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“着やせ”も実現。理想の体型を追求する下着【ワコール】

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今や下着はボディメイクに留まらず、「骨格の美しさ」などを追求している。設立50周年を迎えたワコール人間科学研究所は、毎年1000人の女性の人体計測を実施。科学的な分析に基づき、数々の下着を開発中だ。

「動き」や「骨格の美しさ」を追求―変わる下着の役割

「よせて、あげる」のキャッチコピーで知られる「グッドアップブラ」(1992年発売)は、カップ下部と上部に弾力性の優れたアモルファスファイバーを使用した「ツインワイヤー」という独自技術で、バストを下と横から持ち上げるようにして“胸の谷間”を作り出した。日本の女性たちに「自分の望むボディラインは作れる」という意識を広めたワコールの大ヒット商品だ。

2014年7月に発売された最新ブラジャー「約束のブラ」(バナー画像)では、「寄せて上げて」に加えて「着やせ」まで実現。カップサイドからストラップを連結させた「寄せ上げシート(特許出願中)」でバストのふくらみをつくり、八の字に配置した「着やせナナメボーン」で土台とワイヤーを固定し、脇をすっきりシェイプして見せる。

そして、今や下着の役割はボディメイクに留まらず、「動き」や「骨格の美しさ」を追求するところまできた。

働く女性をサポートする“着席美人”

デスクワークの新習慣「着席美人」。腰からおなかのラインで、座っているときでも骨盤が後ろに倒れないようにサポート。「約束のブラ」とコーディネイトして着用すれば、さらに美しい座り姿勢を実現できる。

2014年夏に発売された「着席美人」は、椅子に座っているときに骨盤が後ろに倒れていることを防ぎ、骨盤が立った状態の美しい座り姿勢をキープできるガードル。腰からおなかにかけて、体の前後から骨盤を支えるようにサポート素材が使用されており、立っている状態ではヒップアップし、座ったときに骨盤を立たせる。

「オフィスで働く女性の多くがほぼ1日中椅子に座った状態で仕事をしています。座っているとどうしても姿勢が前かがみになり、骨盤が後ろに倒れやすくなり、腰に負担がかかります。私自身も日中は座っていることが多い仕事なので、長時間座っていても疲れにくい下着がほしいという思いから開発したのが“着席美人”です」とは、その開発に携わった人間科学研究所の坂本晶子さん。

加齢による体型変化のメカニズムを解明

ワコール人間科学研究所では、女性の体を科学的に研究し、データに基づいた商品開発を行ってきた。毎年、4歳から69歳までの約1000人に身体測定を実施。これまでの50年間で計測してきた人数は40,000人以上にものぼる。そのうち200人の女性には半年ごとの追跡調査を行い、約30年にわたる時系列データにまとめた。こうして得られた貴重なデータから明らかにしたのが、加齢による体型変化の法則(図「加齢によるバストの形の変化」「加齢によるヒップの形の変化」)だ。

まず体全体がふっくらとしてくびれがなくなり、バストやヒップが垂れ下がってくる。最終的に、ヒップは内側に、バストは外側に流れてしまう。こうした変化があらわれる年齢は人それぞれだが、変化の順番はどんな人にも共通だ。しかも、一度次のステップに進んだら元には戻らない。

【加齢によるバストの形の変化】20代からバストの下垂は始まり、20代でステップ2の人もいる。

【加齢によるヒップの形の変化】変化が始まる年齢は人によって異なり、40代でステップ0の人もいる。

「年齢によりホルモンバランスが変化し、乳腺と脂肪の構成比は変わります。成長期にある10代のバストと40代以降のバストでは乳腺や脂肪の量が違ううえに、皮膚の弾力性や柔軟性も年齢とともに変化しますから、ブラジャーを選ぶときにはサイズを合わせるだけでなく、今の柔らかさや形に合ったものを選ぶことが重要です」(坂本さん)

これまでの計測データを元に作られた20代(左)と40代(右)のバスト模型。形だけでなく柔らかさまで再現しており、40代のほうがやや下垂している。

若々しい体型を維持するための生活習慣

体型の計測に加えて、インタビューにより行動や意識も調査したところ、いくつになっても体型が変わらない人には共通の生活習慣があることがわかった。ポイントは、「左右バランスのとれた美しい姿勢」、「よく歩く」、「歩くのが早く歩幅が広い」、「規則正しい食生活」、「良質な睡眠」などだ。しかも、こうした生活習慣を10年、20年という長期にわたって継続している人は、いくつになっても若々しい体型を維持しているという。

長年続いた生活習慣を変えるのは容易ではないが、ワコールでは姿勢や生活習慣を変えるような商品も数多く開発している。生活習慣を変える第一歩として、まず下着を変えてみるという方法もある。

「フィットネスウォーカー」「クロスウォーカー」は、テーピングのようなサポート素材が太ももや股関節をサポートする構造で、履いて歩くと歩幅が広くなり、歩くスピードがアップ。カロリー消費に適したエクササイズ歩行になり、フィットネスをしているような効果が期待できるという。

独自システムで「心地よさ」を定量化

【衣服の圧バランス適合性評価システム】下着をつけた状態で足踏み運動を行い、各部に取り付けられた圧力センサーでズレや締め付け具合を調べる。

ボディラインを整え、姿勢や動きのコントロールまで可能になった下着だが、どんなに機能面が充実しても、つけ心地が良くなければ商品として評価されない。

「肌触りやむれ具合、動いたときのズレ具合など、心地よくつけられることが第一です。毎日身につけるものだからこそ、耐久性やデザイン性などもとても重要で、機能以外にも多くの要素を加味して商品開発を行っています」(坂本さん)

直接肌に触れる下着は、締め付けすぎても苦しく、動いてズレるようでも不快だ。そこで、ワコールでは加圧刺激に関して独自に開発した「衣服の圧バランス適合性評価システム」を使い、「心地よさ」を定量的に評価している。

体型の計測については、昔ながらのメジャーを使った計測を基本として、レーザーによる「非接触三次元計測装置」を導入。体に触れることなく、全身を立体で統計解析ができる。また、必ずしも定量化できない感覚的な部分についても、女性研究員の“五感”により計測する。

非接触三次元計測装置の操作デスクに座る人間科学研究所の坂本晶子さん。

こうして、あらゆる世代の女性のデータを取り、属性ごとの特徴に合った商品を開発。さらに、運動時や就寝時、オフィスで仕事をしているときなど、シーンごとに適した下着を提案している。

「普段なにげなく身につけている下着ですが、ライフスタイルや将来の美しさにも関わるものだと、少しでも意識してもらえたらうれしい」と話す坂本さん。

ライフスタイルの変化に伴って、また新たなコンセプトの下着が誕生するに違いない。

取材・文=牛島 美笛

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