粗雑かつ乱暴:憲法違反の参議院合区

片山 善博【Profile】

[2015.10.02] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

参院選の「一票の格差」是正のため、合区を含む「10増10減」で国会成立した改正公職選挙法。合区対象となった鳥取県の元知事で、地方自治の専門家である筆者は、粗雑でずさんな立法過程を批判。「合区対象自治体の住民投票が行われておらず、憲法違反では」と指摘する。

わずか4日で法案可決

2015年7月28日、公職選挙法の一部を改正する法律が衆議院で可決、成立した。それに先立ち法案が参議院に上程されたのが同月23日のことだから、土日を除けば正味4日、即席の仕上がりである。

ともあれ、この改正により、これまで都道府県単位とされていた参議院の選挙区のあり方が変わり、鳥取県と島根県、高知県と徳島県はそれぞれ隣り合わせで合区、すなわち2県を1つの選挙区とすることとされた。

言うまでもなく国会は国権の最高機関であり、参議院はその一院である。その構成員である参議院議員は単なる選挙区の代表ではなく、われわれ国民全体の代表である。その国民の代表の選び方を変えるというのに、ろくすっぽ審議もしないまま、そそくさと改正法を通してしまった。その扱いはいくらなんでも粗雑で乱暴にすぎる。

地方公聴会もなし、合区に多くの人が不安

国会法51条1項は、「重要な案件について、公聴会を開き、真に利害関係を有する者又は学識経験者等から意見を聴くことができる」とし、これまでも国政上重要な議案を決する際には、公聴会を開くのを慣わしとしてきた。国民の代表の選び方を変更するこのたびの法案審議にあたっても、国会での中央公聴会はもとより、関係県で地方公聴会を開いて住民の意見に耳を傾けるべきだったと思うが、そんなことは一切なされていない。

当然のことだが、合区される県では多くの人が不安を覚えている。地域から選出される議員が実質的にいなくなれば、自分たちの切実な声を届けようがなくなる。もう国政から見捨てられてしまうのではないか。こうした事情と懸念を知り合いの自民党国会議員にぶつけたところ、該当の県では党として意見を聴いたという。もとより強い不満が寄せられたが、丁寧に説明し、善後策の見通しをも示すことで概ね了解を得たから大丈夫なのだそうだ。

身内の「失業対策」にのみ熱心な自民党

しかし、彼らが「丁寧に説明」した相手は自民党所属の地方議員が中心であって、決して一般の有権者ではない。しかも、「善後策」なるものはもっぱら国会議員の処遇の話だったようだ。その詳細は明らかにされていないが、合区による定数減により否応なく「あぶれる」ことになる議員を、選挙区から比例区に回すなどしてうまく塩梅するのだという。なんのことはない、国会議員の「失業対策」である。それで現職議員の不満を抑えられるのかもしれないが、住民の不安を解消することとは縁遠い。

しかも、報道で伝えられるところによると、比例区に回すにあたっては、該当者が確実に当選できるための算段を講じることも検討するという。単に比例区の候補者名簿に登載するだけでは、確実に当選できる保証がないからだろう。

現行の参議院比例区は非拘束名簿式といって、候補者の名簿順位を政党があらかじめ決めることはできない。各候補者に寄せられた得票数に応じて順位付けがなされ、その上位者から当選人が決まる。この仕組みを変更し、例えば名簿の上位5名まではあらかじめ順位づけを可能にするなどの案が考えられるのだという。肝心の住民の不安はそっちのけにして、身内の「失業対策」にだけは余念のない政界の実態がわかりやすく伝わってくる。

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  • [2015.10.02]

慶應義塾大学法学部教授。専門は地方自治、地方財政。1951年、岡山県生まれ。東京大学法学部卒業。74年に自治省(現・総務省)に入り、大臣秘書官、府県税課長などを歴任。98年に退官後、99年の鳥取県知事選に出馬して当選。2期8年務め、官僚出身の“改革派知事”として注目される。2010-11年には民主党の菅直人内閣で総務相を務めた。

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