日本のPKO 四半世紀の活動と変遷

篠田 英朗【Profile】

[2017.08.15]

2017年6月15日、国際平和維持活動(PKO)への自衛隊参加に道を開くPKO協力法(1992年)の成立から25年を迎えた。同法に基づき自衛隊が海外に派遣されてから四半世紀。憲法解釈と国際紛争の現実の間で揺り動かされながら行われた日本の国際貢献を振り返る。

今年、国際平和協力法(PKO協力法)25周年を迎えた。この四半世紀、日本はPKOへの参加実績を着実に積み上げてきた。その一方で、PKO法が当初から抱えていた課題は、ほとんど解決していないと言ってよい。なぜそうなのか。この小論では、歴史的な事情を踏まえて、整理を試みる。

1992年のPKO協力法の成立以降、日本政府が関与した国連PKOは、以下の通りである。

日本の国連PKO活動

1992年 アンゴラ国際平和協力業務
1992年~1993年 カンボジア国際平和協力業務
1993年~1995年 モザンビーク国際平和協力業務
1994年 エルサルバドル国際平和協力業務
1996年~2013年2月 ゴラン高原国際平和協力業務
1999年 東ティモール国際平和協力業務
2002年~2004年 東ティモール国際平和協力業務
2007年 東ティモール国際平和協力業務
2007年~2011年2月 ネパール国際平和協力業務
2008年~2011年9月 スーダン国際平和協力業務
2010年~2013年2月 ハイチ国際平和協力業務
2010年~2012年9月 東ティモール国際平和協力業務
2011年~2017年5月 南スーダン国際平和協力業務

これらのうち、自衛隊の継続派遣を伴う主要なものは、カンボジア、モザンビーク、ゴラン高原、東ティモール、ハイチ、南スーダンである。なお警察要員は、1993年にカンボジアで高田晴行さんが殉職されてから、わずかな例外を除いて派遣されていない。

日本は実績を着実に積み重ねてきたが、25年もの長期にわたる活動としては、いくぶん物足りないと感じる向きもあるだろう。なぜそうなのか。

第一に、やはり憲法解釈をめぐる問題及びそれに付随する国民世論の問題があることは、指摘しておかざるを得ない。PKOへの貢献を高めたいという政治的な意志は常に存在しているのだが、PKO参加の推進は政治的利益にならないので、どうしても政治家が及び腰にならざるを得ない実情が続いている。

第二に、PKO協力法それ自体と、冷戦終焉(しゅうえん)後のPKOの間のギャップが覆い難いものになっていることを論じざるを得ない。端的に言って、PKO協力法の内容は、時代遅れなものである。これでは円滑なPKOへの要員派遣が進むはずはない。

第三に、日本の外交政策における国連PKOの関与の度合いを高めていくことを目指してきたにもかかわらず、日米同盟の維持に直接的に関わらないために、その位置付けは微妙である。2003年から09年の間、陸上自衛隊は、イラクのサマワに施設部隊を駐留させていた。その期間、国連PKOへの部隊派遣も控えていたことが、上記の実績からも明らかである。日本の陸上自衛隊は、非常に丁寧に一つのミッションへの部隊派遣を行うため、二つのミッションへの部隊の同時派遣は現実的ではないとみなされている。併せて国連PKOなどで積んだ経験を、他の作戦任務で発揮させるような意識が希薄だ。

自衛隊派遣と憲法問題

1992年に成立したPKO協力法は、前年の湾岸戦争の経験に基づいたものであった。日本は、米国を中心とする多国籍軍に90億ドルという巨額の資金を提供したが、それに見合う貢献の国際的な認知は低かった。人的貢献がなかったために、むしろ小切手外交と揶揄(やゆ)されたからである。そこで当時の「55年体制」最後の首相である自民党の宮澤喜一政権の時代に、PKO協力法が成立した。

PKO協力法には、成立前から反対の声が大きかった。自衛隊の「海外派兵」は違憲だといった議論に象徴されるように、伝統的な日本の平和主義からの転換とみなされたのであった。

私自身は、当時ボランティアとして従事していたNGOに推薦してもらい、選挙要員として、カンボジアPKO(UNTAC)に派遣してもらった。93年、私が24歳のときであった。その際、マスコミの取材も多数受け、「自衛隊の派遣をどう思うか」「政府にだまされているとは思わないのか」といった質問も、よく受けた。

勤務した田舎の投票所では、自衛隊員の方に「巡回」ではない「情報収集」に来ていただいた。ジープに水などを搭載して、1日2回ほど投票所に来て、おしゃべりをしていってくれるのである。ただこれだけでも「違憲ではないか」という批判を浴びて、日本の国会では問題になったそうである。

自衛隊(の海外派遣)へのアレルギーは四半世紀たった今日でも全く同じように続いている。2015年の平和安全法制の成立により、自衛隊はいわゆる「駆け付け警護」ができるようになったが、実施事例を作る前に、撤収してしまった。自衛隊の南スーダン派遣は、さまざまな政治議論やスキャンダルが関わることになり、むしろPKOに対する国民の警戒心を高めてしまったようである。従って同じような自衛隊のPKO派遣は、今後しばらくは再現される見込みがない状態に陥ってしまった。

変化する国連PKO

こうした停滞状態の背景にあるのは、憲法9条をめぐる解釈の錯綜だけではない。PKO協力法が、1992年に成立した法律であるという時代背景に起因する部分もある。つまりPKO協力法は、もはや再現されることがない冷戦時代のPKOの事例を基準として、作り出された。しかし冷戦型のPKOは、冷戦終焉後の世界では、時代遅れなものでしかない。いわばPKO協力法は、成立と同時に時代遅れになった法律なのであった。

例えば、冷戦時代に、PKOは「国連憲章6章半」の活動と言われた。非強制的手段(憲章6章)と強制的手段(憲章7章)の中間的な存在がPKOだという理解から、そのように言われていたのである。しかし今日のPKOでは、そのような表現は実態に見合ったものとは言えない。「文民の保護(Protection of Civilians)」などの重要任務の遂行には憲章7章の権威を持った強制的手段が付与され、重要性の低い任務には付与されない。PKOが全体として6章半だというよりも、任務に応じて異なる権威付けがなされているところが、現代的なPKOの特徴なのである。

かつてPKO三原則とは、「当事者の合意」「中立性」「自衛以外の武力行使の禁止」であると説明された。今日のPKOでは、大きな方向性は変わっていないとしても、これらの内容は明白に変質している。「紛争当事者」が合意を反故にして犯罪的行為を行っている場合、その紛争当事者の合意を重視する必要はないという理解が定まっている。「中立性(neutrality)」は、国際人道法違反などの深刻な犯罪行為が行われている場面を想定するならば、絶対的な原則ではないとされている。国連では代わりに「公平性(impartiality)」を、PKOの原則の一つとして挙げる。武力行使禁止の例外には「任務防衛(Protection of Mandates)」も加わることになった。

米国の不在

日本外交の機軸は日米同盟の維持にある。国連のような多元的チャンネルを通じた活動は、米国との関係の向上につながる場合に、最も強力な推進力を得る。例えば米国が関心を持ちながら、直接的に介入するわけではない南スーダンのような国に自衛隊を派遣する事例が、典型的である。

そもそも1991年湾岸戦争で巨額な資金を提供したにもかかわらず、アメリカを中心とする多国籍軍構成国からの認知が低かったために、PKO協力法が導入された。その歴史的展開に矛盾があるとは言えないが、問題分析の対象と解決策の提示との間に、微妙だが重大なズレがある。

本来は日米同盟の問題と、国連PKOへの参加の問題は、二つの別個の問題である。両者が重なり合えば、当然、大きな推進力が発生する。しかし両者がかい離していれば、ズレを踏まえて、国連PKOに参加していくことになる。結果として、日本の国連PKOへの関与は、継続的だが、必ずしも安定的に維持されるものではなくなる。

米国が国連PKOへの関心を低下させていたブッシュ政権の時代、日本はイラクに自衛隊を派遣した。その一方で、国連PKOへの部隊派遣を見合わせていた。オバマ政権の時代には、南スーダンに日本としては最長の期間にわたる部隊派遣を行った。国連PKO活動の規模縮小を図るトランプ政権の時代になって南スーダンからの部隊を撤収したことから鑑みれば、今後しばらくの間、日本が日米同盟重視の立場から、国連PKOへの派遣を充実させようというモチベーションは低下するだろう。少なくとも数年の間は、日本の国連PKOへの関与は、このような前提を踏まえた上で、将来の活動への布石となるような形で従事の在り方を摸索していくであろう。

バナー写真=2012年2月19日、南スーダン・ジュバで南スーダンPKOに派遣された陸上自衛隊の宿営地で、届いた資材の運搬作業を行う隊員たち(写真:読売新聞/アフロ)

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  • [2017.08.15]

東京外国語大学総合国際学研究院教授。1968年生まれ。専門は国際関係論。1998年ロンドン大学(LSE)で国際関係学Ph.D.取得。広島大学平和科学研究センター准教授などを経て、2013年4月より現職。著書に『平和構築と法の支配』(創文社、2003年/大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、2012年/サントリー学芸賞受賞)、『集団的自衛権の思想史』(風行社、2016年/読売・吉野作造賞)など。

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