「ニッポン」礼賛ブーム—影に潜む問題点から目を背けるな

安倍 宏行【Profile】

[2015.02.27] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

日本の技術力や和食に驚嘆したり、ほめたたえたりする外国人。そんなテレビ番組が花盛りだ。日本にとっては“自虐”から“礼賛”へのシフトにも見えるが、テレビやウェブの報道最前線で活躍してきた筆者は、最近の「ニッポン」ブームについて、日本から世界を見直す契機にせよと警鐘を鳴らす。

高度なニッポンの技術力に感心驚嘆する外国人たち

日本の地下鉄の快適な乗り心地を支えるのは、「ミリ単位」のメンテナンスが日々行われているからである。数分刻みで規則的に走る運行スケジュールを支える「秒単位」の正確な運転技術は、徹底的な操作訓練の賜物である—こうした驚くべき日本の技術力の現場を目の当たりにして、驚いた外国人たちが一斉に「Amazing!」「スゴイデスネー!」と驚愕する。こういうシーンを、最近よくテレビで目にするようになった。

今、テレビメディアを中心に、日本の素晴らしさを再発見、発信する番組が花盛りである。2015年2月現在、テレビ地上波では『所さんのニッポンの出番(TBS)』『世界が驚いた→ニッポン!スゴーイデスネ!! 視察団(テレビ朝日)』『Youは何しに日本へ?(テレビ東京)』など、次々に番組が制作されている。

テレビメディアだけでなく、出版の世界でも、いわゆる愛国本とされる本の売り上げが好調だ。最近では『日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか』(竹田恒泰著、2010年、PHP新書)の売上が、2014末時点で累計50万部超を誇る。

こうした、いわゆる「ニッポン礼賛」ブームから、私たちは何を考えるべきなのか。この現象から透けて見える現代日本人のメンタリティとは何だろうか。まずは、現在までの社会経済的な背景からたどってみたい。

「失われた20年」に、追い打ちをかけた福島第一原発事故

日本経済に目を向けてみると、90年代初頭のバブル崩壊、その後97年に消費税が3%から5%に引き上げられたあたりから日本は緩やかなデフレに入った。景気の面では明るさは見えて来たものの、長いデフレのトンネルを完全に抜けたとは言えない。

私はフジテレビで21年間、報道現場の最前線に立ち続けてきた中で、この「負」のマインドというものをいつも身近に感じてきた。

国内では、長い間日本について自ら自信を回復できるような大々的なニュースにずっと乏しい状態であった。中でも日本に負のインパクトを与えたニュースの最たる例が、2011年3月の東日本大震災による福島第一原子力発電所事故だ。絶対に事故を起こさないという安全神話の象徴だった原子力発電所がメルトスルーし、甚大な被害をもたらした。これによって、日本の依り所でもあった自国の高い技術力に対する自信も、同時に崩壊してしまいかねないほどのインパクトを与えたと言えよう。

「礼賛ブーム」は、自信回復の兆し

あれから4年あまり経過し、最近ではようやくアベノミクスによって景気に若干の明るさが見えてきた。もちろん国民全員にその恩恵がもたらされる状況に至っているわけではない。例えば一部の大株主や機関投資家がキャピタルゲインで大もうけしたり、大企業の収益が右肩上がりだったりといったニュースを目にする、という程度のものである。

だが、それによって今はまだ恩恵を受けていない零細企業や末端の人々の間にも、少なくとも近い将来にはこの長いトンネルから抜け出られる日がいつか来るのではないかという、希望の兆しが見え始めてきた。

そして、2013年には東京へのオリンピック招致が決定。ビザ要件緩和や円安誘導政策によって、訪日外国人観光客数は大幅に増加し、2014年には前年比では約30%もの伸びとなる過去最高の1,300万人を突破した。今では日本の各地で、本当に多くの外国人を見かけるようになったが、彼らは平均して10万円以上を滞在中に消費するという。日本での滞在中、一回当たりもっとも多額の出費をする中国人を筆頭に、訪日外国人の消費総額は年間2兆円レベルにまで達する。こうした中で、海外から来た人々をどうビジネスに結び付けるかというのは、テレビメディアに限らずどこでも花盛りとなってきている。

現在のニッポン礼賛ブームは、国内で見聞きされるようになった景気の「薄日」ムードを受けて、日本人が少しずつ、その内面に自信を取り戻してきたことの表れではないだろうか。

また、2013年には、ユネスコ世界遺産に「和食」が登録された。そのほか、海外で「クールジャパン」が非常に評価されているといった、外的な積極要因も大きい。私は毎年、パリで開催されるジャパンエキスポを取材しているが、2014年の入場者数は25万人を超える大盛況となった。パリだけでなく、欧州全域からニッポンを体感しようと集まってくる参加者の中には、「ゴスロリ」の扮装でパリ市内を練り歩くイベントを楽しむ若者までいるほどの過熱ぶりだ。

このような現象を見聞きするうちに、「日本は嫌われているのではない。むしろ世界から好かれているのだ」ということを現実のものとして実感できるようになり、またニュースでもそうした報道が多く流れるようになった。こうした高揚感や、ポジティブな全体的意識というものは、多かれ少なかれ、こうした番組が生まれる背景としてあると思われる。

それを敏感に察知したとある番組制作サイドが、ニッポンの魅力を再発見する番組を作ってみたところ意外にもヒットして視聴率を稼いだため、これに他局も追随した、というのがテレビ局側の事情であろう。

克服しなければならない「高コスト」体質

現在の「ニッポン礼賛」ブームを契機に、日本の良さを見つめ直すことは大いに結構である。ただし、ここで忘れてはならないのは、同時に日本が抱えるさまざまな問題点についても、きちんと目を見開くきっかけにすべきであるということだ。

確かに日本の技術は高度で素晴らしいかもしれない。しかし、そのためにむしろオーバースペックに陥っている可能性があることは憂慮すべきだろう。例えば日本の鉄道の運行技術は、確かに外国人から見たら「スゴイ!」のかもしれないが、それゆえに過剰なコストを企業は負担しているということだ。日本の労務費の高さは世界一だが、それゆえに、安い人件費を求めて海外に流出してしまった企業もあるのだ。つまり、国内の雇用が減少してしまう。

際限なく高スペックを追い求めて高コストになるよりも、効率化してコストダウンすることで、新たなサービスが生まれるかもしれないし、そこで生まれた余剰人員で新商品の開発ができるかもしれない。そうした発想の転換が必要かもしれないということである。

“世界の中の日本”だということを忘れるな

現在のニッポン礼賛ブームは、何を問いかけているのだろうか。それは今こそ、日本から世界についてきちんと目を向けるタイミングがきたということを、私たちに知らせるサインだと捉えるべきなのではないか。

あくまでも「世界の中の日本」なのであり、「日本のための世界」ではないのである。このことを忘れてはならない。日本を知り、そしてもちろん世界についても、正しい知識と理解を持つきっかけにしてもらいたい。

世界に広く目を向けて、日本は世界をどう受け入れていくのか。日本の立ち位置をしっかり捉え直すというのが、これからのグローバル時代の日本の役割であり、ひいては東アジアの安定にもつながる。

「イスラム国」のテロが世界を震撼させている中東に目を向けてみると、2015年1月~2月、安倍晋三首相は中東歴訪の際に積極的な人道支援を表明した。この地域が政治的に安定することは、ひいては非道なテロを取り除くことにもつながっていく。「ニッポン」に熱い注目が集まっている今だからこそ、日本が世界に対して何ができるのかということを考え、実行していかなければならない。

(タイトル写真提供=中西祐介/アフロ)

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  • [2015.02.27]

Next Media “Japan In-depth”編集長。1979年 慶応義塾大学経済学部卒業後、日産自動車入社。1985年国際大学大学院国際関係学科修士課程卒業後、1992年よりフジテレビ入社。ニューヨーク支局長などを歴任し、ニュースキャスターとしても活躍。2013年9月フジテレビを退社し、10月に “Japan In-depth”を設立。ニュースの深層や隠された背景に迫る情報発信を続ける。主な著書は『絶望のテレビ報道』(2014年、PHP新書)。

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