働力人口(就業者と完全失業者の和)に占める完全失業者(仕事を探している無業者)の割合を指す。図1は日本の完全失業率の年平均の推移である。

高度成長時代にあった1960年代、完全失業率は1%前半と低水準を続けた。それが1973年の第一次石油危機により高度成長が終わると失業率は上昇していく。1985年のプラザ合意による急速な円高は、輸出中心だった日本経済に打撃を及ぼし、雇用の空洞化による大量失業が懸念された。完全失業率は1986年に当時の過去最悪である2.8%を記録したが、その後は財政政策による内需拡大策や金融政策による低金利誘導によって失業率は改善する。

過去最悪はバブル崩壊後の「5.4%」

ところが1992年に株価が急速に下落しバブル景気がはじけると、急速なペースで失業率は上昇していく。1997年の金融不況後、失業率は翌年初めて4.1%に達し、2007年に瞬間的に3.9%を記録した以外、4%を上回る状況が続いた。

特に不良債権処理が加速し早期退職も相次いだ2002年には過去最悪の5.4%を記録、現在まで史上最悪の水準となっている。不良債権の処理が終わると、雇用情勢は改善したが、2008年9月のリーマン・ショックによる世界不況をきっかけに失業率は再び5.1%まで上昇した。

ただしその後は、医療・福祉産業の成長に加え、政府が実施した緊急雇用対策の効果もあり、失業率はすみやかに低下する。2011年の東日本大震災でも失業率の減少トレンドに変更がもたらされることはなく、2013年には4.0%まで低下している。

失業率から見れば“増税決断の絶好のタイミング”逃した安倍首相

2014年の失業率は10月まで毎月3%台を続けており、2014年平均は1997年以来の低水準となる。ちなみに失業率の減少トレンドが始まるのは2010年であり、アベノミクスが開始された2013年よりも早い。その意味で近年の失業率低下をアベノミクスの成果と強調するのは、正確さに欠ける。

2014年11月、GDP(国内総生産)で測った経済成長率が、2四半期連続でマイナスとなったことを理由に、安倍晋三首相は消費税率の10%引上げを2017年4月まで延期する決定をした。

一方、GDPと並んで重要な景気指標である完全失業率を見る限り、全般的な雇用情勢は過去しばらくなかった程、現在は良好な状態にある。増税による雇用へのマイナス影響を軽微に抑える上では、増税決断の絶好のタイミングだったのである。

人手不足と非正社員増加の併存

失業率が下がり続ける背景には、企業の旺盛な採用意欲がある。今や日本国内最大の雇用問題とは、企業が雇いたくても人が集まらない人手不足の問題である。

しかし求人は多いとしても、増えているのは非正社員の仕事ばかりという批判もある。非正社員は不安定な雇用である以上、消費も伸びず、本格的な景気回復につながらないというのだ。だが、非正規雇用をすべて不安定雇用と決めつけるのは、事実に反する。

図2に雇用者に占める正社員とそれ以外の割合を求めた。「それ以外」とは、いわゆる非正規雇用にあたり「パート」「アルバイト」などの名称で呼ばれている人々の他、派遣社員、契約社員などをすべて含む。さらに図では非正規雇用を雇用契約期間により区分した。契約期間が1年以下の非正規雇用を「臨時・日雇い」、1年を超える場合が「一般常雇」である。

図をみると1987年に正社員の割合は8割を占めたが、2007年には雇用者の約3人に1人が非正社員となり、2012年にも非正社員割合はやや拡大している。

加えて図にはより重要な事実が含まれる。非正規雇用の増加をもたらしているのは、臨時・日雇いの非正社員ではなく、一般常雇の非正社員なのだ。

労働者派遣法改正、冷静な国会審議を

バブル経済の崩壊後、特に1997年の金融不況以降、日本の企業は人件費削減の必要性に迫られた。そのため企業は賃金が高く雇用調整も難しい正社員の採用を抑制してきた。

一方で、安定的な経営には、職場に通じた社員も常に一定割合必要だ。加えて労働力人口の減少に直面する企業にとって、人材を確保することはますます困難になる。そのため優秀な非正社員については、できるだけ長く会社に留まることを期待する。その結果、正社員に代わって長期雇用の一般常雇である非正社員が増えたのだ。さらに雇用期間の長い非正社員には、将来的に正社員に転じる可能性も少なからず開かれている。

政府は現在「多様な正社員」の普及により、正社員と非正社員の二極化を解消する環境整備を目指している。今後は、一般常雇タイプの非正社員が、個人や家庭の個別事情を勘案し、職業や勤務場所が限定された正社員へと移行するケースが拡大するだろう。

来年の国会では、労働者派遣制度の見直しが改めて審議される。派遣法改正は、派遣労働者に3年もしくはそれ以上の期間で就業する機会を拡大するものだ。同一の派遣労働者が同じ職場で働ける上限は3年だが、その上限に達した場合、派遣元企業は、派遣先企業に対して労働者の直接雇用を依頼する、新たな派遣先の適用、派遣元企業においての無期雇用などの装置を講じなければならないとしている。運用がうまくいけば、正社員へ転換する場合も増える。国会での冷静な審議が期待される。

確実に高まる60歳代前半の就業率

もう一つ、雇用で注目を集めるのが、高齢者雇用である。日本は約1億1千万人の15歳以上人口のうち、65歳以上がおよそ3200万人を占める。若年人口が減るなかで、慢性的な人手不足の解消には、女性の活躍拡大と並び、意欲と能力のある高齢者が働き続ける社会の実現が求められる。

図3には人口に占める就業者の割合である「就業率」の推移を、60~64歳と65~69歳について求めた。

農林漁業での就業がいまだ多かった1960年代では、60~64歳の6割近く、65~69歳でも5割近くが働いていた。それが高度成長期を経て、定年のある雇用者として働く人々が増えると、高齢就業率は低下していく。

1970年代までは55歳を定年とする会社が多かったが、1980年代には60歳定年が企業の努力義務とされた。そのため1990年代初めには高齢者の就業率は一時的に上昇したものの、再び低下を続ける。65~69歳に至っては、2004年には3人に2人は仕事から引退するまでになった。

その後、年金支給開始年齢を60歳から65歳に引き上げるのに伴い、2012年には60歳定年者のうち、希望者全員を65歳まで継続雇用する制度導入が企業に義務付けられた。その結果、60~64歳の就業率は2013年に1960年代前半の水準を回復した。今後も60歳代前半の就業率は着実に高まっていくだろう。

大きなカギを握る60代後半「団塊の世代」の就業

そうなると次の課題は、65~69歳の就業率である。今後、日本の年金制度を安定的に維持していくには、支給額の引き下げに加え、支給開始年齢の70歳引き上げは避けて通れない。そのためにも60歳代後半でも働いて自ら収入を確保できる環境の整備が必要だ。

幸い図3をみると、65~69歳の就業率は2004年以降上昇傾向にあり、2013年に4割に迫る勢いをみせる。60歳台後半の就業が今後一般化するためのカギを握るのは、1947~49年生まれの「団塊の世代」の動向だ。団塊世代を含む1946~50年生まれは約1000万人に達し、1981~85年生まれの若年世代と比べても250万人以上多い。

大規模人口をほこる団塊とその前後の世代が2016年以降、60歳台後半になっても年金を頼りに引退を決め込むことなく、意欲や能力を活かして就業を継続することが、日本の社会保障制度の維持や財政再建にとって重要となる。

現在、日本の在職老齢年金制度は、65~70歳について、賃金と厚生年金の合計が月46万円を上回る場合、賃金の増加2に対して停止される年金は1とし、働いても手取りが減らないよう工夫されている。

今後も年金制度をさらに就業を促進するよう工夫を重ねながら、高齢者の雇用を拡大していくことが求められる。それは今後、高齢社会を迎える世界中の国々にとっても重要なモデルになるはずだ。

(2014年11月28日 記) 

タイトル写真=2014年5月28日、ユニクロの地域正社員(転勤を伴わず長期にわたって働ける正社員)説明会に集まった参加者/写真提供:時事

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nippon.com 編集企画委員。東京大学社会科学研究所教授。1964年生まれ。1988年東京大学経済学部卒業。経済学博士。ハーバード大学、オックスフォード大学各客員研究員、学習院大学教授等を経て、2007年から同職。著書に『危機と雇用』(岩波書店、2015年、沖永賞)、『孤立無業(SNEP)』(日本経済新聞出版社、2013年)、『ジョブ・クリエイション』(日本経済新聞社、2004年、エコノミスト賞)、『仕事のなかの曖昧な不安』(中央公論新社、2001年、サントリー学芸賞)など。

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