シリーズ 冷戦後日本外交の軌跡
日米同盟再定義

山口 昇【Profile】

[2012.02.10] 他の言語で読む : ENGLISH | FRANÇAIS |

1990年代、冷戦終焉でソ連という共通の敵を失い、「同盟に意味があるのか?」という疑問に直面した日米両国。ポスト冷戦期の安全保障戦略を模索する中で、日米同盟をどのように再定義していったのだろうか。

1990年代前半、日米同盟はその根幹にかかわる疑問に直面していた。冷戦の終焉によってソ連という共通の敵を失った日米両国にとって「同盟に意味があるのか?」という問いである。ポスト冷戦期における安全保障戦略を模索していた両国は、各々の政策立案過程で、冷戦後の世界においても同盟には重要な意味があるという結論に達した。公式・非公式のさまざまなチャネルで意志疎通を図りながらのことであった。1996年4月、橋本龍太郎首相とビル・クリントン大統領の間で合意された「日米安全保障共同宣言」は、そのことを両国の首脳レベルで確認するという意義を持っていた。翌1997年9月、両国政府は、作戦運用面における協力の具体的な要領を示す新たな「日米防衛協力のための指針」(新「ガイドライン」)に合意した。「日米同盟再定義」の過程である。(※1)

冷戦構造の終焉と日本のポスト冷戦戦略

そもそも日米同盟は、日本が軽武装にとどまり、国外での軍事的なコミットメントを抑える一方で、米軍に基地を提供することによって、米国に対して安全保障面での協力を求めるという関係である。外務省条約局長として旧安保条約締結のための日米交渉に関わった西村熊雄は、安保条約の性格を「一言にいえば、日本は施設を提供し、アメリカは軍隊を提供して日本の防衛を全うしようとするものである。人と物の協力である」としてその非対称性を指摘している。(※2) さらに、日本の防衛という事態を考えてみても日米両国の役割は非対称である。自衛隊が攻撃的な役割を負うことに憲法上の制約があることなどから、敵地に対する攻撃のような「矛」の役割は米国に委ね、日本は専ら防勢的な「盾」の役割に徹することとしてきた。

とはいえ、冷戦の間、特にその末期においては、日本が「盾」の役割を果たすこと自体に国際安全保障上の意味があった。欧州大陸において北大西洋条約機構(NATO)諸国が東側陣営の強大な陸軍をけん制する一方、アジア太平洋戦域において、日米同盟がソ連海空軍の進出路にあたる宗谷、津軽、対馬の3海峡を扼する日本列島周辺を堅固に守っていることは、戦略的に重要なことだったからである。1994年8月、防衛問題懇談会(樋口廣太郎座長)が村山富市首相に提出した報告書「日本の安全保障と防衛力のあり方―21世紀へ向けての展望」(「樋口レポート」)は、このことを「冷戦期における日本の防衛力は、敵対勢力による日本の国土に対する攻撃に備えることを主眼として、整備され維持されてきた・・・・日本はもっぱら個別的自衛権に基づく自国の防衛を使命としてきたが、その地勢上の位置からいって、おのずから西側陣営の対ソ戦略の中で重要な役割を果たしてきた」と解説している。(※3)

この意味は、冷戦終焉とともに姿を消す。1990年と1991年の湾岸危機・湾岸戦争は、日本にとって、「盾」の役割を果たすことの戦略的な意味が大きく低下したことを痛感する機会であった。この危機に際して日本は、世界各国からの拠出金の20%にあたる130億ドルの資金を提供した。これは、サウジアラビア、クウェートに続き第3位の拠出額であったが、多国籍軍と行動をともにする人的な貢献がなされなかったため、日本に対する国際社会の評価は高くなかった。1991年3月にクウェート政府が米国内の主要メディアを通じてクウェート解放に努力した諸国に対する謝意を表したとき、貢献国のリストに日本の国名はなかった。日本の動きは「小切手外交」と揶揄された。

日本の外交政策において、国際的な平和維持・平和構築のために防衛力を活用することが考えられるようになったのはこの頃である。1991年、湾岸戦争直後のペルシャ湾に海上自衛隊掃海部隊を派遣して機雷除去にあたらせたのを嚆矢とし、1992年には、カンボジアにおいて自衛隊として初めての国連PKOに参加した。前述の「樋口レポート」は、「平和維持活動をはじめ、国際安全保障を目的として国連の枠組みのもとで行われるさまざまな多角的協力に可能な限り積極的に参加することを、自衛隊の重要な任務とみなすことが肝要」であるとした。この考え方は、1995年に策定された「防衛計画の大綱」(「95防衛大綱」)にも反映された。「95防衛大綱」は、防衛力が担うべき役割として、(1)我が国の防衛、(2)大規模災害等各種の事態への対応に加えて、(3)より安定した安全保障環境の構築への貢献を明記し、この視点から国際平和協力業務などに積極的に取り組むこととした。(※4)

一方、1993年から1994年にかけての第一次北朝鮮核危機、1993年5月の北朝鮮によるノドン・ミサイル発射などを背景として、日本の周辺における安全保障についての関心も高まった。日本に対する直接的な攻撃にはいたらないものの、日本の安全にとって看過できないような事態を想定することの必要性が浮上したのである。これを受けて「95防衛大綱」は、「我が国周辺において我が国の平和と安全に重要な影響を与えるような事態が発生した場合には・・・・・日米安全保障体制の円滑かつ効果的な運用を図ること等により適切に対応する」と謳った。1996年から1997年にかけて策定された新「ガイドライン」を巡る議論において焦点となった、いわゆる「周辺事態」の前身である。この点は、前述した防衛力の役割(1)~(2)の中では、(2)項、すなわち大規模災害等各種事態への対応に付記された形で整理されたこともあって、注目されることもなかった。「周辺事態」として関心を集めるのは、新「ガイドライン」策定をめぐる議論の中である。ともあれ、「95防衛大綱」は、冷戦間を通じて我が国の防衛一辺倒であった防衛力の役割を拡大した。地域的な、さらには、地球規模での安全保障問題に関しても我が国の防衛力が一定の役割を果たすべきであるということを指摘したのである。

同時に「95防衛大綱」は、日米同盟の意義を強調した。その冒頭には「日米安全保障体制の信頼性の向上に配意しつつ、防衛力の適切な整備、維持及び運用を図ることにより、我が国の防衛を全うするとともに、国際社会の平和と安定に資するよう努めるものとする」とある。また、「95防衛大綱」は、13カ所において日米安全保障体制に言及しているが、1976年に策定された旧「防衛大綱」における記述がわずか1カ所であったことに比較しても、日米同盟を重視した政策文書であるといえる。(※5)

「95防衛大綱」の要点
  • 防衛力の役割
    1. 我が国の防衛
      • 侵略の未然防止
      • 侵略への対応
    2. 大規模災害等各種事態への対応
      • 自然災害等への対応
      • 周辺事態への対応(新「日米防衛協力の指針」(新「ガイドライン」)の「周辺事態」の前身)
    3. より安定した安全保障環境の構築への貢献
      • 国連PKO等
      • 防衛交流・安保対話等
      • 軍備管理・軍縮への協力

    ⇒地域的、地球規模での安全保障問題に関しても日本の防衛力が一定の役割を果たすべきと指摘

  • 日米同盟の意義
    • 「日米安全保障体制の信頼性の向上に配意しつつ、防衛力の適切な整備、維持及び運用を図ることにより、我が国の防衛を全うするとともに、国際社会の平和と安定に資するよう努めるものとする」
    • 13カ所で日米安全保障体制に言及(「76防衛大綱」では1カ所)

    ⇒日米同盟を重視

(※1)^ この間の経緯を解説した文献は数多い。例えば、柴田晃芳『冷戦後日本の防衛政策』北海道大学出版会、2011年;外岡秀俊、本田優、三浦俊章『日米同盟半世紀:安保と密約』朝日新聞社、2001年、486-540頁;Yamaguchi Noboru, “Japanese Adjustments to the Security Alliance with the United States,” Michael Armacost and Daniel Okimoto (eds.) The Future of America’s Alliances in Northeast Asia, Washington: Brookings Institution Press, 2004, pp. 73-90.

(※2)^ 西村熊雄『安全保障条約論』時事通信社、1960年、40頁

(※3)^ この有識者懇談会は、1976年に策定された「防衛計画の大綱」を見直す作業に先立ち、1994年2月、非自民連合政権の細川護煕首相によって設置された。その後、懇談会は、羽田孜首相、ついで誕生した自社さ連立政権に引き継がれ、8月12日、村山富市首相に「樋口レポート」が提出された。防衛問題懇談会〔原編〕、内閣官房内閣安全保障室編集『日本の安全保障と防衛力のあり方―21世紀へ向けての展望』大蔵省印刷局、1994年

(※4)^ 「平成8年度以降に係る防衛計画の大綱」、1995年11月

(※5)^ 「昭和52年度以降に係る防衛計画の大綱」、1976年10月

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防衛大学校教授。タフツ大学フレッチャー法律外交大学院修士課程修了。在米日本大使館防衛駐在官、防衛省防衛研究所副所長、陸上自衛隊研究本部長などを経て、2009年から現職。

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