大忙しの気象庁、天気予報から防災まで

古川 武彦【Profile】

[2015.11.12] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | Русский |

自然災害が相次ぐ中で、気象庁の存在感が増している。地震、津波、火山噴火からオゾン層の監視まであらゆる自然現象を扱う「技術屋官庁」の進化と実像を紹介する。

津波で1万8千人を超える犠牲者を出した2011年3月の東北太平洋沖地震以来、日本列島は「災害列島」と化している。2014年8月には豪雨による広島土砂災害で70名を超える人命が失われ、同年9月の御嶽山の噴火で火山災害としては戦後最大の死者58名、行方不明者5名の犠牲者を出した。そして2015年9月、台風に伴う豪雨で茨城県を流れる鬼怒川が決壊、常総市を中心に村落や田畑があっという間に浸水に見舞われて一面の湖と化した。

茨城県常総市・台風による豪雨で湖と化した村落(撮影:古川武彦)

日常生活の情報インフラとして

最近は、こうした事象が起きるたびに気象庁が表舞台に登場し、予報課長や地震津波監視課長などによる記者会見がテレビ中継される。大忙しの気象庁である。もちろん災害時ばかりなく、今日の気象サービスは、社会における必須の情報インフラとして日常生活に浸透している。

まず天気予報の進化には目をみはる。1時間刻みの「ピンポイント予報」、1、2日先までの「短期予報」、さらに「週間予報」や「1カ月予報」などがある。

ひとたび地震が起きるや否や、震源域や各地の震度、さらに数分もしないうちに津波の有無、津波の恐れがある場合にはその到着時刻までも発表される。それどころか地震の揺れを感じる前に、「緊急地震速報」が茶の間やスマホ、携帯電話にまで伝達される。火山活動の監視も24時間体制で行われている。黒潮や親潮の観測、波浪予報のためなどに、数隻の海洋観測船と漂流ブイ、沿岸波浪計なども運用されている。

この気象庁、一般には天気予報を行う官庁だと思われがちだが、そのサービス範囲、またどんな観測システムや予測技術に基づいているか、さらに組織や予算に関しては、世間にあまり知れられていない。

世界でもまれな「オールラウンド」のサービス

気象庁の前身は1875年にわずか10人足らずの、しかもお雇い外人の指導の下に発足した東京気象台だ。内務省地理局の所管から文部省に移管されて中央気象台に改称、戦後は旧運輸省の所管となり、1956年に気象庁に昇格した。2001年、中央省庁の再編で国土交通省の外局となった。その長は長官と定められており、海上保安庁や観光庁と同格である。

気象庁の大きな組織的特色は、歴代の台長および長官以下、職員のほとんどがいわゆる技術屋で占められていることだ。

その守備範囲は天気予報に代表される気象から、洪水などの水象や土砂崩れ、地震・火山、津波、海洋、さらに航空機向けの気象、CO2やオゾン層の監視にいたる。つまり、「空」「陸」「海」に起きるほとんどすべての自然現象を相手にする組織だ。

世界的に見てもこのようなオールラウンドの政府機関は珍しい。例えば、米国ではNWS(National Weather Service)、英国ではMet Office(Meteorological Office)、中国ではCMA(China Meteorological Agency)、韓国ではKMA(Korean Meteorological Agency) など、気象サービスに特化されている。

実際に気象庁が行う天気予報などの具体的なサービス内容は、1952年に制定された「気象業務法」に基づく。この業務法は翌年のサンフランシスコ平和条約の発効を契機に、気象庁のサービスを規定するべく新たに制定されたものだ。日本は1953年に国際連合の専門機関である世界気象機関(WMO)および国際民間航空機関(ICAO)の一員となった。国連への加盟を果たしたのは、その3年後のことだ。

24時間体制のオペレーション

気象庁の組織は、本庁の内部部局として総務、予報、観測、地震火山、地球環境・海洋の5部が置かれ、予報課や地震津波監視課、環境気象管理官など合計21の課・管理官がある。付属機関として気象研究所、気象大学校、気象衛星センターなどがあり、地方組織としては、「札幌管区気象台」などの管区ブロック制を敷く。

各管区の下に府県ごとに置かれている「地方気象台」がある。地方気象台には約30人の職員が勤務しており、日々の天気予報や気象警報などのオペレーションを、交代勤務をしながら24時間体制で行っている。さらに、気温や気圧、風などの地上気象観測も行っている。

茨城県・水戸地方気象台の観測露場(撮影:古川武彦)

別途、成田や羽田などの各空港には、航空機の安全運航などを支援するため「航空地方気象台」や「航空測候所」などが配置されている。

気象庁は約5200人の職員と年間予算約600億円で運営されており、そのうち、機器の整備・維持費などの物件費が約40%を占めている。

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  • [2015.11.12]

1940年滋賀県生まれ。気象庁研修所高等部(現気象大学校)および東京理科大学物理学科卒業。理学博士。1959年気象庁入庁後は、気象研究所台風研究部、気象庁(観測部、予報部)、気象庁航空気象管理課長、気象庁予報課長、札幌管区気象台長、気象協会参与などを歴任。この間、アメリカ大気研究センター(NCAR)留学、運輸省官房海洋課出向、JICA技術援助プログラム(ラオス、モンゴル、フィジー)参加。現在「気象コンパス」を通じて、気象に関する情報を発信している。主な著書に『気象庁物語―天気予報から地震・津波・火山まで』(中公新書、2015)、『避難の科学―気象災害から命を守る―』(東京堂出版、2015)、『人と技術で語る天気予報史』(東京大学出版会、2012)等。

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