スマホと子ども② —「JKビジネス」の裏側

石川 結貴【Profile】

[2017.02.14] 他の言語で読む : ENGLISH | ESPAÑOL | العربية | Русский |

スマートフォンを「入り口」として気軽に男性接待のバイトに応募する女子高生たち。「簡単にお金が稼げる優しい仕事」につられた少女たちを巧妙に操るビジネスの実態とは。

前稿でSNSやソーシャルゲームを通じて自分の価値を認めてもらおうとする子どもたちの実態を書いた。スマホを駆使し、多くの情報と「つながり」を得る一方で、判断力や社会経験が未熟な彼らは、時に深刻な問題に直面する。本稿ではその一例として「JKビジネス」を考える。

SNSやサイト経由で気軽に応募する女子高生

「JK」は女子高校生の略、つまり「JKビジネス」とは女子高校生であることを「ウリ」にしてお金を稼ぐビジネスだ。客と一緒に街を歩く「JKお散歩」、制服姿の女子高生と会話やゲームを楽しむ「JKカフェ」、コスプレをした女子高生の写真を撮る「撮影会」、添い寝、ハグ、マッサージなどを提供する「リフレ」(リフレクソロジーの略)など、さまざまな業態がある。

警視庁の調査(2016年1月)では東京都内だけで174店が確認されていたが、児童福祉法や青少年保護条例などの規制、取り締まり強化により、最近では「無店舗型」が増えている。レンタルオフィスとホームページ、それにSNSを利用すれば、客への対応と働く女子高校生の管理が可能だからだ。利用客はホームページから日時やコースを選んで申し込む。一方の女子高校生側も、求人サイトやSNSを通じて応募する。JKビジネス専用の求人サイトでは、おおむね次のような文言が掲載されている。

<女子高校生ツアーガイト大募集! 今だけ限定の高時給を保証。1日3時間のツアーガイドで2万円以上稼いでいる女の子多数!>

<履歴書不要。面接日はあなたの都合のいい日に設定できます。また、個人情報が流失することは絶対にありません>

<誰でも簡単。空いている時間を使って、賢く稼いでください。当社は芸能事務所と提携し、モデルやアイドルデビューしている女の子が多数います。なんでも相談できる優しいスタッフ、明るいキャストがいっぱいです>

<当社は優良事業者として認定され、営業許可を受けています。強引な勧誘や契約違反などは一切ありません>

ここで言う「ツアーガイド」が、実際には「お散歩」である。単に街を歩くだけではなく、「手をつなぐ」とか「一緒にカラオケで歌う」などのオプションもあり、性的な行為は「裏オプ(裏のオプション)」と呼ばれている。運営会社と女子高校生はSNSで随時メッセージ交換し、報告や指示などの連絡を取り合う仕組みだ。

東京都内の中学生と高校生515人を対象にした「JKビジネスに対する中学生及び高校生等の意識調査」(株式会社ステップ総合研究所が2016年3月に実施)では、63%が「JKビジネスを知っている」、9.5%は「実際に働いている子を知っている」と回答した。また、「JKビジネスで働くことについてどう思うか」という質問に対し、「お金に困ってのことだからしょうがない」22.9%、「働いている子も喜んでいるのだから問題ない」10.5%と、肯定的に捉える子どもが少なからずいる。さらには、「これも今の社会で、お金になる女の子の新しい仕事だ」という回答が8.3%、積極的に受け入れるような姿勢さえあるのだ。

とはいえ、SNSでは「JKビジネスは危ない」といったクチコミも拡散する。いくらお金が稼げると宣伝されても、反面では不安や不信感もあるはずだ。彼女たちはなぜJKビジネスに踏み込み、そこにはどんな実態があるのか、取材した女子高校生の例を紹介しよう。

巧みな誘導と甘言で心をつかむ

東京都内に在住する由里さん(仮名・18歳)は演劇部に所属、ファッション系の専門学校への進学を目指す。そんな彼女は16歳から17歳の1年間、JKビジネスで働いた。仕事の内容はコスプレで、アニメやゲームの登場人物を模した格好をし、マンションの一室で撮影会をしたり、客とカラオケに行ったりする。

もともと由里さんはフードコートのアルバイトで月に2万円ほどの収入を得ていたが、服を買ったり友達と外食したりすれば、すぐになくなってしまう。そんなとき、アルバイト仲間から「JK求人サイト」を教えられた。サイトには「現在登録中の女子高生2万人」「本日の新規登録150人」などの言葉が並び、「アイドル」「撮影会」「ゲームキャスト」「コスプレ」「カラオケ」「観光案内」などとジャンル別の求人があった。実際にアルバイト中という女の子の写真やコメントも載っている。由里さんは「怪しい」と感じつつ、女の子たちのコメントには興味が湧いた。

<ここのサイトは匿名で応募できるし、しつこい勧誘は一切ナシ。個人情報が漏れる心配がないから安心してバイトできるよ。スタッフもみんな優しいし、いろんな高校に通う女の子と友達になれて毎日メッチャ楽しい~>

こんなコメントを読むうち、由里さんは「匿名で登録だけでもしてみようか」という気持ちになった。登録は無料、サイト内で指定された項目を書き込むだけだ。「モモ」という仮名で、自分の年齢やメールアドレス、趣味、学校では演劇部に所属中といったプロフィールを記入した。すると、「演劇部のモモさんに、演技力を生かしたお仕事をご紹介します」というスカウトメールが送られてきた。「1日だけのコスプレモデル」だ。

【1日限定の撮影会コスプレモデル緊急募集。3時間で1万円。はじめての女の子、不安な女の子でも大丈夫。お仕事現場は女性スタッフが完全マネージメント。優しい女性スタッフが全力でサポートします】

由里さんは「優しい女性スタッフ」という言葉に驚いた。JKビジネスを仕切るのは「ちょっとコワモテの男性」だと思っていたからだ。1日限定、しかも女性スタッフがいるなら安心だ、そう感じて早速アルバイトに応募した。当日、指定された撮影会の場所は繁華街近くのマンションの一室。恐る恐るドアフォンを鳴らすと、3人の女性スタッフがにこやかに迎えてくれた。

撮影会に集まった客は10人ほど、アルバイトは由里さんを含め4人で、アニメキャラクターなどのコスプレをしただけだ。約束の1万円を現金で受け取り、女性スタッフや他のアルバイトの女の子と食事に行った。まるで「女子会」のようなノリで楽しく会話し、LINEの友達登録をするころには、彼女の不安はすっかり消えていた。それどころか、こんなに簡単にお金を稼げる方法があったんだ、と感激したという。

少女たちの欲求と「恩義」につけ込むシステム

こうして由里さんは、本格的にJKビジネスで働くことを決めた。女性スタッフはアルバイトの少女たちの恋愛相談に乗ったり、宿題を手伝ってくれたりと、「優しいお姉さん」のようだった。むろん「優しいお兄さん」の場合もあり、「おまえってほんとかわいいな」「今まで見てきた女の子の中で最高だ」、そんな甘言で彼女たちの気持ちをつかむ。

お金が稼げる、加えて居場所やサポートもあることで、少女たちは「恩」を感じる。親切にしてくれるのだからがんばらなくては、支えてくれるスタッフを裏切れない、そんな心境に陥ってしまう。いわば心理的にコントロールされると、過剰なサービスや性的な「裏オプ」を勧められても断りにくくなる。所属する少女たちの競争心をあおる業者もある。SNSで各自の売上ランキングを一斉送信し、上位の子には特別ボーナスを支給したり、食事会に招待したりする。食事会を写真に撮ってまた送信、いかにも楽しげな様子を見せつけ、女の子同士が張り合うように仕向けるのだ。

警視庁の報告書(2016年5月「いわゆるJKビジネスにおける犯罪防止対策の在り方に関する報告」)では、客による強制わいせつやストーカー行為、店を辞めたいのに辞めさせてくれない雇用関係のトラブルなどの事例が挙がっている。その一方で、JKビジネスで働く女子高校生の中には、被害に遭ったことを言い出せなかったり、被害の認識自体が欠けている場合もあるため、実態の把握が難しいとされている。

JKビジネスに踏み込む女子高校生たちの浅薄さはあるにせよ、単に個人的な問題として切り捨てられるものだろうか。「誰でも簡単にできる」という裏側には、巧妙なビジネス戦略と綿密に計算されたシステムがある。専用サイトやSNSを利用して「入り口」のハードルを低くし、「高時給」や「アイドルデビュー」をうたって女の子の欲求をくすぐる。女性スタッフのサポートで安心させ、「自ら進んで働く」ように誘導していく。そうして利益を得ているのは、あるいは性的欲求を満たしているのは誰なのか、大人の問題として考える視点も不可欠だ。

さらに言えば、社会問題化している子どもの貧困や虐待、家族関係の崩壊などで行き場をなくした少女にとって、JKビジネスが「お金や食事を提供してくれる場所」となっている面もある。「高時給」で学費を払ったり、空腹を満たすために客と食事に行ったり、親の暴力を恐れて事務所に寝泊まりするようなケースも存在する。先の警視庁の報告書で「被害に遭ったことを言い出せない」「被害の認識自体が欠けている」という指摘があるが、これも複雑な家庭環境に起因する可能性が否定できない。頼れる家族がいなかったり、基本的な学力や一般常識が不足しがちな子どもは、そもそも被害を訴えられるような人も知識も持っていないのだ。

JKビジネスの闇は深い。それは女子高校生と性的ビジネスという関係性にとどまらず、貧困や家庭崩壊など現代の子どもを取り巻く生活環境にも関わっているからだ。

(2017年2月8日 記)

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  • [2017.02.14]

ジャーナリスト。家族・教育問題、児童虐待、青少年のインターネット利用などをテーマに取材。豊富な取材実績から、現代家族が抱える問題を浮き彫りにしている。主な著書は『子どもとスマホ:おとなの知らない子どもの現実』(花伝社、2016年)、『ルポ 居所不明児童: 消えた子どもたち』(ちくま新書、2015年) 、『ルポ 子どもの無縁社会』(中公新書ラクレ、2011年)等。

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