韓国次期政権と国際関係:朴槿恵外交の「負の遺産」に直面

木村 幹【Profile】

[2017.04.13] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | Русский |

朴槿恵(パク・クネ)前大統領の罷免や逮捕で揺れる韓国。5月9日には大統領選挙が行われ、新たな政権が誕生する。次期政権は前政権で失墜した国際的信用を取り戻し、周辺諸国と意思疎通を図ることが早急に求められる。

大統領選、進歩派の勝利ほぼ確実

2017年3月31日未明、前日午前から深夜にまで及ぶ尋問を終えた韓国のソウル中央地方裁判所は、収賄などの容疑で朴槿恵前大統領への逮捕状を発行した。朴槿恵はこれにより即日収監され、1948年の大韓民国成立以来、大統領経験者として3人目の逮捕となった。

前大統領を巡る捜査の進展は、並行して行われている次期大統領選挙にも深い影を落としている。3月10日に弾劾が成立して罷免された後も前大統領のスキャンダルが繰り返し報じられる中で、朴政権を支えてきた保守勢力は党勢回復のきっかけさえつかめないでいる。朴政権の与党であったセヌリ党の流れを引く自由韓国党内では、朴支持派と非支持派が対立し、スキャンダルにどう向き合うかを依然決めかねている。こうした中で、一時は回復の勢いを見せた同党支持率は再び低迷し、10%台前半に留まっている。

同党にとって悩ましいのは、国民の大多数が弾劾に賛成し、またスキャンダル追及に厳しい姿勢を見せている一方で、一部には熱烈な朴支持勢力が存在する事である。すなわち自由韓国党は、朴批判に転じれば同党の主たる支持基盤である朴支持勢力の支持を失い、逆に朴支持を続ければ大多数の国民の支持は得られない、という深刻なジレンマに直面している。旧与党から前大統領との決別を訴えて党を離れた勢力が立ち上げた「正しい政党」も、朴支持勢力から「裏切り者」というレッテルを貼られ、5%以下の超低支持率に沈んでおり、韓国の保守勢力は「朴槿恵の頸木(くびき)」に苦しめられる形になっている。

重要なことは、朴前大統領の弾劾とその後の刑事処罰へと向かう状況が、単に政権を崩壊させたのみならず、韓国の保守勢力がこれまで依拠してきた基盤を大きく破壊したことである。

結果として、1998年の金大中(キム・デジュン)政権成立以降、保守・進歩の二大勢力間の角逐に彩られてきた韓国の政治構造は、大きな変化に直面しつつある。5月9日に予定されている大統領選に向けた世論調査で首位を独走してきたのは、2012年の大統領選に当時の統合民主党から出馬した、「共に民主党」所属の文在寅(ムン・ジェイン)。彼は03年から08年まで、進歩派・盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領を秘書室長などとして支えた。盧政権における主流派中の主流派である。そして世論調査で、この文在寅を猛追するのは「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)だ。2人は4月3日と4日にそれぞれの党内で大統領候補予備選に勝利し、公認候補となった。いずれも進歩色の強い人物であり、よほど大規模なスキャンダルの発覚などがない限り、次期大統領が進歩派の候補者から選ばれることはほぼ確実な状況である。

朴政権で周辺国との関係悪化進む

それでは、進歩派が政権を握るとみられる韓国の次期政権はどのような外交政策を展開するのだろうか。ここで確認しなければならないのは、保守勢力と同様に新政権もまた、朴政権の残した「負の遺産」に直面せざるを得ないことである。

実際、現在の韓国外交の状況は極めて深刻なものである。米国でトランプ政権が成立したこともあり、米韓両国の関係は決して円滑でない。3月中旬に日本、韓国、中国を歴訪したティラーソン国務長官は米メディアのインタビューの中で、日本を「最も重要な同盟国」、韓国を「重要なパートナー」と述べて、同じ北東アジアの同盟国である両国の重要性に明確な差をつけた。米中対立の焦点が朝鮮半島から南シナ海に移る中で、米国にとって韓国の戦略的重要性は低下している。トランプ大統領が重視する貿易問題の行方も相まって、米韓関係の今後は予断を許さない。

より深刻なのは中国との関係である。3月7日に始まった在韓米軍基地への地上配備型ミサイル迎撃システム「THAAD」配備に反発する中国政府は、中国人団体観光客の韓国渡航を事実上禁止し、THAAD配備の用地を提供したロッテ財閥系の中国国内のスーパーを閉店させるなど、露骨な経済圧力をかけている。

日本との関係もまた、2015年末の慰安婦合意後も円滑とは程遠い。日本政府はソウル・釜山双方の日本在外公館前に設置された慰安婦を象徴する少女像の撤去を求め、今年1月9日から4月4日までの約3カ月にわたって在韓大使を日本に帰国させた。

一方、安全保障上最大の脅威である北朝鮮はミサイル実験を繰り返し、各国は北朝鮮への制裁を強めている。

このような状況の下、韓国の新政権が取り得る外交的選択幅は広くない。不安定なトランプ政権の対韓国政策を肯定的に変えるための手段はほとんどなく、中国が反発を強めるTHAAD問題で、いったん配備されたミサイルシステムを米国に撤去させるのもほぼ不可能だ。日本との間の懸案である少女像撤去問題では、強硬な姿勢を見せる日本政府と撤去に反対する世論との間で、韓国政府はどちらを選んでも大きなリスクを負うことになる。北朝鮮との関係改善は韓国の進歩勢力がこれまで最も重視してきたことであるが、国連から厳しい制裁が科されている北朝鮮への融和政策に韓国が単独で乗り出せば、国際社会の非難を浴びることは目に見えている。

独自の外交政策が招いた八方ふさがり

次期政権にとって不幸なのは、奔放とさえいえた朴政権の活発な外交政策が、結果として韓国の選択肢を制限させてしまったことである。

2013年に朴政権が出発した当時、北東アジアでは米中両国の対立が今日ほど深刻ではなかった。だからこそ、この段階の韓国政府には一定の自由度が存在した。しかし14年ごろになると南シナ海を巡る問題を契機に米中対立は激化し、米国は中国重視政策を進める韓国への不満を大きくした。にもかかわらず、前大統領はその後も中国を重視し続け、米国の怒りを買った。結局、政権末期には米国、次いで米国が重視する日本との関係において、大きな外交的譲歩へと追い込まれた。その前者の表れが中国との関係を理由にそれまで韓国が婉曲(えんきょく)に拒否を続けてきたTHAAD配備の容認であり、後者が15年末の日韓慰安婦合意における韓国側の法的賠償放棄に他ならなかった。

国際情勢の変化にもかかわらず、政策を変えなかったために追い込まれていったのは、北朝鮮との関係においても同様だった。日米両国が制裁を強める中、発足当初の朴政権は開城工業団地を通じた経済交流を活発化させ、2015年の南北交易は歴代最高額を記録した。しかし、北朝鮮はこれをあざ笑うかのように核兵器とミサイルの実験を継続。やがて周辺国からの圧力もあり、韓国政府は開城工業団地閉鎖へと追い込まれた。結果として北朝鮮との関係においても、独自外交最大のカードを失うことになった。

一言でまとめれば、朴政権の外交とは、経済成長などによって自信をつけた韓国が日米中ロといった大国の間で独自外交を展開し、逆にその国力の大きさゆえの限界に直面する過程だった。周辺国は独自で派手な動きを見せる韓国に警戒を強め、この動きを阻止するために強いカードを切ることになった。そして周辺の有力国が同時に強いカードを切った時、米中両国の狭間に置かれた韓国は新たな外交的選択を取れなくなったわけである。日本や北朝鮮が韓国に対して強い姿勢を見せているのもこのことを熟知しているからであり、国際環境は韓国にとって八方ふさがりの状況になっている。

次期政権は国内外と「意思疎通」を

韓国の新政権はここからどのようにすればいいのだろうか。当然のことながら、行わなければならないのは、朴政権期に失墜した外交的信用をもう一度取り戻すことだ。

それにまず必要なのは、外交チャンネルを大きく開くことであろう。日本や北朝鮮に対する政策に典型的に見られたように、朴政権は時に首脳会談などのチャンネルを閉じることを相手国に対する「圧力」として利用しようと試みた。しかし、それによって事態は動かず、逆にその「独善的」な外交姿勢を多くの国から非難されることになった。

突出した経済的・軍事的能力を持たない韓国にとって、自らを巡る国際的な状況を単独の影響力で動かすのは難しい。従って状況を改善したければ、周辺国との協力は必須である。そのためには早期に各国首脳と会談を行い、新大統領と新政権が信頼に足る外交パートナーであることを積極的にアピールする必要がある。そうすれば周辺国、とりわけ進歩派が率いる新政権を警戒する日米両国の姿勢は大きく変わるだろう。

第2に行うべきは、周辺国との協議なしに拙速な外交的メッセージを出すのを慎むことである。これまで韓国では、世論を考慮した外交政策の変更が繰り返されてきた。しかし民主主義の体制下においても、外交政策は他国との信頼関係の下で行われるものであり、国内事情のみを理由にして一方的にその方針を転換することは不適切だ。それにもかかわらず韓国では、世論とその支持を受けた政権交代を理由に、新たな政権が出発すると従来の外交政策が一変することが繰り返されてきた。その結果、周辺国からの外交的信頼が大きく損なわれて今日に至っている。

具体的に行うべきことは何か。最も重要なのは国際情勢を国民に対して率直に説明し、「取ることが可能な選択肢」を明確に提示して議論することである。民主主義体制下にあるからといって、何らの議論もなしに国民の意思をそのまま政策に反映するのは、あるべき政治の姿ではない。むしろ民主主義体制だからこそ、日々の生活に追われ、内外情勢の複雑な事情を知り得ない国民に対し、自国や政府が置かれた状況を分かりやすく説明し、粘り強く対話することが重要なのである。さもなければ次期政権もまた、強硬な世論と困難な国際環境の狭間で早期に立ち往生することになるだろう。

最後に1つ。朴政権下で韓国の人々が大統領を批判するキーワードに選んだのは「(意思)疎通の欠如」だった。つまり、朴槿恵が世論に応えないことを彼らは批判した訳である。しかしながら本来、意思疎通とは国民から政府へ一方的に向けられるべきものではない。政府が国民に状況を丁寧に説明すれば、それによって国民は理解を深めていく。もちろん、同様の「意思疎通」は周辺諸国との間にも必要だ。

新政権はいかにして国内外との意思疎通を深めていくのか。お手並み拝見、となりそうだ。

(文中敬称略)

バナー写真:逮捕状が発行され、検察から拘置所に護送される朴槿恵前大統領=3月31日、ソウル(YONHAP NEWS/アフロ)

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  • [2017.04.13]

神戸大学大学院国際協力研究科教授、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。1966年大阪府生まれ。京都大学大学院法学研究科博士課程中退。博士(法学)。ハーバード大学、高麗大学、世宗研究所、オーストラリア国立大学、ワシントン大学等の客員研究員を歴任。主著に『日韓歴史認識問題とは何か』(ミネルヴァ書房、2014年、読売・吉野作造賞受賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(ミネルヴァ書房、2003年、サントリー学芸賞受賞など)。

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