ウェアラブルは新たな時代を切り開くか

塚本 昌彦【Profile】

[2015.03.06] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | ESPAÑOL | العربية |

2015年は「Apple Watch」が発売され、MicrosoftもWindows 10でAR(拡張現実)環境をサポートする。日本メーカーも続々とウェアラブル市場に参入予定だ。各種ウェアラブル端末への期待と課題、今後の市場の展望を解説する。

メガネ型デバイス―Google Glassの再挑戦

2015年1月に米Googleが開発中のメガネ型インターネット端末「Google Glass」のテスト版の個人向け販売がいったん中止されることとなった。

Google Glassはそれ以前のHMD(Head Mounted Display)と比べるとはるかにコンパクト、軽量で、高性能、高機能のものであり、HMD市場を切り開くことが期待されるものであった。だが、搭載している小型カメラによる公共の場所での無断撮影や、プロセッサの発熱、バッテリの持ちの悪さ、見た目のgeek(オタク)さ、魅力的なアプリケーションの不在などが問題となり、一時は米国でのIT関連の展示会や学会などでちらほら見かけた装着者が2014年中ごろから激減、「Glassの暗雲」が懸念されていた。それに加えて部品(OMAP)供給の問題や、多額の研究開発費の投入に対する株主への説明責任といった問題があり、今回の決断に至ったものとみられる。

結果として、業務利用を目指すプロジェクトのみ継続し、それ以外は子会社NestのTony Fadell氏の監督下に移されて戦略を見直すとのことである。一連の動きをネガティブに捉える人も多いようだが、筆者は逆にポジティブに捉えている。ウェアラブルデバイスの商品開発が非常に難しいことは最初からわかっていたし、問題がいろいろ出てきて戦略を見直すことになることは想定内のはずである。

そして何よりもFadell氏はGoogle Glass開発における非常に強力な切り札であり、過去のAppleでのiPod立ち上げの手腕や、Nestの家庭内IoT(Internet of Things)(*1)や家庭用セキュリティカメラ「Dropcam」のノウハウを生かして、カメラ機能を生かしたまま問題点をクリアした魅力的な新しいHMDを短期間で作りあげてくるのではないかと考えている。

欧米・日本企業が続々とHMDに参入

ほぼ同時期に、MicrosoftがWindows 10の一環として「HoloLens」と呼ぶ両眼シースルー型HMDとそれを用いたAR(Augmented Reality・拡張現実)環境を発表したことは、ウェアラブル分野における業界の期待が依然大きいことを物語っている。実空間認識や画像処理などのMicrosoftの持つ高い技術力で、エンターテインメントや3次元モデリングなどのAR空間を利用したリッチな体験が実現されるのではないか。何よりもMicrosoftがこの分野で大きな一手を出したことは、ウェアラブル業界にとって重要な意義とポジティブな影響がある。

「Google Glass」を装着した筆者。HMDは、メガネのように着用し、視界の一部に情報を表示するデバイス。筆者はHMDを装着した生活を14年間続けている。(提供:塚本昌彦)

HMD産業は近年、VUZIX、Recon、ODG、Metaなどの米国企業、Optinvent, GlassUpなどの欧州企業、エプソン、ソニー、ブラザー、ウエストユニティス、ブリリアントサービスなどの日本企業が動きを見せている。さらに国内で日立、東芝、富士通という大手コンピュータベンダーも業務用途のHMDへの参入を表明している。

超小型、高性能、高機能なGoogle Glassの出現により市場のHMDへの期待感が高まったことは業界全体にはプラスに働いており、VUZIXがNASDAQ上場を果たすなど、ようやくこれまでになかったような全世界的な注目と盛り上がりを見せ始めている。世界中の企業が、新しいアプリケーション像を探りながらデバイスの落としどころ(スペックや形など)を探し、競争を始めようとしているというのが現状であり、2015年は大きな変化がみられるのではないだろうか。

ウォッチ型デバイス―Apple Watchの成否が指標に

Appleは3月9日、米サンフランシスコ市内での発表会で、日米など9カ国・地域で「Apple Watch」を4月24日に発売すると発表した。スマートウォッチ産業は、Appleがウォッチを開発しているという噂が出始めた2012年末ごろ(「iWatch」という商品名で噂されていた)から、多くの企業が参入し、米国ベンチャーをはじめ、多くの企業がBluetooth、タッチパネル、加速度センサーなどを搭載したいわゆる「スマートウォッチ」を発売した。

そのような中、2014年3月にGoogleが「Android Wear」を発表し、Samsung、LG、Motorola、ASUS、ソニーが対応ウォッチを発売した。Androidスマホと連携した通知機能をメインとし、音声入力や健康管理などの機能も搭載しており、それなりに便利ではある。しかし、Android Wearウォッチ市場はまだ100万台規模にも達していない状況であり、本当に有用なアプリケーションが模索されている状況にある。

それに対してApple Watchはデザインのバリエーションが豊富であること、専用のプロセッサを搭載し実用性を高めてきた(らしい)こと、「HealthKit」という健康管理のための強力な共通プラットホームがあることなどでこれまでのウォッチとは一線を画し、期待できる部分がある。ただしデザインや機能の十分性について賛否があり、成否については発売されるまでわからない。Apple Watchの売れ行きがウォッチ型デバイスの今後の成否を左右する大きな指標となるため、他社はそれに注目している状況といえる。

多様なアイデアがウェアラブルの新ジャンルを切り開く

ここ1、2年、帽子型やリング型、イヤホン型、シャツ型、チェストベルト型、靴型、絆創膏型、ペンダント型など、メガネ、ウォッチ以外にもさまざまなタイプのウェアラブルデバイスが発売されている。これらの多くは目的特化型専用デバイスであり、電池の持ちや装着性などの実用性が高い点が特徴的である。

スポーツ用のチェストベルト型心拍計やノイズキャンセリング機能付補聴器、運動時脳振動検知デバイス、紫外線量測定デバイスなどはすでに複数の企業から商品が出て新たな市場を形成しつつある。これからも数多くの新しいアイデアに基づく商品が登場して、多くの新ジャンルが作られていくのではないだろうか。

開発は積極的で継続的な取り組みを

一般に、コンピュータは出現以来、小型化するにつれて性能が上がり、使われ方が大きく変わってきた。筆者は、このような流れの先にウェアラブルを捉えており、スマホやノートパソコンなどのようなモバイルの次の段階としてウェアラブルへの進化は必然であると主張してきた。

Google GlassやApple Watchを見て「あんなもの誰も身に着けたくないからウェアラブルははやらない」と言う人がよくいるが、それは明らかに想像力の欠如である。30年ぐらい前に大型のバッテリーパックを備えた「移動電話」(ショルダーホン)を見て「あんなのいらない」と言っていた人が、今の携帯電話を皆が使う状況を想像できなかったのと似ている。

いずれにせよ、今後多くのウェアラブル商品が出てきて展示会などで話題となり続けることは確実である。おそらくその中にビジネスチャンスは数多くあり、かつてインターネットで見られたような大成功のシナリオが実現する可能性がある。

この分野は継続が必要であり、使い続けることで多くの知見が得られるとともに使う側もうまく活用できるようになる。この点は筆者がこれまで10年以上にわたって主張し続け、14年にわたってHMDの装着生活を続けている意義でもあると思っている。日本企業にとって小さく新しいデバイスという商材は本来得意分野であるはずで、積極的なチャレンジと継続的な取り組みを願う次第である。

(2015年2月23日 記、3月10日更新)

タイトル写真=「Apple Watch」(写真提供:時事)と「Google Glass 」(写真提供:塚本昌彦)

(*1) ^ 「モノのインターネット」。コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在するさまざまなモノに通信機能を持たせ、インターネットに接続したり、相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うこと。

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  • [2015.03.06]

神戸大学大学院教授・NPO法人ウェアラブルコンピュータ研究開発機構(チームつかもと)理事長。1989年京都大学大学院を修了後、シャープに入社。主に通信システムの研究開発に携わる。その後大阪大学工学部情報システム工学科講師を経て同大学院で情報科学研究科の助教授。2004年、神戸大学工学部・電気電子工学科教授、2007年から現職。2001年3月から、ほぼ日常的にウェアラブルコンピュータを装着して生活している。

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