ビジネスから見た日本とラテンアメリカ

工藤 章【Profile】

[2013.04.08] 他の言語で読む : ESPAÑOL |

地球の正反対に位置する日本とラテンアメリカ。地理的に困難な条件のもとにありながら、互いの関心に相応した戦略的関係を独自に育んできた。ビジネスの最前線にいた著者は、グローバル経済の安定に寄与するウィン・ウィンの関係をそこに見る。

地理的には地球の正反対に位置する日本とラテンアメリカではあるが、その関係の歴史は長く、ビジネスの分野に限っても、互いの関心分野に相応した独自の発展を遂げてきている。ここでは、日本とラテンアメリカの過去、現在、そして将来の関係についてリポートし、ビジネスの観点から特徴的な様相を指摘するとともに、今後の戦略的な経済関係の構築の行方を展望したい。

日本・ラテンアメリカ関係の歴史:400年来の付き合い

日本とラテンアメリカの関係は意外に古く、始まりは400年前にさかのぼる。1609年、フィリピンからメキシコに向かっていた交易船が難破し、千葉県に漂着。乗っていたメキシコ政府高官が、江戸幕府の徳川家康に謁見(えっけん)し、日本とラテンアメリカの交流が始まった。1613年には、海外との交易を目指した伊達政宗が、支倉常長ら140人の日本人を乗せたミッションをメキシコ、キューバ、スペイン、ローマに派遣した。

しかし、ヨーロッパ人による新大陸発見後、ラテンアメリカ地域も大きな変貌を遂げる中で、日本は鎖国政策を取り、1639年にはポルトガル船の入港を禁止する。以降、1854年に至るまで、外国との交流がとだえてしまった。

1888年になると、メキシコとの修好通商条約の締結を皮切りに、他のラテンアメリカ諸国とも同様の条約が結ばれ、経済的な交流が活発化するようになる。日本はアジア諸国の中で初めて、メキシコとの間に修好通商条約を締結した国となった。

その後の交流を見ると、1893年に日本からグアテマラに132人が移住し、以後、メキシコ、キューバ、ペルー、アルゼンチン、ブラジル、コロンビアへの集団移住が行われた。

日清戦争(1894年-1895年)と日露戦争(1904年-1905年)では、アルゼンチンとチリから譲り受けた軍艦が日本の勝利に大きな役割を演じた。また1904年から1911年にかけて、土木技術者・青山士(たかし)がパナマ運河の建設に貢献した。第2次世界大戦後は、1956年の国連加盟にあたって、ラテンアメリカ諸国の多大な支援を得て、日本が国際社会に復帰を果たすことができた。

日本とラテンアメリカ諸国との親密な関係は、こうした関係をベースに、現在も発展と深化を続けている。

日本・ラテンアメリカ経済関係:第2次世界大戦後の拡大と深化

日本とラテンアメリカとの経済関係が急速に拡大したのは、第二次世界大戦後の1945年以降である。戦後日本の経済成長の中でたどったラテンアメリカとの関係を、特に活発化した70年代後半以降を中心に総括すると、次のようになる。

(1)輸入:ラテンアメリカはユニークなサプライソース

鉱物、エネルギー(石油、ガス)、食料など、第一次産品のほとんどを外国からの輸入に依存している日本にとって、ラテンアメリカの存在は大きい。

過去35年間、日本の輸出入額に占めるラテンアメリカの割合は5%前後で推移しており、依存度はそれほど高くないように見える。しかし、詳細に見ると、特定の主要産品ではラテンアメリカへの輸入依存度が高いことがわかる。

日本の輸入額に占めるラテンアメリカのシェア(数値は2011年実績)は▽銅:60%(チリ、ペルー)、▽鉄鉱石:33%(ブラジル、チリ、ペルー)、▽亜鉛:50%(ペルー、ボリビア)、▽鶏肉:94%(ブラジル)、▽アボカド:96%(メキシコ)、など。これは、日本政府と企業が、ラテンアメリカの政府や企業と共に、互恵的な経済関係の可能性を模索し、戦略的に開拓・育成してきた結果であり、特にこれらの商品にその傾向が強く表れている。

(2)輸出:ラテンアメリカの経済発展を支える日本の工業製品

第二次世界大戦後の日本は、原材料を海外から輸入し、それを加工して海外に輸出することで発展を遂げてきた。ラテンアメリカとの関係についても同様の構図が見て取れる。他方、ラテンアメリカは、日本からの工業製品を手に入れることで、自らの経済発展の礎(いしずえ)を築いてきた関係にある。

日本からの主な輸出品目は、1960年代が繊維、1970年代が鉄鋼製品や家電品、1980年代以降は自動車と半導体である。日本の輸出全体に占めるラテンアメリカの比率は5%前後で推移しているが、2000年代に入り、ラテンアメリカ諸国が新興国として台頭し、内需が拡大したことから、日本の輸出に占める割合は増加傾向を辿(たど)った。近年は、輸出品目も多様化しているが、自動車のように輸出比率(22%、2011年実績)が安定して高い商品もある。

(3)投資:ラテンアメリカの資源開発を中心とした直接投資

日本からラテンアメリカへの海外直接投資は、堅調に推移している。特に、資源への投資が顕著であり、2008年には30億ドルに達した。また、近年は自動車、製鉄、造船などの製造業や、食品を含めた消費・サービス分野への投資も活発化している。

(4)日本の政府開発援助(ODA):社会発展への貢献を通じた信頼関係の醸成

日本の政府開発援助(ODA)の地域配分は、ラテンアメリカに対して5-10%で推移し、その内容は、インフラ整備、中小企業育成、保健医療、教育、地域開発など、幅広い分野にまたがっている。ODAの主眼は、持続的な成長への基盤づくりと、貧困削減・格差是正に置かれており、ラテンアメリカの社会発展への支援を通じて、日本に対する信頼関係の醸成がはかられているといえる。また最近は、ハリケーン、地震や津波などの自然災害や、豊かな自然を守る環境対応にも力が注がれている。

出典:外務省「2011年版政府開発援助(ODA)白書」

ラテンアメリカとの関係の行方:グローバル社会の持続的発展への寄与

世界経済のグローバル化に伴い、ラテンアメリカと日本の経済関係は、次のような点から、今後も重要性を増していくだろう。

●ラテンアメリカ市場の拡大
各国が重点政策として取り組んでいる貧困層の削減と格差是正により、購買力のある中間層が増え、ラテンアメリカの域内市場が確実に拡大している。

●資源の確保
経済のグローバル化に伴い、鉱物、エネルギー、食料などの資源確保の重要性がさらに増すなかで、ラテンアメリカは有望資源を持つ限られた地域のひとつとなりつつある(鉱物:鉄・銅・レアアース、エネルギー:石油・天然ガス、食料:大豆・とうもろこし)。

●高付加価値製品の生産拠点
製造業やサービス産業など、ラテンアメリカの国内産業の高付加価値化が急務になっており、またグローバルな生産拠点として成長しているので、この面での日本企業との協力可能性が高い。

●総合的なインフラ整備
持続的な経済成長を実現していくためには、継続したインフラ整備、とりわけ電力、運輸、通信などが重要であり、日本が有する総合技術はラテンアメリカ諸国にとって有用である。

●環境問題や自然災害対策における取り組み
人類の課題である環境保全と自然災害への対応についても、経験を共有し、対策を講じることのできる協力分野が多い。

今後、このような分野において、日本の技術力・資金力と、ラテンアメリカの資源・労働力がうまく噛み合うことで、両地域が相互に発展し得る基盤が形成されることが期待される。特に、日本のきめ細かいサービスをベースとした安全な社会システムの形成と、台風、地震、津波などの自然災害に対する経験を生かしたインフラ整備は、ラテンアメリカに大いに貢献できると考えられる。

互恵的な経済関係の強化は、両地域に恩恵をもたらすのみならず、グローバル社会の持続安定的な発展に幅広く寄与することにもつながる。日本とラテンアメリカの関係は、そのモデルケースになり得るだろう。

(2013年3月18日記)
タイトル背景写真=コルコバードの丘から望むリオデジャネイロ市内(ブラジル)

 

  • [2013.04.08]

社団法人ラテンアメリカ協会専務理事・事務局長。1969年に慶應義塾大学理工学部を卒業後、三菱商事株式会社に入社。チリ、ベネズエラ、ブラジルに通算22年駐在し、チリ三菱商事会社取締役社長、ブラジル三菱商事会社取締役社長兼米州ブロック総括補佐、中南米総代表、ブラジル日本商工会議所名誉会頭などを歴任。2008年に同社退職。2012年6月から現職。

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