文在寅政権と日本

小倉 和夫【Profile】

[2017.05.26] 他の言語で読む : 简体字 | 繁體字 |

2017年5月に誕生した韓国の文在寅政権は、今後の日韓関係にどのような影響を与えるのだろうか。元駐韓大使の筆者は、韓国における民主政治の安着こそが、北朝鮮の脅威に対する最大の防御策であり、日韓関係の要だと考える。

韓国での文在寅政権の誕生は、日本にとってどういう意味を持つのか。またこの政権に対して、日本はどのように対応すべきか。第一に、この政権の誕生が韓国の政治の歴史において持つ意味とそれが日本にとって意味するものは何かという点を考慮する必要がある。第二に、文在寅氏という人物、ならびにその政権の性格を考慮した場合、日本は対韓国政策上いかなる点に特に留意すべきかを検討する必要があるだろう。

韓国における民主主義の定着

大統領弾劾の過程、そしてその後の大統領選挙が、基本的には民主的な手続きにのっとって行われたこと、とりわけ、北朝鮮との厳しい対決状況の下で、民主政治が機能したことは、高い投票率とあいまって、韓国における民主政治が定着していることの証左と受け止めなければならない。

また、大統領選挙において韓国の伝統的な地域対立(とりわけ、全羅道と慶尚道の対立)が、それほど目立たなかったこと、また、(保守系の大統領弾劾の後だけに自然の流れとはいえ)革新政権が誕生し、過去30年ほどの韓国政治史の流れに沿って、保革交代が、ほぼ定期的ともいえる周期で行われていることを改めて証明したことは、韓国の民主政治が成熟しつつあることを暗示している。

日本から見て、韓国政治の安定、とりわけ民主政治の定着が望ましいことは明らかである。ここに、今回の選挙およびその結果について、日本としてまず留意すべき点が存在すると言えよう。

世界政治の流れからみた韓国大統領選挙結果の意義

現在、米国、欧州、大洋州、南米、インド、東南アジアなど、世界の多くの国・地域で、反グローバリズム、反国際主義とも言える潮流が見られる。こうした潮流は、既存政党への不信、言諭界や知識層も含めた既存の権威への反発、国家主義ないし自国第一主義の強調といった流れを生んでいる。

このような流れは、具体的な政治行動としては、一方で国家主義的な、右派政党あるいは人物の台頭を招き、一方で共産党の台頭や急進左派的な人物あるいはグループの結成となって現れている。こうした左右2つの極のうち、欧米では、どちらかと言えば、右派勢力の台頭が現実となっているのに対し、南米などでは、左派勢力、反米主義の強化となって現れがちである。

この度の大統領選挙の結果、韓国では、革新的な左派政権が誕生したことは、アジアにおいて、反グローバリズム的な感情を、右翼、左翼どちらの政治グループが今後吸収していくかについて、一つの示唆を与えるものであろう。

日中、日韓で戦略的利益の共有を

文政権は革新政権であり、人権、民主、平等といった価値観を強調する政権であることは間違いない。また、文氏本人も投獄された経験をはじめとして、そうした価値観を身をもって守り通した経歴の持ち主である。従って日本としては、民主、人権、平等といった基本的な価値観の共有を、日本自身の言動によって示すことが対韓関係上、極めて重要である。

また北朝鮮問題の深刻化もあり、革新政権である文政権は、中国との関係を従来以上に重視することは容易に想像される。従って日本としては、朝鮮半島を巡る戦略を考慮する際、対中国政策を踏まえた戦略を考える必要があり、この地域における戦略的利益を中国とも共有できるよう、日中間の戦略的かつ長期的展望に立った対話を強化することが、朝鮮半島政策としても重要である。

そうした対話が積極的な意味を持つためには、何よりも日本自身が、政治的安定と経済的繁栄と防衛力の強化を図ってゆくことが不可欠である。そうしてこそ、初めて日中、日韓間で、戦略的利益を真に共有できることとなろう。

いずれにしても、韓国における民主政治の定着と経済の安定的発展こそが、(防衛力の維持とあいまって)北朝鮮の挑戦に対処する最大の方策あるいは基盤であり、その点を日韓両国が共に深く認識しておくことが、日韓関係安定の大前提である。

この点とも関連して、日韓両国間において、いわゆる市民団体、女性団体、障害者団体など、社会的課題に取り組むNPOなどの間の交流が、今後一層促進されねばならないだろう。

バナー写真=2017年5月10日、青瓦台へ向かう文在寅新大統領(YONHAP NEWS/アフロ)

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  • [2017.05.26]

青山学院大学特別招聘教授。日本財団パラリンピックサポートセンター理事長。1938年生まれ。東京大学法学部、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。1962年外務省入省。文化交流部長、経済局長、外務審議官、駐ベトナム大使、駐韓国大使、駐フランス大使などを歴任。2003年10月から 2011年9月まで独立行政法人国際交流基金理事長を務める。著書に『グローバリズムへの叛逆』(中央公論新社/2004年)『日本人の朝鮮観』(日本経済新聞社/2016年)など。

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