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【富士通】世界初の犬の歩数計 愛犬の肥満解消に一役

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富士通は、世界で初めて、愛犬専用の歩数計「わんダント」を開発した。首輪につけた歩数計とクラウドコンピューティングを活用して、愛犬の健康管理をサポート。ペットの運動不足解消に一役買っている。

ペットも糖尿病

ペットブームで犬や猫を室内で飼育している人が増えている。そこで、飼い主が気になるのがペットの運動不足。

「最近では、ペットも人間と同じように肥満や糖尿病が問題になっています。運動不足に悩む人間が歩数計でする健康管理を、ペットでもできないかと思ったのです」と話すのは、開発者の富士通ユビキタスサービス事業本部マネージャーの三ツ山陽子氏。

自身もトイプードルを2匹飼育しており、大切な家族である愛犬の健康管理には気をつかっていた。自社で開発した携帯電話の歩数計アプリに目をつけた三ツ山氏は、ペット用の歩数計を開発したいと提案。スタッフはみなおもしろいというものの、本当にできるのかという声もあった。とにかくやってみようという上司の一言で、開発が決まった。

犬の一歩をどう測る?

歩数計の開発は、センサーとビデオカメラで犬の走り方のデータを集めることから始まった。「4本足の動物の歩行データなどありませんから、まずは大型犬から小型犬まで、100匹以上の犬のデータを半年かけて集めました」と三ツ山氏。いざ測定しようとしても、犬がなかなか歩いてくれなかったり、犬の走るのが早すぎて追いつけなくなったりと測定するのにまず一苦労。さらに、犬の種類や大きさによって、足の長さや走り方も違うし、1歩の動きを前足でとるのか、後ろ足でとるのかで計測値が異なってくる。

試行錯誤の連続だったが、走り方を5種類のパターンに分けることで、ようやく1歩を定義することができた。歩くときの1歩は、前足の片方が着地するとき、走るときの1歩は、両足が浮いて着地するときとし、この要領で歩数をカウントすることにした。

センサーを使って、犬の歩き方を計測。

こうして、前後、左右、上下の3方向の加速度の変化を検出できる3D加速度センサーと、センサーの値をもとに犬の前足が動く速さや足の長さをベースに歩数を測定する動作推定技術を組み合わせることで、世界初の愛犬用歩数計「わんダント」が誕生した。携帯電話のアプリ開発で培ったセンサー技術を動物用に応用したものだ。ただし、猫と犬では、歩き方が全く違うので、「わんダント」を猫に使うことはできない。

歩数計では、前足を動かす1歩の動作に加え、犬が「ぶるぶる」と体を震わす動作や首回りの温度も測定できるようにした。震える動作は、不安やストレスを感じた時に行うしぐさで、「ぶるぶる」をとらえることで、愛犬のストレス度をチェックできる。また、温度変化で愛犬の環境を把握し、熱中症対策などを行うこともできるという。

とことん軽量化を図る

歩数計の開発で、徹底的にこだわったのは軽量化だ。一日中首輪に装着しておくので、愛犬が気にならないようなるべく軽くしたかったからだ。装置にGPSや液晶画面をつけるなどのプランもあったが、軽くするためにすべてあきらめた。さらに、装置をFelicaにし、ボタン式電池にすることで、16gにまで軽くすることができた。Felicaとは、小型のICチップを搭載したカードで、そこにスマートフォンやパソコンなどを近づけるとデータのやりとりができる。データは、専用のクラウドに送信される。

愛犬が誤って歩数計や電池を飲み込まないように歩数計は四角い形にし、電池の取り出し口ははずれにくいねじ式にした。ねじで開け閉めするのは少し面倒だが、愛犬の安全を優先した。

愛犬の毎日を把握できる

歩数は1時間ごとに集計され、グラフで示される。大きいピークは、歩数が多いとき。たくさん運動したことがわかる。

「わんダント」は、歩数計デバイスとパソコン、クラウドコンピューティングが一体となったシステムで、デバイスのセンサーが犬の動きをとらえ、データをクラウドに送ると、クラウド上で瞬時にデータのアルゴリズムを解析する。歩数は時間とともにグラフで表示され、あわせてふるえの回数や首回りの温度も表示される。

この歩数計を使えば、飼い主が留守でも、グラフから愛犬の1日の行動を把握することができる。例えば、歩数がゼロなのでこの時間は寝ていたとか、歩数が多いので激しい運動をしたといった具合だ。見守りカメラのように愛犬を終始撮影しているわけではないが、データから犬の行動が浮き彫りになる。グラフから愛犬の動きを想像するのも、帰宅後の楽しみだというユーザーの声もあるそうだ。

愛犬のエース君と開発者の三ツ山氏。

専用のウェブサイトには、食事の量などを記録して愛犬の体調変化を把握したり、写真や日記を記録したりして、成長アルバムとしての活用例が紹介されている。「愛犬の健康管理を手軽にすることができるばかりではありません。動物は話せませんが、毎日の行動やしぐさから愛犬の気持ちに寄り添うことができます。『わんダント』が、愛犬との関係をより密にしてくれるツールでもあるのです」と三ツ山氏は話す。

「『わんダント』は、ペットの犬の体調を把握する指標の一つである活動量を、毎日、わかりやすく記録してくれるので、飼い主さんの役に立ちそうですね」と獣医師の土谷佳峰氏は言う。「最近では、ペットとして室内飼いできる小型犬が人気となっています。小型犬といっても十分な運動が必要なのですが、現実にはなかなか難しいようです。肥満になったり、足腰の関節を痛めたりする犬が増えています。

運動不足になれば、犬も人間も同じような症状になります。ペットは自分で体調管理したり、ダイエットしたりすることはできませんから、飼い主がペットの体調を管理してあげなくてはいけないのです。こうしたペットの健康器具も今後ニーズが高まってくるのではないでしょうか」

富士通では、今後はデータをクラウドで一括管理し、医療機関や研究機関とつなげて健康管理を支援する医療クラウドやペットの行動や健康に関する研究へと発展させる予定だという。

取材・文=佐藤 成美

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