中国主導AIIBをめぐる視点:日本は加盟に向けて動くべき

大庭 三枝【Profile】

[2015.05.26] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)参加に慎重な日本。しかし、中国の多国間アプローチの意図を見極めつつ、AIIBに積極的に関与するのが大国としての日本の責務ではないか。

60カ国近いAIIB参加は過小評価できない

毎年一回開催されるアジア開発銀行(ADB)総会が2015年5月上旬、アゼルバイジャンの首都バクーで開催され、ADBが今後アジアインフラ投資銀行(AIIB)とインフラ投資に関して融資で協調していく方針が定まった。AIIBの加盟には慎重な姿勢をとりつつ、ADBの役割強化を図ろうとする日本のスタンスにとりあえずの格好がついた形の決着ではあった。

他方AIIBは現在6月の設立協定に向けた準備中である。5月22日にシンガポールで開催された創設メンバーの首席交渉官会合では、当初500億ドルの規模で設立するという方針から、その2倍に当たる1千億ドル規模に拡大することで合意された。

 日本とアメリカは、AIIBのガバナンス体制の不透明性、環境や人権の国際的基準にどれだけ配慮した融資が行われるかなどを問題視し、加盟には慎重な姿勢を維持している。AIIBを主導する中国が過去にアフリカや中南米などで行ってきた援助が、その融資基準の不透明さ、収益性、環境や人権への配慮といった観点から大きな問題点を含んでいたことは、AIIBへのこうした批判をより現実味のあるものにしていることは否めない。

ただ、60カ国近くの国・地域が加盟申請するほどにAIIBが支持を集めたことを過小評価するべきではない。英国がその加盟の意向を発表する以前から、アジアにおいてはAIIB支持という大勢がすでに決していた。また、一部の専門家が分析するように英国は選挙対策の観点からAIIBの加盟を決めたという側面は確かにあろうが、その後欧州の多くの国々がAIIB加盟へと動いたのである。

新興国の発言力拡大の意思

AIIBという新たな枠組みが登場し、それが広範な支持を得たことについて、中長期的な国際秩序ないしアジアの地域秩序の変容の中で改めて考えてみる必要があるのではないだろうか。ここで、いくつか考慮すべき点を挙げておきたい。

第一に、AIIBは中国のアジア地域戦略の一環であると同時に、中国を含む新興国が国際金融をはじめとする世界経済についてのガバナンス体制において、経済力の伸張を背景にその発言力を高めようとする動きの延長線上に位置づけられるということである。

世界経済危機後、国際通貨基金(IMF)や世界銀行、先進7カ国(G7)を中心とする世界経済に関する既存のガバナンス体制において、新興国がその発言力を拡大しようとする意思が顕在化していた。主要20カ国・地域(G20)という枠組みの影響力が増し、またIMFにおける新興国の発言力を強化する改革案が出されたことなどはその例である。

むろん、単に新興国の経済規模が増大したからといって自動的にその発言力を大きくするだけでは、世界経済のガバナンスを円滑に進めることはできない。しかし、その経済規模に応じて新興国がその発言力を強めようとするのは自然の流れである。そして、そうした現実に対応した欧米中心の既存のガバナンス体制の改革が進んでいない。こうした現状への不満は、5月はじめのアジア・アフリカ会議60周年記念会合において、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領も明言している。

ADBの限界―インフラ整備の巨大な需要に応えられない

第二に、アジアのさらなる発展の為にはインフラ整備の推進が不可欠であり、またインフラ整備への需要は現実にも非常に大きいという現実である。ADBとアジア開発銀行研究所(ADBI)とが、共同研究の成果として2009年に発表した『シームレス・アジアに向けたインフラストラクチャー』は、地域全体の持続的な繁栄のためにはモノ、サービス、資本、情報、ヒトが自由に行き交うことを可能にする「シームレス・アジア」の実現を目指すことが重要であることを示しつつ、そのためには域内のインフラ整備が不可欠だとする。そして、例えば2010年から2020年まで国内インフラの整備に約8兆ドル、毎年約7500億ドルの投資が必要であるといった数字を挙げ、その需要の大きさを具体的数字の形で示している。

しかし、ADBの年間融資枠は2014年でも約131億ドルに留まっている。この度のADB総会では、年間融資枠の拡大や官民連携の強化が打ち出されたが、ADBなどの既存の枠組みのみでアジアのインフラ需要を十分に満たすのには限界があるのは明らかである。

また、ADBについては、その手続きに時間がかかりすぎるとの批判がある。環境や人権、グッドガバナンスへの配慮は重要であり、それを無視しての拙速な援助や投資を行うことは得策ではない。しかしながら、そのような不満が途上国側から出されてきたことに対して、ADBが十分に応えてこなかったことが、多くのアジア諸国がAIIBを支持した重要な理由の一つであろう。

中国が“多国間アプローチ”を提唱した背景

第三に、中国は、中国輸出入銀行など、二国間での投資や支援の枠組みを持っているにも関わらず、他のメンバー国の「雑音」が入り、自国の影響力が相対化されることが予想される多国間制度の立ち上げを提唱したことの意味を十分考える必要がある。

中国は、多国間アプローチをとることで、中国企業に利するのみのプロジェクトを進めようとしているわけではないことを示せること、そして中国のアジア地域統合への積極的な関与が国際社会において肯定的に評価され得るということに、よりメリットを感じたのではないか。

また同時に、二国間の投資や支援によって中国一国の利益を露骨に追求するよりも、多くの国が関わり、一定のルールや基準を導入した銀行経営を通じて、確実に収益を確保する援助や投資を目指しているとも考えられる。もしそうならば、中国の対近隣外交は、領土問題で見られるような強硬路線一本槍なのではなく、より「洗練」されてきているとみるべきである。ちなみに、中国がアフリカや中南米友好国への、従来のような「無条件支援」から方向転換しつつあるのではないか、と指摘する声もある。

形式上は多国間アプローチをとったとしても、結局、中国は自国および自国企業の利益の最大化を実現し得るような仕組みづくりをAIIBにおいて行うのではないかという議論もあり得る。しかしながら、例えば現在原加盟国としての参加が決まっている国の多くが、AIIBのガバナンスの透明性の確保を求めている。

また、現在進められているAIIB設立協定締結に向けた協議において、その融資基準に関しても、これまで構築されてきた投資に関する国際的基準に含まれている、包括的な環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)を考慮すべきであるとの主張が強くなされている。AIIBの初代総裁となる中国の金立群(Jin Liqun)も、そうした声に対応すべく、AIIBは「採算の取れる、クリーンで、かつ環境にも配慮する」という発言をしている。

もちろん、それを具体的にどのような形で担保するかは明確でなく、さらに詰める必要はある。ただ、こうした加盟国からの要請を中国がまったく無視して動けるかは疑問である。

日系企業のビジネスチャンス拡大の可能性をつぶさないか

さらに、議決権の割合を決める出資比率については、まだ欧州諸国などが大挙して加盟する前の段階では、中国の割合が5割に上るのではないかとの見方もあった。しかしながら、これだけ加盟国の数が増えれば、中国の投票権の割合も低下せざるを得ない。もし仮に日本やアメリカがAIIBに参加するとすれば、その割合はさらに低下するだろう。

冒頭で触れたAIIB創設メンバーの首席交渉官会合の結果、中国の出資比率は30%近くになる見込みであり、また出資比率に応じて割り振る議決権について、中国は25%以上を握るという。事実上、中国が「拒否権」を持つことになるのではないかとの観測も広がっている。ただ、数週間前、アジア開発銀行研究所長も務めた河合正弘・東京大学特任教授が以前に出した試算によれば、日本が加盟しない場合では中国の出資比率は全体の3分の1程度になるが、日本が加盟すれば28%に下がるという。また日本の出資比率は12%程度と予想され、欧州勢と組めば33%程度になると見込まれるとしている。日本やアメリカが加盟した場合、現時点で予想される中国の議決権の全体の中での重みには変化が生じると予想されるのである。

ADBの融資案件における日系企業の受注率は0.5%(2013年の実績)にすぎない、よってAIIBへ日本が不参加でも日本にとってたいした不利益はないという議論がある。日系企業の受注率がこれまで低調だったことについての検証は別途行うべきであろう。しかしながら日本がADBにおける受注率が低いのにも関わらず、AIIBにも入らないということで、日系企業の将来におけるビジネスチャンスの拡大に影響がないと言い切れるのであろうか。加盟国に名乗りを上げた中で、AIIBを自国の企業にとってビジネスチャンスだと明言している国は多いのである。

中国との政治的駆け引きは続く

国際政治は、一回のゲームで特定の国のみが総取りをして済むという単純なロジックでは動いていない。むしろ、国際政治は繰り返しゲームである。AIIB設立協定をめぐる協議において、各国の思惑が交錯している現状があり、またAIIBが設立された後も、この組織における各国の政治的駆け引きは続いていくだろう。

こうした政治的ダイナミズムに彩られつつ、AIIBは、アジアの地域統合の方向性を決定づける重要な機関および場として機能していくことが予想される。万が一、日本不在でAIIBが円滑に運用されるようなことがあれば、それは著しく日本のプレゼンスを損なうだろう。

また中国がAIIBを提唱し主導していることは、その近隣外交が、硬軟取り混ぜた、また国際社会においてその行動の正統性をどのように獲得するか、という視点をも含んだ柔軟なものとなっていることを示している。

これは、ある意味日本にとってもアジアにとっても国際社会にとっての望ましいことではある。しかしこれは同時に、中国が以前にも増して手強くなっているということでもある。

ADBは、今回官民協調の推進や、インフラ整備のための融資枠の拡大を決めた。これらはAIIBの「攻勢」に対する対応だったといえる。よって、ADBとAIIBが協調体制を取ることで、AIIBのルールや規範を変化させることが可能であるという話とは逆のベクトルの話であろう。

こうした現実は正面から受け止めるべきである。AIIBを公正なガバナンス体制を備えた、地域全体の経済発展に寄与し得る地域開発銀行とするという、大国としての責務を果たすためにも、日本のAIIBへの加盟を検討すべきであろう。また、多くのアジア諸国が日本のAIIBへの加盟を望んでいることの意味を考える必要がある。

(2015年5月25日 記)

タイトル写真=アジア開発銀行(ADB)総会で、金立群(Jin Liqun)アジアインフラ投資銀行(AIIB)設立準備事務局長(右)と会談した中尾武彦・ADB総裁【アジア開発銀行提供/2015年5月1日、アゼルバイジャン・バクー/時事】

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  • [2015.05.26]

東京理科大学教授。1968年生まれ。専門はアジアの地域主義・地域統合を中心とした国際関係論。国際基督教大学卒、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。東京大学大学院助手、東京理科大学准教授、南洋工科大学(シンガポール)客員研究員、ハーバード大学日米関係プログラム研究員等を経て現職。著書に『重層的地域としてのアジア』(有斐閣、2014年)『アジア太平洋地域形成への道程―境界国家日豪のアイデンティティ模索と地域主義』(ミネルヴァ書房、2004年、大平正芳記念賞・NIRA大来政策研究賞受賞)など。

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