日本に女性首相は誕生するか

横田 由美子【Profile】

[2016.10.25] 他の言語で読む : ENGLISH | FRANÇAIS | ESPAÑOL | Русский |

今やその言動が世界の注目を浴びる小池百合子都知事と民進党代表に選出された蓮舫議員。彼女たちを筆頭に、女性政治家は度々メディアの脚光を浴びる。だが、現状では女性首相誕生への道は遠い。

世界に発信する「トーキョーの顔」に初の女性

小池百合子氏が今年8月に東京都の顔になってから、既に3カ月がたとうとしている。7月31日、300万票近い得票で都知事選挙に勝利した時、私は、深い感慨を持って、テレビ画面の向こうで満面の笑みで万歳する小池新都知事の姿を見つめていた。

これまでも、女性の知事はいたが、首都「東京」の顔になった例はない。他県と比較して、女性にハードルが高い理由は、都知事の地位の高さにあるだろう。約7兆円強(特別会計、公営企業会計を加えると約13兆円)の予算は、スウェーデンに比肩する額であり、首都の顔は、間違いなく日本という国を代表する1人にもなるからだ。特に今回は、2020年に東京オリンピックを控えている。小池都知事はまさに「トーキョーの顔」として、世界中にメディアを通じて発信されていくことになる。

ニュースキャスター、否、アシスタントキャスターから、現在の地位まで上り詰めた彼女の面目躍如といったところだろう。

“冷や飯食い” から見事に復活

私が『ヒラリーをさがせ!』(文春新書)という本を出版したのは8年前、2008年のことだ。その頃米国では、ジョージ・ブッシュ政権の終焉(しゅうえん)と共に共和党に対して国民の心が離れ始め、次は民主党の大統領というところまでは、ほぼ予想通りだった。そして当初、大統領選レースの先頭を走っていたのがヒラリー・クリントンだった。

最終的には、バラク・オバマの登場により、「黒人初」の合衆国大統領が誕生することになるのだが、途中までは誰もがヒラリーの勝利を疑っていなかったように思う。かくいう私もその1人で、南米や欧州などでは女性の首相や大統領が登場していたが、やはり国際社会の覇者である米国で女性大統領が誕生することは全く意味合いが違う出来事だと胸を躍らせた。

そこで始めたのが、「日本でも女性首相は誕生するか」という問いを胸に、小池を含めた与野党の女性議員にインタビューを重ねることで「答え」を探し求めるという企画取材だった。小池はこの時から明確に「総理大臣」というポストを視野に入れて話す “珍しい” 女性議員の1人だった。その後、推薦人を集めて自民党で初の女性総裁候補となり話題となるも、惨敗した。米国でも、ヒラリー人気は失速し、米国初の女性大統領は夢とついえた。

その後、ヒラリーはオバマ政権で要職に就き存在感を示したが、大統領はもう無理ではないかと私などは考えていた。小池もまた、自民党が下野したこと、また12年、安倍晋三氏が再登板に成功した時の総裁選で、対立候補側についたことなどが遠因して、“冷や飯食い” が続いていた。

私をはじめ、多くの人々が感じていたはずだ。「小池百合子の時代は終わった」、と。確かに永田町では彼女はとうに “過去の人” だった。前回の政権交代で芽生えた野党への不信感、一方、自民党内での人材不足を土壌にした安倍一強支配の延長―小池の居場所は今もこの先も無かった。だが彼女は、無為にこの失われた時間を過ごしていたわけではなかった。勝負に出る時を待ち、そして、その賭けに打って出て、勝利した。

女性初の首相にはなれなかったが、女性初の都知事にはなった。これは、小池百合子という政治家の特異性は別として、大いなる前進であると私は捉えたい。

女性登用は政権の“花”

時計の針を再び8年前に戻す。その頃、我が国の女性議員の割合は、衆議院で9.4%、参議院で18.2%だった。2016年になると若干増えるが、それでも、衆議院で9.5%、参議院で20.7%と、国会の女性議員比率の国際比較統計によると、188カ国中157位という政治後進国なのだ。曲がりなりにもジャーナリストとして永田町に足を踏み入れるようになって以来、私はこの数字がずっと不満であり疑問でもあった。

選挙の度に報じられるのは“目玉”となる女性候補の動向で、組閣時も閣僚には必ず女性議員を1人か2人は“花”として登用するのが常だ。「女性が輝く社会」を標榜(ひょうぼう)する安倍晋三政権では特に、内閣改造の度に若くても女性というだけで、政務官や部会長などに次々と抜てきされている。しかし、彼女たちが話題になるのは一瞬にすぎない。実際、彼女たちが何をしたのか、私にはよく分からない。この数年、メディアの批判を浴びながらも、それなりに実績を出したように見えるのは、丸川珠代環境相と稲田朋美防衛相ぐらいだろう。しかし、彼女たちが総理、そして官邸の強い意向でこれらのポストに就いたことは説明するまでもない。

女性政治家が直面する壁

前述した『ヒラリーをさがせ!』の企画意図には、実は別の意味も隠されていた。私の念頭にあったのは、2003年に日本で公開された『デブラ・ウィンガーを探して』という米国人女性監督によるドキュメンタリー映画だった。監督自身も女優で、主演女優としての年齢の壁や仕事と家庭の両立に悩み、その当時家庭に入って映画界を引退していたかつての人気女優デブラ・ウィンガーを探す“旅”に出る。その過程で女優たちにインタビューを重ね、彼女たちの悩みや本音を引き出すというものだった。日本の女性政治家も年齢や結婚、子育てなどの壁を前に、似たような状況にあると感じていたから、彼女たちがどう壁を乗り越えようとしているのか聞いてみたかった。

それに加え、日本では、真の意味で実力者たる女性議員は育っていないという土壌がある。一時的には、丸川や稲田のように引き立てられ脚光を浴びる。それは、その前の世代の女性議員の代表者である小池や現総務相の高市早苗、1年前の総裁選出馬に失敗した野田聖子らもたどった道だ。しかし、時勢が変わり、後ろ盾がいなくなり、年を重ねると、驚くほど早く存在感を失う。それは野党の女性議員も同じことだろう。

今年9月、野党第1党の民進党代表選挙では、蓮舫議員が党首の座に就いた。一方、岡田(克也)代表時代、二期生にして政調会長に引き立てられた山尾志桜里は、一兵卒に戻った。

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  • [2016.10.25]

ジャーナリスト。1996年、青山学院大学文学部卒。政界・官界、女性をテーマに記事を執筆。2015年1月、女性の起業支援や女性向けニュースを配信する合同会社マグノリアを設立、ウェブマガジン「Mulan」を運営する。主な著書に『ヒラリーをさがせ!』(文芸春秋, 2008年)、『官僚村生活白書』(新潮社、10年)、『なぜ名門女子校の卒業生は、「ひと味」違うのか! 』(PHP研究所、15年)など。

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