鉄道路線存廃に揺れる北海道: JR北の経営危機超えた地域課題に

社会

JR北海道の経営悪化に伴い、北海道で在来ローカル線の存廃問題が大きな地域課題に浮上している。同社は運行路線の半数、約1200キロについて「単独での維持は困難」と表明。地元では厳しい現実に向き合いながら、公共交通網の維持に向けた対応策の検討が始まっている。

路線の半数「維持困難」、地域に衝撃

JR北海道は2016年11月、同社単独では「維持困難な線区」を公表した。国鉄の分割・民営化から4月で30年を迎えたが、大都市圏を抱えて順調な経営を続けるJR本州3社(東日本、東海、西日本)や、非鉄道事業で成長し16年に株式上場したJR九州とは対照的に、北海道と四国の2社は厳しい経営を強いられてきた。

特にJR北海道は、2011年5月の石勝線での脱線火災事故以降、トラブルが続発して安全への信頼が揺らいだ。同社の経営危機も表面化した。これに対し、第三者機関のJR北海道再生推進会議が15年6月に提言書をまとめ、同社に安全最優先の会社再生と、そのための経営における聖域なき選択と集中を求めた。

北海道庁も15年11月に地域公共交通検討会議を起ち上げ、道内の公共交通ネットワークの在り方について議論を始めた。そのような中で公表された「維持困難な線区」は、現在の鉄路の約半分の距離に相当するものとなり、地域に大きな衝撃を与えた。

人口減少とモータリゼーションの進展により、特に地方部において、鉄道利用者は減少の一途をたどっている。それに加え、鉄道事業の赤字を見越して国が設立した経営安定基金の運用益が、低金利のために大幅に減少している。このように、北海道の鉄路の問題はもはやJR北海道だけで解決できるものではなくなってしまった。

JR旅客各社の2015年度決算比較(億円)

JR北海道 JR東日本 JR東海 JR西日本 JR四国 JR九州
営業損益(鉄道) -482 3,722 5,555 1,242 -109 -115
営業損益(その他) 35 377 21 129 4 169
全事業営業損益 -447 4,099 5,576 1,372 -105 54
営業外損益 20 -505 -671 -204 3 17
経営安定基金など 404 107 111
経常利益 -22 3,594 4,905 1,167 6 182

(JR各社の決算資料より作成)
・鉄道事業での赤字はJR北海道が突出。事実上国の補てんを充当しても経常赤字

JR北海道に対する国からの支援措置(設備投資など関連)

年度 用途 種別 金額
1998~99 設備投資 無利子貸付 292億円
2011 設備投資(老朽化対策、経営基盤強化) 助成金 300億円
2011 設備投資(老朽化対策、経営基盤強化) 無利子貸付 300億円
2016 設備投資(安全対策) 助成金 300億円
2016 設備投資(安全対策) 無利子貸付 300億円
2016 修繕 無利子貸付 600億円

(出所:北海道・鉄道ネットワーキングチーム報告書)
・今後、多額の無利子貸付金返済が発生

将来を見据えた鉄道網の在り方探る

そこで、「全道的な観点から将来を見据えた鉄道のあり方」を検討するために道が立ち上げたのが、筆者が座長を務めることになった鉄道ネットワークワーキングチームだ。JR北海道幹部や自治体の首長、学者などのメンバー8人が4回にわたる会議を持ち、議論の結果を17年2月にとりまとめて高橋はるみ北海道知事に報告した。

同チームでは鉄道網のあり方について以下の6つに類型し、それぞれについて方向性を示した。

(1) 札幌圏と中核都市などをつなぐ路線

高規格幹線道路のミッシングリンクの存在や道内航空路線の開設状況も踏まえ、大量・高速輸送を担う公共交通機関として、地域が可能な限り協力・支援し、引き続き維持すべき。

(2) 広域観光ルートを形成する路線

観光立国北海道の推進に大きな役割を果たすことが期待される一方、収支状況の厳しい線区もあり、観光客だけを頼っての鉄道の維持は困難。地域で持続的な運行のあり方を検討する。

(3) 国境周辺地域や北方領土隣接地域の路線

ロシア国境に近接する宗谷地域では、今後のロシア極東地域との交流拡大の可能性を踏まえ、鉄路の維持が必要。北方領土隣接地域は、北方領土での共同経済活動などが期待され、鉄道の役割を十分考慮する必要がある。

(4) 広域物流ルートを形成する路線

わが国の食料供給地域である北海道において、鉄道貨物輸送の果たす役割は重要。一方、物流の効率化・最適化の観点から、トラック輸送や海上輸送も含め総合的な検討が必要。

(5) 地域の生活を支える路線

利用者大幅減により収支が極めて厳しい線区は、他の交通機関との連携、補完、代替なども含め、JR北海道や国、道の参画の下、地域における検討が必要。JR北海道は地域の実情や意見を十分に受け止め、鉄道が地域で果たしているさまざまな役割について十分に踏まえる必要がある。

(6) 札幌市を中心とする都市圏の路線

利便性の向上に一層努めて営業収入の増加を図り、道内全体の鉄道網維持に資する役割を果たすことが必要。

このとりまとめでは、個別の線区の存廃についてはそれぞれの地域で議論すべきものという位置づけから、言及しないこととした。一方、すべての線区を今後も維持することは困難であるという共通認識の下、線区の性格によって維持するべきところ、代替交通手段も含めて検討するべきところなどについては区別した。

その上で、JR北海道の持続可能な経営構造を確立するために、①国による抜本的な支援②JR北海道の提案に対する道の対応③地域ですべき議論――についてまとめた。

経営再生に、国が中心的役割を

JR北海道の経営は、社会環境の大きな変化や経営安定基金の運用益低迷を受けて危機的な状況にある。同社は株式会社ではあるが、特殊法人であるその経営は国の強い関与の下に行われており、再生に向けては国が中心的な役割を果たすことが求められると考えた。

抜本的な支援策としては①貨物列車の割合が高く、線路の維持にJR北海道の負担が大きくなっていることに対する支援、②青函トンネルの維持管理にかかる負担の軽減、③鉄道施設などの老朽更新対策、④増収策への戦略的な支援、⑤国からの支援がなくなり、無利子貸し付けの返済が重なる2019年度以降の資金対策――を中心に求めることとした。

JR北海道は徹底した情報公開、事前協議を

JR北海道に対しては、駅や列車の見直しや運賃値上げについては地域の実情を十分に踏まえるとともに、徹底した情報公開、丁寧な事前協議を行うことなどを求めた。また、鉄道の利用促進策については、同社と沿線自治体をはじめとする地域関係者が一体となった方策を各々の路線の実情に即して展開していくことが必要であるとした。

同社にはまた、バスなどの他の公共交通機関との接続を重視したダイヤ編成や、駅や車内サービスの改善など利便性の向上を求めている。一方、同社が提案した上下分離方式については、厳しい財政状況にある道内自治体に負担を求めるのは現実的に難しいと位置付けた。

そして地域に対しては、交通事業者の取り組みや国の支援だけで鉄道を維持していくことは今後は難しく、地域での検討を早急に開始することが必要とした。具体的な例としては、駅の魅力・利便性の維持向上、地元の協力による車内販売の実施や車内売店の運営、第三セクターなどによる車両の保有・貸し付けなどを挙げた。

2030年の北海道新幹線札幌開業を見据え、今後に向けた関係機関の役割も整理した。ここでは道に対し、①公共交通ネットワークの将来像のデザイン、②地域協議への積極的な関わり、③抜本的な支援に関する国への要請、④必要な鉄道網維持に向けた地域の取り組みに対する協力・支援、⑤広域的な利用促進策の展開――などを求めた。

地元自治体との協議開始:この1年が正念場

道内では、国鉄の分割民営化の際に決めた経営安定基金の運用益によって赤字を埋めるという現状の枠組みは問題解決には通用せず、国がJR北海道や鉄路の維持に対して抜本的な支援をするべきだという意見が根強い。

しかし国は、JR北海道にはこれまでも支援を行っており、まず地域が主体となって取り組むべきという姿勢を崩していない。この理由の一つには、地域の公共交通を必要最低限守っていくには路線バスで十分で、必ずしも鉄道が優先されるわけではないとの考えがある。

一方、政府・与党内にもプロジェクトチームが起ち上がり、JR北海道の問題が議論されている。4月には宗谷線沿線自治体とJR北海道との協議が始まったほか、他の沿線においても地元における鉄道の在り方について議論が進みつつある。地域の公共交通として、そして都市間交通ネットワークとして鉄道をどのように位置付け、維持していくのか、この1年が正念場となる。

バナー写真:冬の留萌本線増毛駅(2014年1月撮影)。JR北海道は16年12月、留萌-増毛間の営業運転を終了し、増毛駅は廃駅となった(NOBU/PIXTA)

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