衆院選:自民大勝は「消極的支持」の結果
国民は野党乱立望まず

竹中 治堅【Profile】

[2014.12.18] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

自公両党が再び大勝した衆院選。筆者は、有権者が現時点で「アベノミクス」を評価するのは困難で、消極的ながらも現状維持を望んだ結果だと分析する。

有権者は現状維持望む

12月14日に行われた総選挙で自民党が291議席、公明党が35議席を確保、大勝した。公示前の自民党と公明党の議席はそれぞれ295、31であり、与党は衆議院で3分の2以上の議席を獲得した。

一方、野党第1党の民主党は勢力を微増させたものの獲得議席は73にとどまった。代表である海江田万里氏は落選し、民主党の苦戦を象徴することになった。いわゆる第3極政党の結果は2012年総選挙に比べ、振るわなかった。日本維新の党は41議席を獲得したが、これは前身の日本維新の会が前回総選挙で獲得した54議席を下回る。維新以外に最近誕生した政党が獲得した議席はわずかである。また、共産党は21議席を取り、選挙前の8議席から倍増させた。

選挙の結果をまとめて評価すると、有権者は現状維持を望み、安倍晋三首相に引き続き政権運営を委ね、主要な政策を継続することに支持を表明したと言える。民主党に対しては12年総選挙に引き続き厳しい評価を与えたものの、同時に野党の乱立を望まないという意思を示したと解することができる。

本稿では与党が大勝した理由について分析する。その上で、総選挙の意義付けや安倍内閣および野党の今後の課題について簡単に議論する(※1)。 

アベノミクスに対し分かれる評価

この総選挙で首相が最大の争点としたのは安倍内閣の経済政策「アベノミクス」であった。ただ、選挙前のある世論調査では51%の回答者が「評価しない」と答え、33%の「評価する」という声を上回っている(※2)

にもかかわらず、自民党と公明党が前回に引き続き大勝した理由は何か。2つの要因がある。まず、現政権の主要政策について現段階で評価するのは難しかったということ。さらに重要なのは、野党の準備態勢が整っておらず、野党が与党に対する競争相手となり得なかったということ。この結果、与党が消極的な支持を集めることになったということである。

「成長戦略」足取りは着実だが…

第2次安倍晋三内閣の主要政策は2つある。1つはアベノミクスと称される経済政策。もう1つは集団的自衛権についての解釈変更に代表される安全保障政策の拡充である。

アベノミクスはいわゆる3本の矢、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「成長戦略」の3つの政策からなっている。12年12月に安倍内閣が発足して以来、安倍首相はこの3つの政策を追求してきた。

安倍首相は13年4月に黒田東彦氏を日本銀行総裁に任命し、以来、黒田総裁の下、日本銀行は量的緩和と呼ばれる金融緩和政策を推進してきた。また、12年度補正予算と13年度予算を合わせて考えると、安倍内閣発足1年目の財政政策は拡張的であった。

経済政策としては金融緩和政策ばかりが注目される傾向にあり、成長戦略については進捗が見られないと言う批判が根強くある。だが詳しく見ると、安倍内閣が成長戦略を着実に押し進めていることは確かである。法人税は引き下げる方向性が打ち出されている。電力自由化に向けての政策は漸進する一方、農業改革も進捗している。羽田空港の国際線拡充に代表されるように訪日観光客の拡大も実現している。社外取締役導入を促すため会社法が改正されるなどコーポレートガバナンス改革も進められている。

以上のように12年総選挙で掲げた公約通りに安倍内閣が経済政策を立案、実施していることは確かである。ただ、これが現時点での本格的景気回復、経済成長につながっているかと言えば、疑問である。つながっているのであれば、15年10月に予定されていた消費税率の10%引き上げを延期する必要はなかったはずである。

弱い実体経済、総合評価は困難

周知の通り、株価は安倍内閣発足以降上り続け、12年12月は1万円台だったのが選挙1万7000円台まで上昇した。

ただ、実体経済はどうなっているのか。GDP成長率を見てみよう。13年第1四半期から第3四半期の前期比の成長率はそれぞれ1.5%、0.7%、0.4%であり、経済は成長した。しかしながら、それ以降はまだら模様となる。第4四半期の成長率はマイナス0.4%であり、14年第1四半期の成長率は1.4%、第2・第3四半期はそれぞれマイナス1.7%とマイナス0.5%である。

また日本経済は長年デフレにさいなまれてきた。安倍内閣のもとで経済はデフレから脱却しつつあるのか。判断材料はやはりまだら模様である。総務省の統計によれば、13年年初より、基本的には消費者物価指数は前月比で上昇傾向にあり、デフレ脱却の兆しが見られる(※3)。もっとも、より消費の実態に近い物価の動向を表していると最近注目される東大日次物価指数によれば、この間も物価は低下傾向にある。

それでは、国民レベルで景気の回復を感じることができているのか。これも判然としない。雇用の状況を見ると失業率は内閣発足後、基本的に低下を続けている。完全失業率は13年年初の4.2%が、14年10月時点では3.5%となっている。しかしながら賃金について見ると、名目賃金は13年7月から前年比で毎月低下を続けている。

簡単に言えば、アベノミクスが成功を収めているのかいないのか現段階で判断するのは難しいということである。

安保政策、国民に実感うすく

次に安全保障政策はどうか。第2次安倍内閣はこれまで安全保障法制の見直しに取り組んできた。首相は第1次安倍内閣で設置した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」を再開し、懇談会は14年5月に報告書を安倍晋三首相に提出した。この報告書に基づいて14年7月に安倍内閣は安全保障法制の整備について閣議決定を行った。この中で、集団的自衛権についての憲法解釈の変更や、従来の「武力行使との一体化」に関する考え方の見直しに踏み込んだ。

安倍内閣は15年の通常国会で、安全保障に関連する法律を改正する方針である。ただ、集団的自衛権についての解釈変更などの結果、自衛隊の活動が今後どう変化するのかは、湾岸戦争やイラク戦争に比類するような危機が国外で安生しないかぎり、我々国民が具体的に想像することは難しい。

あまりに準備不足の民主党

衆議院選挙では、現在の政権に対する評価が与党、野党の勝敗に大きく影響する。

ただ、今度の選挙では、政権の業績を判断するのには時期尚早であった。評価が定まっていなかったので、重要であったのは野党側の態勢である。

今回、野党の準備はあまりに不十分であった。野党第1党の民主党から始めよう。そもそも民主党は政権を担当していた時代のマイナスのイメージをぬぐい去ることができていたとは言い難い。

その上、11月に解散の可能性が報道されるようになった時点で、民主党は134人しか候補者を決めていなかった(※4)。最終的にも、総議席の過半数を大幅に下回る198人擁立にとどまっている。

選挙を勝利する上で重要なのは、解散後の選挙活動よりも、むしろそれ以前の地道な政治活動である。前回総選挙から2年近くたっているにもかかわらず、多くの選挙区で事前に候補者が決まっていなければ、選挙で勢力を伸ばすことは期待できない。

政策論争では鮮明な対抗軸欠く

また、政策論争では、民主党は安倍内閣の政策の問題点を指摘するばかりであった。かつては「構造改革」など自民党政権に対抗する明確な政策を掲げて選挙に臨んだこともあった。しかしながら、今回は「アベノミクスからの転換」「『厚く、豊かな中間層』 を復活させる」ことなどを掲げたものの、鮮明な対抗軸に欠けていた。

マニフェストを見ると成長戦略などの具体策も、盛り込まれていなかったわけではない。しかし、例えばTPPについて見ると、「農林水産物の重要5品目などの除外、食の安全の確保、国民皆保険の堅持などの国益を確保するために、脱退も辞さない厳しい姿勢で臨みます」と記されている。資源に乏しい日本は貿易の拡大を目指し、TPPを推進するべきであろう。にもかかわらず、「脱退も辞さない」という古色蒼然とした文句が盛り込まれている。これでは支持を拡大することは難しい。

また自民、民主以外の近年誕生した政党、いわゆる第3極は離合集散を繰り返した。みんなの党は13年暮れに分裂し、総選挙直前に解党。維新の会も14年7月に分党、その後、日本維新の党と次世代の党が生まれている。これが響いたのであろう、12年総選挙のようなブームを作ることはできなかった。

この結果、多くの有権者が消極的選択肢として与党を支持することになった。また、投票先に困った有権者の多くは棄権するか、共産党に投じたと考えられる。これが52.66%という戦後最低の投票率と共産党の議席増に現れている。

第3極への期待は低下

それでは、この選挙結果をどう意義付ければいいのか。

与党の獲得議席はほぼ現状維持である。従って、アベノミクスを含め安倍内閣の主要政策については、現状のまま継続することに信任を与えたと考えられる。

野党についてはどうか。上述のように多くの問題があったにもかかわらず、民主党は議席数を11増やした。前回獲得した57議席に比べた場合、16議席伸ばしていることになる。維新の党の前身である維新の会は、前回選挙では民主党に匹敵する54議席を獲得したが、今回の獲得議席はそれを13議席下回っている。

この選挙の結果、12年総選挙後に比べれば、野党の乱立状況はかなり解消された。有権者は自民党に対抗する野党第1党としては結局、民主党を選ぶほかはないと、やはり消極的に判断したと解釈できる。その一方、第3極政党に対する期待は低下してきているということである。

景気回復へ、成長戦略推進を

安倍政権とこれに対抗する野党第1党の民主党の課題については稿を改めて詳しく議論する必要があるが、簡単に触れておきたい。

与党は選挙に大勝した。しかしながら、安倍内閣に対する確固たる支持があるのかは、はっきりしない。すでに一部の世論調査では内閣支持率が42%、不支持率42%と拮抗している。(※5)

首相にとって重要なのは、自身が経済を最優先させると表明しているように、景気を回復させることである。本稿でも論じたように、成長戦略の一部はかなり進展している。羽田空港の国際線枠の拡大による訪日観光客の喚起など、景気回復に即効性のある政策を展開する余地は残っており、こうした政策を含めて引き続き成長戦略を押し進めていくべきである。同時に、国民に進捗度合いを分かりやすく示すことも、内閣の経済政策に対する理解を獲得する上で重要である。 

民主党の課題は安倍内閣に対抗できる経済政策をまとめ、打ち出すことである。また、政権を担当していたころからの課題である党内意思決定のあり方については、いまだに問題を抱えている。特に、政策についての最終的意思決定機関がどこなのかはっきりしないのは問題であり、早急に解決すべきである。来年1月に行われることが決まった代表選を、こうした課題に取り組む契機とすべきであろう。

(※1)^ なお、沖縄では4つある小選挙区全てで、自民党の候補者が敗北している。この結果は普天間飛行場の辺野古移設をさらに困難にすることになると考えられ、日本の安全保障政策に大きな影響を及ぼす可能性がある。ただ、本稿ではこの可能性を指摘するにとどめ、総選挙の全般的な意義付けについて議論したい。

(※2)^ 『日本経済新聞』2014年11月24日。

(※3)^ 除く生鮮食品

(※4)^ 『日本経済新聞』2014年11月12日。

(※5)^ 『日本経済新聞』2014年12月12日。

タイトル写真:第47回衆院選の投票風景=2014年12月14日、東京都新宿区(時事)

  • [2014.12.18]

nippon.com 編集企画委員。1971年東京都生まれ。1993年東大法卒、大蔵省(現財務省)入省。1998年スタンフォード大政治学部博士課程修了。1999年政策研究大学院大助教授、2007年准教授を経て現在、教授。主な著書に『参議院とは何か 1947~2010』(中央公論新社/2010年/大佛次郎論壇賞受賞)など。

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