シリーズ 日本政界を担う政治家たち
【第1回】齋藤 健(衆院議員)
時代が求める政治家の資質が変化している

竹中 治堅 (聞き手)【Profile】

[2011.10.03] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

混迷が続く日本の政界に未来はあるのか。今後が期待される与野党の政治家に切り込む新シリーズがスタート。初回は当選1回ながら党内きっての政策通として注目の自民党・齋藤健衆院議員。

時代の変革に、日本の政治はついて行けない


齋藤 健
SAITŌ Ken

1959年生まれ。東大経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)で、エネルギー行政、中小企業行政、IT政策などを幅広く担当。94年から日米自動車交渉に携わり、通産大臣秘書官などを経て、埼玉県に副知事として出向。2006年に退職、政界入りを目指す。2009年8月比例南関東ブロックで初当選。著書に『転落の歴史に何を見るか』(ちくま文庫)。

竹中 2006年以降、1年に1人ずつ首相が代わるという現象の中で、日本の政治は海外でも非常に懸念されています。そこで、この混迷の原因や今後の政策課題について、これからの日本政界を担う人々に聞いていこうという連載です。

そこで、日本の政治が混迷している最大の原因は、何だと考えていますか。

齋藤 選挙制度の問題など、いろいろな要素がありますが、一番の問題は、日本が時代の転機に入ったことだと思います。つまり、戦後の高度成長期以降1990年代までは、税収も雇用も増え続け、経済も成長を続けるという前提の中で、利益をどう分配するかというのが政治の主な仕事でした。分配が得意な政治家、要するにボスの政治だったわけです。今では分配する利益も減り、政治家に求められる資質が大きく変わった。しかし、残念ながら日本の政治は相変わらず、ボス的な政治を続けている。それがうまく行かない状況だと思います。

竹中 ボスの政治というのは、過去に自民党が得意としていた利益誘導型の政治ですか。

齋藤 はい。自民党が選挙で敗れたのもそれが理由でしょう。これからの政治では、昔と違って国民が嫌がるようなことでもやって行かなくてはいけないと思います。今まで機能していた日本の政治のやり方が通用しなくなっているのに旧来型のボスが政治を行っていて、政治手法の切り替えが遅れているというのが、現在の混迷の最大の理由ですね。

産業空洞化対策は、「被災地の法人税ゼロ」

竹中 では、今の日本経済の最大の課題は何だと考えていますか。

齋藤 産業の空洞化だと思います。海外に出ていく企業が増えると、雇用も税収も失われて、非常にまずい状況になります。以前からその傾向はありましたが、民主党政権ができてから特に状況が悪化しました。製造業の派遣禁止、最低賃金1000円、15年間でCO2を30%削減。さらに1ドルが75円になり、法人税は40%。今後は震災と原発事故の影響で、電力料金が高くなり、安定供給もままならなくなる。こんな状態で、国内で製造業を続けろと言われても、どれだけできるか。海外に出ていく企業が劇的に増えるわけです。

竹中 深刻ですね。どうやって製造業流出を食い止めますか。

齋藤 今、アジア各国では世界のエクセレントカンパニーの誘致合戦が盛んに行われています。韓国も、中国も、タイも、ものすごく力を入れている。日本もエクセレントカンパニー獲得競争に参加して勝つくらいの意識を持たなければならない。例えば東北の被災地に新規に工場を建てるなら、5年間法人税タダというくらいのことをやらないと。

竹中 それぐらいドラスティックなことが必要ですか。

齋藤 労働規制を自由にする、法人税をタダにする、固定資産税をタダにするというような、被災地に企業が新しい工場を進出できるような環境をセットで提供する。全国でやるのは確かに難しいでしょう。被災地だからこそできる。「不公平だ」と言う意見も出てくるだろうが、それを説得するのが政治の役割だと思う。

竹中 自民党の中で同じ考えを持つ議員はどれくらいいますか。

齋藤 漠然と考えている人は多いだろうが、本気でやろうと思っているのは数人くらいですね。それでも、私はやりますよ。産業空洞化対策は絶対やると決意しています。

竹中 具体的にはどのように進めるつもりですか。

齋藤 今度できる復興庁に被災地での施策に関する権限が集約される。またよく言われる特区構想などを組み合わせ、必要なら議員立法も考えていく。一番大切なのは、「絶対にやる」という政治の意思だと思う。

震災復興に欠けているスピード

竹中 震災復興という点で、民主党政権に不足しているものは何でしょうか。

齋藤 スピードです。震災発生から半年が経とうとしているのに、ガレキの処理がなぜ進まないのか不思議でしょうがない。復興予算も実際に被災地での支払い手続きが遅れている。以前の自民党の時代なら、「俺が責任取るからやれ」という大臣がいて、それでも役人が動かなければ「ふざけるな!急げ」と尻をたたく議員もいた。そうすると役人も動く。しかし、民主党の政治家は、文句ばかりで人や物を動かす具体策に欠ける。たまに役人が自主的に動くと「指示も出してないことを勝手にやるな」と怒鳴る。役人は委縮してますます動かなくなる。

竹中 民主党政権になってから官僚が委縮したという話はよく聞きます。

齋藤 特に経済産業省は原発事故以降、ものすごく委縮している。新しいことをやろうとする意欲が失せているようで、復興案が何も出てこない。とにかく政務三役の指示を待っているという状態。本当は、一日も早く民主党政権を倒し、政権交代を実現するのが一番いいが、それができないなら、自民党内では評判が悪いが、私は震災復興に限定した大連立でもよいと考えている。

竹中 復興財源についてはどのように考えていますか。増税は必要でしょうか。

齋藤 復興債を発行して50年程度で返せばいいと考えます。5年で返そうとすれば増税も必要になりますが、国の大規模な支援が必要となるような自然災害は数十年に一度ですからそれなりの年月をかけて少しずつ返せば増税は必要ない。今回の震災は1000年に一度と言われていますが、1000年かけて返すのでは長すぎる(笑)

外交の要は日米関係

竹中 外交についておたずねします。今の日本にとって最も重要な外交課題は何だと見ていますか。

齋藤 日米関係です。民主党政権になり普天間基地の移転が頓挫して2年間、日本はいろいろなものを失いました。その一つが領土問題。北方四島も、竹島も、尖閣諸島も、2年間で大きく後退した。日米関係がしっかりしているときには動かなかったロシア、韓国、中国が、「今がチャンスだ」とばかりに強気になっている。結局、信頼関係に基づく日米関係を再構築することが、回り道に見えても日本の外交を立て直すための第一歩です。史上最高値を更新した超円高にしても、日米関係がしっかりしていればと思う。

竹中 円高も安全保障とリンクされていると考えますか。

齋藤 為替の問題では日本が困るときもあれば、アメリカが困るときもある。だからこそ、これまで助け合ってきた。協調介入まではできなくても、財務官あたりが動いて、最後は大臣ベースで話をまとめ、「この円高は行き過ぎ」くらいの日米共同声明が出ていてもおかしくない。

竹中 確かにそうですね。ふつうは財務官がやりますね。

齋藤 もしかしたら、財務省も指示がないからやらないだけかもしれない。

竹中 「勝手に動いた」と文句を言われるから指示を待っている。しかし、指示を出す側に知見がないから、円高がどんどん進行してしまう。

齋藤 これが民主党の言う政治主導の実態ですよ。日米関係の再構築のためには、まずは、普天間移転。自民党が約15 年かけてまとめた元の案に戻して、沖縄の人々と粘り強く話し合っていくしかないでしょう。

首相になったら日米安保の見直しを

竹中 齋藤さんは自分が総理大臣になったら具体的には何を実現したいと考えていますか。

齋藤 私は、今まで一度も小選挙区での選挙に勝ったことがありません。だから、「首相になったら」ということは考えられないのが実情です(笑)。とにかく、どうやったら次の選挙に勝てるのか、ということで精いっぱい。次の選挙で勝って、その次も勝って、また勝って、少しくらい余裕が出てきたら考えられるかもしれない。

もちろん、政治家という道を選んだ以上、やりたいことはあります。日米安保の見直しです。全然票にはつながらないけど(笑)

竹中 具体的にはどういう形を目指しますか。

齋藤 憲法9条をどうするというような理念ではなくて、現実に、自分の国は自分で守るという方向を目指します。何かあったら「早くアメリカが来てくれないかな」ではおかしいでしょう。国民に「自分の国を自分の手で守れていますか」と問いかけたい。日米安保を日本が自立する方向で見直すことで、日本人の意識もピリッとしたものに変わってくると思う。

竹中 他には?

齋藤 社会保障と税の一体改革も避けては通れない。自立という点では安保と似ていますが、社会保障についても「国の支援はここまで。あとは自分で」という明確な制度をつくっていきたい。あいまいな形で国が最後まで面倒を見てくれるのではと思われると、自立を考えずに甘える人が増えてしまう。

竹中 国民の間では「国は最後まで面倒を見るべき」という考えも多いですね。

齋藤 そうだと思います。だから「ここまで」「あとはやりません」とはっきり言う。そうすれば、自分で考えるしかなくなる。

政治家を消耗させる日本の選挙

竹中 そういう政策を実現するためにも、まずは選挙、ということになるのでしょうが、現実問題として、選挙はそれほど大変ですか。

齋藤 エネルギーと時間をものすごく取られます。僕の選挙区は千葉県の東京寄りで、毎日、国会と選挙区を往復しています。昼は国会に出て、夕方から地元の幼稚園の納涼祭に行って、また東京に戻って別の会合に出たこともあります。

竹中 週末はお祭りなどの地元のイベントですか。

齋藤 夏の間はお祭りが多いですね。今年一番多かった日は10件はしごしました。町内会や商店会などの小規模なお祭りで、家族ごとにレジャーシートを敷いて楽しんでいるところを、一軒ごと全部回って名刺を配って歩く。全力でお祭り会場を駆け回る。

竹中 選挙活動の一環でしょうが、本当に必要なんでしょうか。

齋藤 当選するには必要だし、政治活動としても必要かもしれない。有権者の生の声を聞けるのは大きいです。永田町や霞が関の感覚とは全く違うということが実感として分かります。

竹中 齋藤さんも霞が関(経済産業省)の出身ですが、有権者の感覚と具体的に「これは違う」と思ったことは何ですか。

齋藤 まず、役人に対して本当に嫌悪感を持っているということです。嫌われているだろうと思っていましたが、想像をはるかに超えていました。マスコミによる官僚たたきの影響もありますが、実際に「仕事で〇〇省に行ってひどい目にあった」という実体験を持っている人も多い。「役人でもいいやつはいる」なんて言ってくれるのは1000人に1人くらいで、あとは本気で役人に対して怒りを持っている。

竹中 そういう不信感を持つ人と、どんな風に話をするんですか。

齋藤 できるだけ多く人と接して自分を知ってもらうだけです。さっきのお祭りじゃないけど、会った人全員と握手して「選挙弱いので頼みます」と頭を下げる。政策を言わなくていいのか、それだけで分かるのか、と言われるかもしれませんが、人間は誰でも多くの人に会った経験を持っていますから、一瞬でも触れ合えばそれなりに相手に対して悪い人間かどうかぐらいは判断できるのではないかと思います。

竹中 政策よりも握手ですか?

齋藤 両方必要ですが、政策を真面目に聞いてくれる人は少ない。一方で、腰を低くしてずっと挨拶していると「役人出身なのに腰が低いね」となる。役人出身だとそれだけでプラス評価(笑)

竹中 選挙区での活動に時間を取られる中で、政策について考える時間をどうやってつくっていますか。

齋藤 平日の議員会館にいる時間帯に、訪問客と政策についてのディスカッションをすることもあれば、自民党の会議で勉強することもあります。僕は経済産業省で、経済政策やエネルギー政策、通商交渉をやってきた。そういうベースがあるからなんとかこなせている。しかし、何の経験もなくて国会議員になってしまったら、実際の法案をつくっていくための高度な議論について行くのは難しいと思います。

日本の選挙、特に衆議院の小選挙区はあまりにも議員を消耗させる。英国では党の宝といえるような政治家に絶対勝てる選挙区を与えることもありますが、日本ではそういう措置はまったくない。全国の小選挙区で、どぶ板選挙が行われている。

竹中 政策を考える人がいなくなりますね。

齋藤 だから、官僚がやっていたわけです。

政治家は結果責任

竹中 最後に理想のリーダー像をさぐる意味でも、戦後の日本の首相の中で、一番尊敬できる方を教えてください。

齋藤 中曽根康弘元首相です。今、振り返ってみると、外交面ではロンヤス関係で日米関係をしっかりと築き、国内では国鉄改革をはじめとする多くの改革を成し遂げた。危機管理においても、大韓航空撃墜事件の対応も見事だった。官房長官が後藤田正晴氏で。中曽根―後藤田ラインは最強でしょう。やはり、政治家の評価は結果ということにつきると思います。


衆院議員会館の事務所内の齋藤氏の机。ここから政策が生まれる。

撮影=高島 宏幸

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  • [2011.10.03]

nippon.com 編集企画委員。1971年東京都生まれ。1993年東大法卒、大蔵省(現財務省)入省。1998年スタンフォード大政治学部博士課程修了。1999年政策研究大学院大助教授、2007年准教授を経て現在、教授。主な著書に『参議院とは何か 1947~2010』(中央公論新社/2010年/大佛次郎論壇賞受賞)など。

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