激変の時代に対応を迫られる日本の有人宇宙開発

寺門 和夫【Profile】

[2017.05.02] 他の言語で読む : Русский |

宇宙空間で、人類がさまざまな開発を進める時代が到来しつつある。有人宇宙活動はこれからどんな展開を見せるのか。宇宙開発の動向に詳しい科学ジャーナリストが、日本の進むべき道を考える。

2極体制から4極体制へ

現在、世界の宇宙開発は激しい変化の時代を迎えている。主に有人宇宙活動について、この問題を考えてみよう。

宇宙開発が東西冷戦下における米ソの競争として始まったことは、周知の通りである。この競争は1991年のソ連崩壊で終結し、米国、日本、ヨーロッパが進めるISS(国際宇宙ステーション)計画にロシアも参加することになった。すなわち、宇宙が米ソという2つの超大国のものであった時代が終わり、日本、ヨーロッパを交えた4極体制で、宇宙というフロンティアを開拓する時代を迎えたのである。

ISSの建設は98年のロシアによる基本機能モジュール「ザーリャ」の打ち上げによって始まり、2011年のスペースシャトル最後のミッションによって完成した。ISSは地上約400キロメートルの宇宙空間に建設された巨大構造物である。米国、ロシア、日本、ヨーロッパが製作したモジュールが結合されており、重量は約420トン。太陽電池板を広げたサイズは約100メートル×70メートルにもなる。ISSでの宇宙飛行士の長期滞在は2000年に開始された。現在に至るまで、ISSが無人になったことはない。

ISSを完成させる過程で、人類は厳しい宇宙環境で長期間生存し、さまざまな仕事をする技術を手に入れた。人類が宇宙に進出するための橋頭堡(きょうとうほ)が、ISSによって築かれたと言える。

有人宇宙開発に民間企業が参入

ISSが完成するまでの時代は、2極から4極という変化はあったものの、国家が宇宙活動の主体であるという仕組みは変わらなかった。しかしISS完成後、有人宇宙開発に民間企業が新たなプレーヤーとして登場し、これが21世紀に変化の時代をもたらしている。

そのきっかけとなったのは、2011年のスペースシャトルの退役であった。03年にスペースシャトル「コロンビア号」が事故で失われると、当時のブッシュ大統領は、ISSの建設完了とともに、スペースシャトルを退役させることを決定した。NASA(米国航空宇宙局)はこの決定に基づき、ISSへの物資と人員の輸送を民間に任せるためのCOTS(商業軌道輸送サービス)というプログラムを開始した。

COTSによって、イーロン・マスクが率いるスペースX社の宇宙船「ドラゴン」と、オービタルATK社の宇宙船「シグナス」が、ISSへの商業物資輸送を実現させた。シエラネバダ社のミニシャトル型宇宙船「ドリームチェイサー」も近い将来、これに加わることになっている。ISSへの商業人員輸送は、ボーイング社の宇宙船「スターライナー」とスペースX社の「ドラゴンV2」によって、18年に開始される予定である。

アマゾン・ドットコムの創設者ジェフ・ベゾフも独自のロケットによる有人宇宙輸送サービスを計画している。ISSが周回している地球低軌道への往復は、もはや民間セクターが担当する領域になりつつある。これに伴い、宇宙空間に新たな構造物をつくろうとするビゲロー社のような、新しいビジネスも立ち上がっている。

こうした時代をもたらした点で、COTSの持つ意義は大きい。官民のパートナーシップがうまく機能した例と言えよう。

中国の目覚ましい躍進

さらに、中国が新たな、しかも強力なプレーヤーとして登場している。中国は1992年に独自の有人宇宙飛行計画である「921計画」をスタートさせた。有人宇宙船「神舟」を開発し、2003年に初の有人宇宙飛行を成功させた。ロシア、米国に次いで、自国のロケットと宇宙船で人間を宇宙に送った3番目の国になったのである。中国はその後、宇宙実験室「天宮1号」や「天宮2号」を打ち上げて、神舟宇宙船とのドッキングを成功させた。16年の神舟11号のクルーは、天宮2号で1カ月の宇宙滞在を行った。17年4月には無人補給船「天舟1号」を打ち上げ、天宮2号にドッキングさせることに成功している。

また18年には独自の宇宙ステーション「天宮」の建設を開始し、22年ごろに完成させるとしている。同時に超巨大ロケット「長征9号」の開発も進めており、30年代前半には、独自の有人月着陸を目指している。

このように、宇宙先進国とよばれた米国、ロシア、日本、ヨーロッパに加え、今や中国や民間企業という多様なプレーヤーが参入して、世界の有人宇宙活動が展開されている。いずれインドや中東産油国も、これに加わることになるであろう。

加速する宇宙空間の商業利用

以上のような状況をもとに、10年ほど先の宇宙空間を予想してみると、現在とは様相が一転していることが分かる。

ISSは2024年までの運用が決まっている。耐用年数からすると、ISSは28年まで使用可能であるが、参加各国が条約を結んで運用している現在の計画は24年で終わるのではないかと、私は考えている。以後は民間が大幅に参加した形で運用されていくはずで、実際NASAはそのような協議を企業と進めている。さらに、新たな宇宙ステーションが民間企業によって建設されているかもしれない。

この頃には、中国の宇宙ステーションも運用されているわけであるから、軌道上には人間が滞在できる施設がいくつも存在する時代になりそうだ。しかも、そこで行われるサービスの多くが民間によって行われているであろう。トランプ政権の宇宙政策はまだ発表されていないが、宇宙空間の商業利用は有人宇宙分野でも加速されていくはずである。

10年後には、人類は再び月面での活動を開始しているであろう。その先にある月面基地建設までの道筋をおおまかに示すと、宇宙空間を自由に行き来できるロケットや宇宙船を開発する一方、ISSをテストベッドとして、生命維持、健康管理、恒久的居住環境など、人間が深宇宙(※1)で長期間生存できる技術を確立して月面に向かうことになるだろう。地球からのエネルギーや物資補給は困難なので、必要なものを月面で調達する技術も必要になる。それに伴い、火星への有人飛行計画も進展していくはずである。

ISSの軌道を超えた領域でのこのような宇宙活動を一国が持続的に行うのは難しく、国際協働によって実施されることになる。現在、ISEF(国際宇宙探査フォーラム)という各国政府の代表が参加する会合で、そのような国際的枠組みづくりに向けての話し合いが行われている。また、世界の15の宇宙機関が参加したISECG(国際宇宙探査協働グループ)では、宇宙開発技術の検討と今後のロードマップの作成が行われている。その結果を受け、今年の秋、ISECGは第3次の宇宙探査ロードマップを発表する予定である。

中国はISEFに参加し、積極的に発言している。また、ISECGには中国宇宙機関CNSAが参加している。しかしながら、同国が進める独自の有人月探査計画が、国際的な枠組みとどう関係していくかは、まだ明らかになっていない。

ビジョンに欠ける日本の宇宙開発

10年先には間違いなく到来するこのような時代を見据えた準備は、今から始めなくてはならない。それがゆえに、今、世界の宇宙開発は騒がしくなり、民間企業の動きも活発になっているのである。一方、日本はどうかというと、軌道上での商業サービス、国際宇宙探査のいずれの分野でも立ち遅れていると言わざるを得ない。

日本の宇宙基本計画は「産業振興」をうたっているが、その内実は衛星打ち上げビジネスに偏重しており、軌道上での商業サービスを行う企業を育成する方策に欠けている。また、国際宇宙探査においては、18年3月にISEFの会合が日本で行われることになっているものの、そのための取り組みはまだ具体化していない。宇宙基本計画を実現するための向う10年ほどの具体的スケジュールを示す「宇宙基本計画工程表」の最新版(平成27年度改訂)を見ると、驚くべきことに、「国際有人宇宙探査」の項の18年以降は空白になっている。

軌道上での有人商業サービスは、今後爆発的に成長する分野である。アメリカの多くの企業は、宇宙空間がインターネット世界に次ぐ有望なフロンティアであると認識しており、市場参入に積極的である。日本としても早急に取り組む必要がある。また国際宇宙探査においては、日本が保有する先端的な技術を提供することによって、人類への貢献を果たすべきである。

日本にとって、有人宇宙開発はアジア地域での外交や安全保障政策上も重要な意味を持っており、今後も積極的に推進していかなくてはならない。そのために今、何よりも求められているのは、軌道上や月面で日本が活躍する未来を誰もが思い描ける明確なビジョンである。

バナー写真=ドッキングに成功し、ISSに到着した宇宙ステーション補給機「こうのとり」6号機(Nasa/Best Image/アフロ)

(※1)^ 地球からの距離が200万キロメートル以上である宇宙。

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  • [2017.05.02]

科学ジャーナリスト。一般財団法人日本宇宙フォーラム主任研究員。1981年に株式会社教育社で科学雑誌『ニュートン』を創刊。以来、長年にわたって科学分野の取材を続けてきた。主な著書に『中国、「宇宙強国」への野望』、『ファイナル・フロンティア―有人宇宙開拓全史』、『[銀河鉄道の夜]フィールド・ノート』など。

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