NPO・社会起業家が支援分野の枠を超えて連携:新公益連盟設立の意義

大室 悦賀【Profile】

[2017.03.16] 他の言語で読む : Русский |

2016年初め、社会が抱える課題の解に向けて最前線で奮闘するNPO代表らが、垣根を越えて連携をはかる「新公益連盟」が結成された。同連盟が誕生した背景を探りながら、ソーシャル・イノベーションを専門に研究する筆者が今後の可能性について考察する。

近年日本において、社会的企業、ソーシャル・ビジネス(SB)やソーシャル・イノベーション(SI)という概念が散見されるようになった。この背景には、政府や行政機関など公益セクターだけでは社会的課題を解決できないという共通理解がある。そのような中で、社会起業家による、社会起業家のための組織、新公益連盟が誕生した。日本における社会起業家やSBの現状や課題を踏まえ、新公益連盟の意義について考えてみよう。

変化する社会起業家を取り巻く環境

日本において社会的企業、SB、SIという概念が使われるようになったのは2003年ごろからであった。それは1998年に施行された特定非営利活動促進法の施行後5年が経過した時期で、自立したNPOが社会的に求められるようになり始めていた。それから15年に差し掛かろうとする今、社会起業家を取り巻く環境はどのような変化を遂げているのだろうか。

そもそも社会的企業が台頭した背景には、米国でNPO向け補助金が削減されたことがある。その結果、NPOに起業家精神を導入する必要が生じ、事業を中心とした事業型NPOが台頭したのだ。日本もこうした影響を受け、社会的企業は事業型NPOを目指すようになった。

しかし、その後ソーシャルベンチャー企業(社会的課題の解決を目的とした株式会社)の台頭によって、社会的企業は株式会社を含めた概念として捉えられるようになった。こうして、社会的課題の解決に寄与する新しい商品やサービスの提供とその仕組みが、SIとして定義されるようになった。その後、一般企業(社会的課題の解決を目的としていない企業)が社会的課題の解決に参入するようになり、社会的企業としてひとくくりでは説明できなくなり、事業形態で捉えるSBという概念が一般化していくことになった。

補助金に依存しないソーシャル・ビジネスを

一方で、SBの実情は決して楽観できるものではない。そこには、「社会的企業もSBも他のビジネスや市場環境の影響下にあり、簡単にビジネスを成功・継続できるものではない」という現実がある。その結果、現在も多くのSBは、補助金に依存している。それは、そもそも社会的課題の多くが市場で起きるさまざまな矛盾を原因としており、その市場をそのまま利用した形での社会的課題の解決には無理があり、簡単にビジネスになりにくい側面をもっているためだ。

具体的には、環境、障害者、高齢者、女性、子育てといった問題の多くが市場の効率性になじまないため、社会問題化している。これは、効率性にのみ着目した市場社会や政治システムのままで、社会的課題の解決に市場を利用しようとしているという点に問題がある。その結果、経営上の制約(高コスト、リソースの不足)、市場の制約(市場規模が小さい、障害者や高齢者から対価を徴収できない)、社会的制約(社会的課題の解決は行政の仕事といった市民の思い込み)が存在し、経営を困難なものにしている。

そこでは次のようなポイントが浮かび上がる。市場社会や政治システムを変革するためのメインストリームの企業や市民の参加の必要性である。どんなにSBがシステム変化を誘引するビジネスを市場に起こしたとしても、追従するメインストリームの企業やそれをサポートする政治・行政システム、さらには市民が参加しなければ、成果はあがらないのだ。

新公益連盟が組織された意味

現在、SBには大きく分けて以下の3つの課題が存在する。

①社会的課題を解決するビジネスには、一般企業と異なった経営スタイルの確立が求められていること。

②多くのSBは目の前にある社会的課題に対応しているが、社会的課題そのものを生まない市場システムの構築を誘因するビジネスモデルを提示すること。

③市場や政治などの制度や市民の参加を促す仕組みが十分ではないこと。

新公益連盟は、こうした課題を解決するために誕生したと言ってもいいだろう。同連盟は、NPOや社会的企業のアクションチームを作り、さまざまなセクターとの協働によって組織の壁を越えてお互いの強みを出し合い社会的課題の解決を目指す「コレクティブ・インパクト」の推進や、ソーシャルセクターの経営力強化、制度改革(非営利法人の制度整備等)を行うことを目的とし、2016年初めに設立された。

中心メンバーは病児・障害児保育などを手掛けるNPO法人フローレンスの駒崎弘樹代表理事、東日本大震災の復興を支援する一般社団法人RCFの藤沢烈代表理事、社会起業家を支援するNPO法人エティックの宮城治男代表理事、投資や寄付など資金調達面で公益活動をサポートする日本ファンドレイジング協会の鵜尾雅隆代表理事など、錚々(そうそう)たる社会起業家が名を連ねている。

構成員は正会員67団体、パートナー会員9社だ。正会員の内訳はNPO法人と社団法人が中心で、株式会社が7社。地域別でみると47社が関東甲信越に集中している(2017年2月23日現在)。正会員の法人格は問わず、今後全国から会員を募っていくという。

2016年12月に開かれた新公益連盟の「2017年の方針発表・交流会」には、NPO、企業、行政機関から110名が参加した

2つの活動領域

新公益連盟は、主に「マネジメント」と「制度変革」の2つの活動領域を持つ。

起業家や組織のマネジメントに関して言えば、先に指摘した通り、経済性のみならず社会性を追求することからSBは多くの困難に直面している。特に経営者にとっては両者のバランスをどのようにするかということが問題になってくる。そこで、同連盟では経営者同士の悩みやマネジメントについて勉強する「こころざし合宿2016」を開催したり、事務局スタッフや新規採用スタッフのための勉強会を計画したりしている。このことによってSB特有のマネジメントを確立し、そのノウハウを普及することを目指している。

SBを取り巻く制度の改革に関しては、積極的に政府や各政党との意見交換を通して政策を提言している。具体的には、「休眠預金の活用」「遺贈寄付の制度改善」「ソーシャルインパクトボンドの導入」などだ。しかしながら、先に触れたように多くの社会的矛盾を生じさせる市場システムの根本的な改善策について、個々のメンバーでは意識されているものの、組織的、あるいはそれを普及するという点においては十分に共有されているものではない。このあたりが今後の課題となるであろう。

サステイナブル・カンパニーの挑戦

最後にSBという概念を使いたがらないが、明らかに社会的課題と密接に関わる企業群を紹介し、日本の現状報告としたい。それらは、世界的に見れば、Whole Foods Market(米国)、Patagonia(米国)、Lush(英国)などで、日本においてはサラダコスモ(岐阜県)やIKEUCHIU ORGANIC(愛媛県)、寺田本家(千葉県)、アミタホールホールディングス(京都府)などである。

これらの企業は、自分たちのことをSBとは言わない場合が多い。その理由は社会的課題の解決のみならず、社会的課題を生まない市場システムを誘引すること意識しているからだ。何よりこれらの企業群は、ビジネスとしてもしっかり利益を上げている。例えばWhole Foods Marketの売上高は1兆円を超え、ウォールマートと競合している。サラダコスモの売上高は100億円を超え、もやしやカイワレ大根などスプラウト(※1)の業界では第1位のシェアを誇る。

このようにビジネスとしても成立し、なおかつ社会的課題の解決を目指しつつ、社会問題を生み出さないシステム、あるいは企業モデルを作り出そうとしている企業群も台頭している。筆者はこのような持続的な社会の構築を目指す企業を「サステイナブル・カンパニー」と呼んでいる。新公益連盟は、こうした企業モデルを普及させ、さらなるSIを引き起こすことをその目的の一つとしていることは確かである。同連盟はまだ誕生間もない組織である。しかし、社会的課題の先進国である日本の将来を切り開く組織として、なくてはならない存在に成長することを期待したい。

バナー写真:2016年の初旬に開かれた新公益連盟の発表パーティー

(※1)^ 発芽直後の植物の新芽のことで、発芽野菜のことをいう。

  • [2017.03.16]

京都産業大学経営学部教授。1961年生まれ。2007年、一橋大学大学院商学研究科博士後期課程満期退学。15年から現職。同年、京都市ソーシャル・イノベーション研究所所長。専門分野はソーシャル・イノベーション、 ソーシャル・マネジメント。著書に『サステイナブル・カンパニー入門』(学芸出版社)、『入門企業と社会』(中央経済社)、『ソーシャル・ビジネス・ケース』(中央経済社)、『ソーシャル・イノベーション』 (NTT出版)など。

関連記事
最新コンテンツ

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告