スマホ特化で成功したメルカリの可能性と課題

経済・ビジネス

企業価値の評価額が10億ドルを上回る非上場の新興企業を「ユニコーン」と呼ぶ。個人間の物品売買を仲介するメルカリ(東京都港区)は、アプリのダウンロート数が7500万に達し,日本初のユニコーンとなった。「自分で価格を決め、自分がものを売った」というフリーマーケット感覚を楽しめるため、“メルカリ中毒”になる人も多い。メルカリは日本の流通を大きく変えていくのだろうか?

日本の流通業界で、急激に「メルカリ」が存在感を増している。スマートフォンを軸にした、個人対個人(C2C)の物販を仲介する「フリーマーケット」アプリが、2013年のサービス開始からたった4年で、日本国内で5000万件、海外で2500万件のダウンロードを突破(2017年6月現在)し、月間の売上も100億円を超え、このジャンルでは急速に勢いを増している。なぜメルカリは急速に成長し、日本の流通業全体に影響を与えるまでに成長したのか。そして、その成長は本当に喜ぶべきことなのだろうか。

手軽で素早いビジネスで成功

フリーマーケットやネットオークションと呼ばれるサービスは、インターネットショッピングが生まれると同時に誕生した。インターネットが普及する前、個人が不要なものを売るには、中古店や質店などを利用した。ある意味で安心ではあるものの、売れるものに限界があるし、仲介する人々がいる分、実際に手元に残る金額はどうしても目減りする。

そこに、売りたいものがある人と買いたい人をダイレクトに結びつけるサービスが出てきたことは必然と言える。1995年にアメリカで「eBay」が、99年に日本国内で「ヤフオク!(当時のサービス名はYahoo!オークション)」がサービスを開始し、数年で一気に普及した。個人から個人への販売に加え、販売店・企業などが無店舗経営の一環として進出し、いまや個人向け物流の一翼を担う存在となっている。

では、それらとメルカリはどこが違うのか? ビジネスモデルの基本は過去のオークションサイトと変わらない「手数料モデル」。売買が成立すると、その販売金額の10%がメルカリに支払われる。大きく違うのは「売買がスマホだけで完結し、利用のハードルが非常に低い」ことにある。

メルカリはサービス当初から「スマホで楽に使える」ことを強くアピールしている。従来のオークション系サービスは、売りたいものの出品が意外と面倒だった。特に大きなハードルは「PCでの利用が前提」であったことだ。

販売ページは「店」であり、サンプル写真は「ショーケース」に当たるので、きれいな写真を撮影し、販売ページもしっかり作り込んだ方がいい。しかし、それを全ての人が行うのは無理がある。オークションサイトは疑似的なB2Cビジネスの場となり、個人の出品のハードルは高かった。

特に日本の場合、「PC」はマスにとってハードルである。女性や若年層を中心に、携帯電話・スマートフォンしかIT機器を持たない層が相当数いるからだ。

そうした「スマホしかない」人々に、ハードルが低いフリーマーケットを提供したことが、メルカリ成功のポイントである。スマホで製品の写真を撮り、アプリ上で詳細をちょっと書き込むだけで、すぐに販売のプロセスに入れる。作業時間はほんの数分だ。買う側も、ボタンを1度タップするだけ。決済はメルカリが代行するし、発送代行も依頼できる。

また、出品に身分証明の義務はない。未成年は保護者の許可を得て利用することになっているものの、年齢制限もない。本当に、「誰でも自分のものを売れる」ことが、メルカリのビジネスモデルの根幹にある。

誰もが素早く出品できれば、それだけ出品点数は増える。出品点数が増えれば「欲しい」と思うものがある可能性が高まり、利用者が集まる。利用者が集まれば現金化の機会が増え、売れやすくなる。2017年現在、メルカリでは1日に数十万件の売買が行われている。この「高回転」がメルカリを支えている。

巨大な「ファッションクローク」に

簡単であること、そして非常に多くの「普通の人」が使っていることから、全般的に取扱商品の価格が安いことも、メルカリの特徴だ。プロは高く売るために努力を惜しまないが、アマチュアはそうではない。要らないものが処分できて、それが幾ばくかのお金になればいいのだ。ヤフオク!では数百円のものを売る例は少ないが、メルカリには多数ある。気軽に出品できるので、要らないものをどんどん換金する。オークションやフリーマーケットで「店としての完成度」を目指さず、誰もが気楽に利用できるようにした逆転の発想が、メルカリ躍進の秘密である。

一方このことは、消費行動に新しい波を及ぼす。特にファッションに与える影響は大きく、急激だ。メルカリにはたくさんの廉価なファッションアイテムが出品されている。一般の店舗で好みの服を探すのも、メルカリのアプリ内で探すのも、もはや大きな差はない。しかも中古なので安い。

逆に、メルカリを使うことで、要らない服をたやすく現金化できるようになったので、売買が加速される。しかし、あえてメルカリ内にプールされる「自分のものを売ったお金」でメルカリから買えば、手元の現金に手を付けずに、さまざまなファッションアイテムを手に入れることができる。メルカリは巨大な「共有ファッションクローク」になったのだ。

これは、安さ・手軽さを「売り」にしてきた他のファッション流通にとっては大きな脅威である。全ての新品が売れなくなるとまでは想定できないものの、ファッションに使う費用のある部分が、メルカリという巨大な中古流通に飲み込まれてしまったことを示している。だからこそ、ファッション通販大手の「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイは、2015年2月にメルカリを追い掛け、「ZOZOフリマ」を開始した。しかし結局売り上げを伸ばせず、17年6月に撤退している。

スマホだけで完結し、すばやく取引が行われる「高速回転」性と、「メルカリ経済圏」の中で売買が回り続けることが、流通モデルとしてのメルカリの強さであり、他にはない「メルカリらしさ」だ。

モラルハザードとどう向き合う

C2C市場による流通改革をもたらしたメルカリだが、問題点も多く指摘されている。最も大きいのが「モラルハザード」の問題だ。

手軽に出品できるということは、そこに不正や質の悪い取引が入り込みやすい、ということである。ブランド品はメルカリでも人気の商品だが、スマートフォンで撮影した写真だけでは、個人がその真贋(しんがん)を判断するのは難しい。偽物を使った不正な取引はかなりの頻度で存在する。

売る側と買う側でのトラブルもある。売る側がきちんと発送しなかったり、梱包(こんぽう)がぞんざいだったり…という例は少なくない。他のオークションサイトにも見られるもので、C2C取引の宿命と言えるものだが、取引のハードルが低いメルカリでは、特に質の悪い取引が目立つような印象を受ける。

さらに問題なのは、本来は売るべきでないものを販売する行為だ。2017年初めごろまでは、「現金」が出品されていた。電子マネーをチャージ済みのICカードや領収書なども同じように販売されていたのだが、これは、いわゆるマネーロンダリングや、クレジットカードのキャッシング枠の現金化などに使われた。出品が容易であることを逆手にとり、アイデア次第で「換金可能なものを低所得層に売りつける」ビジネスが行われていたわけである。また夏には、夏休みの宿題用に「読書感想文」まで販売された。

もちろんメルカリ側も、こうしたことを問題視している。マネーロンダリングなどにつながるような不適切な出品についても、指摘を受け次第対処している。特にブランド品については、それに特化した「メルカリ メゾンズ」という新しいアプリを開発、高度な画像認識技術を使った自動的な査定と真贋判定のシステム、人海戦術でのパトロール、「偽ブランド品補償」など、きめ細やかな対策をとっている。

とはいうものの、「気軽に低価格の売買が高速回転する」というモデルは、低所得層に向けたビジネスになりやすい側面をもっている。その領域で取引が行われるだけでは、ビジネスはどんどん搾取的になり、伸びしろが小さくなる。単価を拡大し、ビジネスの幅をいかに広げていけるかが、メルカリの抱える課題であり、だからこそ、ブランド品売買に力を入れるのだろう。

荒れた市場の健全化が、メルカリに求められる喫緊の課題である。

バナー写真=ネットオークションを楽しむ女性(PIXTA)

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