「魅力増す農業・農村の実現」に向けたJAグループの取り組み

比嘉 政浩【Profile】

[2016.12.26] 他の言語で読む : ENGLISH |

農家の高齢化、外国との経済連携協定による輸入農産物の関税引き下げなどで、日本の農業を取り巻く環境は大きく変化するとみられる。こうした中で農協(JA)は、農業現場が抱える課題にどのように対応しようとしているのだろうか。

日本の農業者は世代交代期

現在の日本の農業を一言で表すならば「世代交代期」だ。基幹的農業従事者のうち65歳以上が65%近くとなっており、これまで日本農業をけん引してきた昭和一桁、昭和10年代生まれの世代を中心とする高齢層農家の離農がさらに進むことが想定される。一方で、最新の農林業センサスによれば、10年前と比べて5ヘクタール以上の経営体への農地集積が進み、それらの経営体の利用面積が農地面積全体に占める割合は50%を超えるなど、着実に規模拡大が進んでいる。

農業現場では、こうした構造的な課題に加え、日本の経済・社会全体にも関わる大きな外的変化要因に直面している。例えば、日本が12月に国会承認した環太平洋連携協定(TPP)や現在交渉中の欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)だ。TPPは、同協定に反対するドナルド・トランプ氏が米大統領選に勝利したことで発効が見通しづらくなっているが、日本政府は今も発効を目指している。もし発効すれば日本の農業生産額は1300~2100億円減少すると試算されており、政府は万全の国内対策を講じるとしているものの、現場では将来に対する不安が払拭(ふっしょく)されていないのが実態だ。これらの不安によって円滑な世代交代がかなわなければ、日本農業の生産基盤は大きく崩れかねない。

日本農業はこれまで機械化や省力化などを通じて、労働生産性が向上してきた。これを農業者所得の向上へとつなげるためには、規模拡大が必須である。だが、かつての農村では、とりわけ稲作など土地利用型農業の規模拡大は困難だった。しかし現在では、耕地区画や用排水路の整備、土地改良といった圃場(ほじょう)・基盤整備の実施が条件ではあるが、高齢になった農業者の土地を利用することで規模拡大が可能となった。今まさに、いかにして意欲ある農業者に存分に力を発揮してもらい、規模拡大につなげてもらうかが一層重要になっている。ただし、中山間地が多いという日本の国土実態から、規模拡大がなじまない地域に対する政策的配慮を抜きに議論をすべきではない。

今こそ「骨太の農業政策」が必要

農業政策には大きく分けて、①産業政策、②セーフティーネット、③中山間地域などへの地域政策―の3つの要素があり、これらをバランスよく整える必要があると考えている。

産業政策については、農地の大区画化などの圃場・基盤整備、農地集積、投資支援が必須であり、この面では現在多様なメニューが整備されつつある。また、農業が直接的に生産する食料は、必需性が高く、価格弾力性が相対的に小さい。加えて農業自体が天候や自然災害、伝染性病害などの影響を大きく受けやすく、農業経営者が努力し得る範囲を超えた変動が起こりやすいという特徴がある。このことを踏まえれば、きちんとしたセーフティーネットを措置する必要性がある。さらに、農業改革の議論では、ともすると平たん地を念頭に置いた効率化、規模拡大といった点に焦点が当たりがちだが、国土の7割、全耕地面積の4割が中山間地という実態に即して、しっかりとした地域政策を措置し、中山間地域を支えていくことが必要だ。すなわち「産業政策」としての農業政策だけではなく、「セーフティーネット」と「地域政策」の側面を加えた「骨太の農業政策」とすることで、広く国民に対して安心感を与えるような強いメッセージが必要だと考えている。

さらに、農業がかつての「生業」から「経営」へと移り、大規模化したことで、農業経営者にとって経営環境の安定、中期的に政策の方向が見通せることが重要になっている。米国ではおおむね5年ごとに農業法を制定しており、欧州連合(EU)も共通農業政策(CAP)の見直しを一定の中期的スパンで行っている。この点について、日本で同様の狙いを持っているのが「食料・農業・農村基本計画」だ。政府は昨年3月に同計画を取りまとめたが、その後にTPP大筋合意という大きな環境変化要因が発生しても、計画を見直していない。すなわち、政府として同基本計画で示した生産努力目標も含め、引き続き計画の達成を目指すとの明確な意思表示であると捉えている。今こそこの基本計画に重きを置き、TPPなどの下でも同計画を実現できる「骨太の農業政策」を中期的かつ安定的に展開する必要がある。

JAグループ挙げて農業者所得増大に挑む

先に「骨太の農業政策」の必要性を訴えたが、政策が下支えすればおのずと職業としての農業の魅力が出てくるというものではない。農業者自ら経営を創意工夫するとともに、それら努力をJAグループ挙げて支援し、農業という職業を一層魅力あるものにしなければならない。このため、9月にJAグループとして「『魅力増す農業・農村』の実現に向けたJAグループの取り組みと提案」を発表した。これは、JAグループ自らの取り組みと政策提案、関係業界への提案を取りまとめたものである。

まず「1円でも多く生産者の手取りを確保する」ため、JAグループは消費者までの距離を縮める。グループ内で農産物販売や生産資材購買を担当する全国農業組合連合会(全農)は従来、卸業者へ玄米で販売することを主としてきたが、小売りや外食・中食業界といった実需者への精米での販売を拡大する(2023年度までに100万トン)。また全農は、青果の直販事業を拡大する(18年度までに3300億円)。同じく、野菜需要に占める加工・業務用の割合が年々増加し、今や半分以上を占めるに至っていることを踏まえ、適正品種の選定や新技術の導入などを通じ、加工・業務向けの青果物販売を拡大する(18年度までに450億円)。さらに、JAグループ全体で農産物輸出額を伸ばす(20年までに380億円)。

輸出については、全農はこれまでも海外で現地法人の設立や和食店舗の開設を行うなど海外での最終実需者のニーズ把握・直販体制を構築してきたが、11 月には農林中央金庫(農林中金)とも連携し、英国の食品卸会社の経営権を取得して現地のサプライチェーンを獲得した。さらに 12 月には「オールジャパンのプロモーション・事業者サポート体制の構築についての連携協定」に JAグループを代表して全国農業協同組合中央会(全中)、全農、農林中金が署名し、今後、日本貿易振興機構(JETRO)や各品目別輸出団体、経済団体、地方自治体などと輸出拡大に向けて一層緊密に連携していくことを確認した。こうした一つ一つの手段を具体化していくことで最終的に日本産の農畜産物の輸出拡大の達成、農業者所得の増大を実現していきたい。

そして「1円でも安く良い生産資材を供給する」ため、全農では肥料・農薬の取扱品目を大胆に集約し(国産化成肥料は17年より、水稲除草剤は16年秋より開始)、集中生産、集中購買によって価格を引き下げるほか、大規模生産者などに直送することで物流コストを圧縮する。担い手向けの安価・大ロットの輸入肥料の取り扱いを本格的に開始する(既に実施済み)とともに、通常規格の50倍の大型規格農薬を供給し単価を引き下げる。家畜の飼料について、港湾・地域別の飼料工場・メーカーを再編する(17年度にJA西日本くみあい飼料の3工場を集約、新工場を稼働)など合理的な供給体制を整備するほか、農機について、大型コンバインのシェアリースや野菜作機械のレンタルを拡大する(17年より本格展開)など、トータルで生産コスト低減を目指していく。

しかし、生産資材価格の引き下げのためには、業界の協力や施肥基準の緩和、ジェネリック農薬の登録制度の規制緩和などが必須である。こうした課題については、JAグループとして関係業界や政府に対して働き掛けていくこととしている。既に全農は賛同する企業とともに、日本でのジェネリック農薬の適切かつ速やかな導入・普及を図ることを目的とした「日本ジェネリック農薬協議会」の年内設立を目指すことを発表するなど、順次具体化を図っている。

他にもここでは紹介しきれない取り組みを展開することとしているが、全中のウェブサイトに、より詳細な内容を掲載しているので、ぜひご覧いただきたい。

最後に、政府が11月29日に決定した「農業競争力強化プログラム」「農林水産業・地域の活力創造プラン」に触れたい。これらの計画では、生産資材価格形成の仕組みや農産物流通・加工構造の改革のほか、加工食品の原料原産地表示や人材育成などが盛り込まれている。これらは、現在取り組んでいる農業者の所得増大に向けた JAグループの創造的自己改革をより一層後押しする内容であると受け止めており、先に掲げた食料・農業・農村基本計画の実現につながるよう具体化されることを期待したい。

今後ともJAグループ一丸となって、日本農業全体の発展、将来にわたり安全・安心な食料の安定供給、農業を起点とした地域の活性化などに貢献し、意欲ある農家と共に、日本農業の新たなステージへ踏み出していきたい。

バナー写真:稲刈り間近のあきたこまちの稲穂=2016年9月、秋田県(時事)

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  • [2016.12.26]

全国農業協同組合中央会(JA全中)専務理事。京都大学農学部卒業。1983年JA全中入会。2008年教育部長、11年総務企画部長を経て、14年JC総研理事および15年より現職。

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