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絶対に緩まないナットを世界に——ハードロック工業
メンテナンス不要でコストも大きく削減
[2011.11.10] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | Русский |

絶対に緩まない「ハードロックナット」は、大阪の神社の鳥居にヒントがあった。約40年前に発明され、世界的な商品に成長した。顧客の喜ぶ顔を励みに、社長の技術革新は終わらない。

日本が誇る高速鉄道、新幹線。16両編成で2万本ものボルトが使われている。時速250キロメートルでの走行中、もしボルトを締めるナットが外れ重要装置が脱落すれば大事故につながる。それを回避するための点検と締め直しには気が遠くなるような労力と費用がかかってしまう。ハードロック工業(東大阪市)の若林克彦社長(78)が発明した、絶対に緩まない「ハードロックナット」は、低いコストでしっかりと新幹線の安全走行を支え続けている。

【企業データ】
ハードロック工業株式会社
住所:〒577-0063東大阪市川俣1丁目6-24
代表者:代表取締役社長 若林克彦
事業内容: HLN(ハードロックナット)、HLB(ハードロックベアリングナット)、SLN(スペースロックナット)、HLS(ハードロックセットスクリュー)他 上記の製造及び販売(すべて特許商品)
資本金:1000万円
従業員数:49人
Website: http://www.hardlock.co.jp/

クサビとハンマーの2個ナット

「ハードロックナット」のアイデアはとてもシンプルで、ナットとネジの間にクサビを打ち込んで緩み止めの効果を発揮させるというもの。だが、施工現場でナットを使うたびにクサビを打ち込むのは非効率で、現実的でない。若林さんは、どうしたらナットにクサビの役割を持たせられるか、必死に考えた。

若林さんが考えついたのは、1本のボルトに「凸凹」形状の2つのナットと使う方法。凸形状の下ナットは、凸形に加工する際に芯を少しズラすこと(偏芯加工)でクサビの役割を果たす。凹形状の上ナットは、凹形に加工する際に芯をズラさないこと(真円加工)で、ハンマーでクサビを打ち込む機能を実現した。2つのナットががっちりかみ合えば、緩みがまったく起きなくなる。

ハードロックナット

ナットとの出会いが人生を変えた

ナットとの出会いが人生を変えた。

若林さんとナットとの出会いは会社員時代の1961年、大阪で開かれた国際見本市。サンプル品として持ち帰った「戻り止めナット」だった。ステンレス製針金を留め金にして緩みを防ぐ複雑な構造で価格も高かった。若林さんは「もっと簡単で安くできないか」と考え始めた。

やがて板バネでボルトのネジ山をはさみつける方法を思いつき試作すると、思った通りの効果を発揮した。若林さんは、「Uナット」と名付け、1962年に実弟ら3人で製造販売の会社を設立した。その後の約10年間、事業は順調に発展したが、新たな苦難に直面してしまう。

「緩まない」と言いながら、「Uナット」は削岩機や杭打ち機に使われ強い衝撃を受け続けると、緩みが出るケースが現れた。市場に広く出回るにつれクレームも増えた。若林さんは「絶対に緩まないナットを発明しなければ」と思い詰め、苦しんだ。

1973年暮れ、若林さんは自宅近くの住吉大社(大阪市住吉区)に立ち寄った際、大鳥居を見上げてハッとした。「ああいうクサビを打ち込めば緩まない」……。早速、ナットとボルトの隙間にクサビを打ち込むと思った通りであった。見慣れた神社でもらったヒントに、若林さんは「神様のお告げだったかも」と話す。

ハードロック工業を設立

若林さんは「ハードロックナット」の成功を確信、これ一本に賭けることを決め、現在の会社を74年立ち上げた。「Uナット」の事業は、会社の関係者にほとんど無償で譲ってしまったが、今でも「ハードロックナット」に匹敵するライバル商品として売れている。

「ハードロックナット」は1976年、関西の大手私鉄から電力設備向けに採用され、その後事業は急成長していった。

「ハードロックナット」は、世界一厳しいとされNAS(米国航空規格)の振動試験でも優秀な成績を示した。価格は普通のナットの4倍から5倍だが、一旦締めればメンテナンスは不要だ。保守点検に必要な費用を大幅にカットできる。

世界の様々な産業分野で使われている。

これまでに豪州、英国、ポーランド、中国、韓国の鉄道で採用され、台湾の新幹線でも開業以来、人身事故ゼロを誇っている。BBC(英国放送協会)が2006年、英国内で起きた鉄道事故を検証するドキュメンタリー番組で「ハードロックナット」の有効性を紹介するや、同国の鉄道が一斉に採用に踏み切った。

鉄道の他、日本では世界最長の吊り橋である明石海峡大橋や、自立式電波塔として世界一の東京スカイツリーで採用。米国のスペースシャトルの発射台や海上掘削機など世界各国・地域で使われている。

さらに、世界最大の航空機メーカーの米ボーイング社、欧州のロールスロイス社からも引き合いがあり、現在は航空機向けの軽量化に取り組んでいる。

航空機メーカーからも引き合い

大人も乗れるミニ列車が来客を喜ばせる。

発明家・若林さんは「ハードロックナット」が世界的な商品になった今も技術革新に余念がない。ナット1個タイプで作業の効率が上がる「スペースロックナット」、軸受用ゆるみ止めナット「ハードロックベアリングナット」など新商品を次々に開発し続けている。

若林さんは有数の鉄道模型のコレクターで、鉄道模型と過ごす時、アイデアもひらめくという。工場2階にはコレクションの展示コーナーも開設。大人10人が乗れるミニ列車が一周100メートルの線路を走る。工場の見学客が列車に乗せてもらい大はしゃぎするそうだ。若林さんは、ビジネスでも趣味でも「人に喜んでもらうのが何より嬉しい」と話す。レールをつなぐボルトにはもちろん「ハードロックナット」が使われ、乗客の安全を守っている。

撮影=尾上 達也

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  • [2011.11.10]
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